1 受託者の裁量が大きい裁量信託と信託目的の不備による有効性
2 裁量信託の有効性
3 信託目的の役割(設定の必要性)
4 信託目的の特定の程度
5 受益者指定権の設定による裁量信託のバリエーション

1 受託者の裁量が大きい裁量信託と信託目的の不備による有効性

信託では,受託者が財産の管理や処分を引き受けます。
この点,受託者の自由が大き過ぎるケース(裁量信託)では,信託の有効性が問題となります。
また,信託の目的がしっかりと決まっていない場合にも,同様に,信託が無効となる可能性があります。
本記事では,裁量信託や信託目的が不十分な信託の有効性について説明します。

2 裁量信託の有効性

受託者受益者を指定できるという信託を設定することができます。
詳しくはこちら|受益者指定権・変更権を用いた信託の基本・具体例・課税
この場合は,受託者が自由自在に信託財産の行方を決められることになります。
違和感があるとも思えますが,だからといって信託が無効となるわけではありません。
ただし,信託目的による受託者の裁量の制限がない場合には,このことを理由として信託が無効となる可能性があります(後記)。

<裁量信託の有効性>

あ 裁量信託の内容

受益者や受益内容が定まっていない
受託者が裁量に基づいてこれらを定める(※1)

い 裁量信託の具体例

受託者に受益者指定権がある

う 裁量信託の有効性(原則)

裁量信託は有効である

え 信託目的不備による無効

受託者が完全に自由に受益者を決められる場合
信託目的が定まっていないことになる
→信託の設定自体が無効となる(後記※2)
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p299

3 信託目的の役割(設定の必要性)

一般的に信託において,信託の目的を決めることが必要です。
信託の目的は,受託者が信託財産を管理・処分する際の権限の範囲となります。
信託目的が欠ける(不十分である)場合には,信託自体が無効となります。

<信託目的の役割(設定の必要性・※2)>

あ 信託目的設定の必要性

信託においては信託目的を定める必要がある
一定の目的を特定(設定)する

い 信託目的の役割

受託者がすべき行為は,信託目的の達成のために必要な行為である
信託目的は,受託者の行動基準としての意味を有する
※信託法2条5項,26条

う 信託目的を欠く信託の有効性

信託目的が欠ける信託について
→信託の設定自体が無効となる
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p299

4 信託目的の特定の程度

信託の目的が不十分であると信託が無効となります(前記)。
では,どの程度特定していれば有効となるのでしょうか。
信託の目的の文言から,信託財産の管理・処分が制限されているかどうかによって判断されます。
実際には特定(制限)として十分かどうかがハッキリと判断できないということもあります。

<信託目的の特定の程度>

あ 信託目的による信託の有効性

信託が有効であるためには『い・う』のいずれかに該当する必要がある

い 裁量権行使基準の設定

裁量権行使の基準(制限)について信託行為に定めがある
具体例=委託者の子から受益者を指定する

う 信託目的からの解釈による制限

信託の目的に照らして裁量権に一定の限界があると解釈できる
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p299,302
※最高裁平成5年1月19日参照;遺言の有効性

5 受益者指定権の設定による裁量信託のバリエーション

実際の信託で,裁量信託(信託目的の特定の程度)が問題となるのは,受益者指定権者が定められているケースです。
具体的には,受益者指定権を受託者第三者が有しているケースでは,指定についての制限の程度によって有効性が決まります。
一方,委託者が受益者指定権を有しているケースでは,指定について制限がなくても信託は有効です。

<受益者指定権の設定による裁量信託のバリエーション>

あ 受託者への受益者指定権の付与

裁量信託(有効性)の問題が生じる典型例である(前記※1)

い 第三者への受益者指定権の付与

第三者が受益者指定権を有する信託も裁量信託となり得る
裁量権に一定の限界がないと(信託目的が欠けるものとして)信託が無効となる
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p299

う 委託者への受益者指定権の付与

委託者が受益者指定権を有する信託について
→受益者を後に決めるor変更する,という信託を設定したことになる
→裁量権に限界がなくても有効である
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p299,300