【遺産分割審判の中間処分としての換価処分の要件と手続の全体像】

1 遺産分割審判の中間処分としての換価処分の要件と手続の全体像

家庭裁判所の遺産分割審判の手続において、裁判所は中間処分として換価処分をすることができます。
遺産全体の承継内容を決めるメインの審判とは別の手続です。
本記事では、換価処分の基本的な内容を説明します。

2 遺産分割審判における換価処分の条文規定

遺産の換価処分の条文を確認します。
まず、条文では、遺産の全部を対象にした換価分割も可能とされています。しかし実務ではほとんどのケースで、遺産の一部を対象としています。
要するに、最終的な審判よりも前に、遺産のうち一部について先行して売却するというものです。
以下、本記事では遺産の一部を対象としていることを前提に説明します。
次に、換価処分には競売と任意売却があります。競売の要件は必要性、任意売却の要件は必要性と相当性、さらに相続人全員の同意ということになっています。

遺産分割審判における換価処分の条文規定

あ 競売による換価処分

家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部競売して換価することを命ずることができる。
※家事事件手続法194条1項

い 任意売却による換価処分

家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
※家事事件手続法194条2項

3 換価処分の申立権の有無と決定できる時期(概要)

条文上、遺産分割の審判をするために換価処分をすることになっています。これは、本来の遺産分割(終局審判)の前に裁判所が換価を命じるということを意味します。そこで中間処分という性質があるのです。この性質から、遺産分割審判の審理中以外の時期に換価処分の裁判をすることはできません。
また、換価処分は裁判所の職権で行うものであり、当事者(相続人)は申立をすることはできません。ただし、実務では裁判所に換価処分の要請をすることがよくあります。
詳しくはこちら|換価処分(中間処分)の申立権の有無と決定できる時期

4 換価処分の必要性や相当性が認められる事情

前述のように裁判所が換価処分を決定できる事情(要件)は、必要性や相当性となっています。具体的な状況としてはいろいろなものがあります。

換価処分の必要性や相当性が認められる事情

あ 終局審判としての換価分割見込み

遺産分割の終局審判において遺産の換価が予想され、最終的な分割方法を決定するためには予め換価しておくことが相当な場合
先行して一部の遺産を換価しておくことにより、売却金額などの不確定要素が減り、最終的な分割方法を決定しやすくなる

い 調整金としての活用

現物分割又は代償分割をするのに、遺産の一部を換価しその代金を調整金などに活用することが望ましい

う 価値下落見込み

遺産が経済状況の変動により交換価値を減ずるおそれがある場合

え 変質リスク

遺産が変質しやすいものである

お 管理コスト

保管管理に相当な費用を要する場合

か 買い進み候補者の存在

終局審判前に特に有利な条件で遺産を売却することが可能である
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)』有斐閣2019年p397
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p442
※雨宮則夫ほか編著『遺産相続訴訟の実務』新日本法規出版2001年p289

5 任意売却の換価処分を行う事情

一般論として、任意売却はうまく進まないリスクがあります。そこで、換価処分の売却方法について、競売が原則、任意売却は例外という位置づけとなっています。裁判所が任意売却を選択するには、競売を用いる必要性がなく、また任意売却でも支障がないという状況が必要です。

任意売却の換価処分を行う事情

あ 「相当と認めるとき」

任意売却は、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に限られる
※家事事件手続法194条2項ただし書
「相当と認めるとき」とは、競売によらなくても換価の公正が担保される場合で競売によるよりも実質的に妥当または迅速な売却が期待できる場合をいう

い 相続人の反対がないこと

相続人全員の意見を聴き、競売によるべき旨の意思を表示する者がいない場合に限られる
※家事事件手続法194条2項ただし書
※副田隆重稿/潮見佳男編『新注釈民法(19)相続(1)』有斐閣2019年p396、397

6 換価処分の裁判の告知

裁判所が換価処分を行うと判断した場合は換価を命じる裁判を行います。
この結果(裁判)は、当事者を始めとする一定の関係者に対して告知されます。

換価処分の裁判の告知

換価を命じる裁判について『ア・イ』の者に告知する
ア 当事者、利害関係参加人、(その他の)裁判を受ける者イ 遺産分割の審判事件の当事者 ※家事事件手続法81条1項、74条1項
※家事事件手続法194条4項
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p443

7 換価処分による売却の手続の内容(概要)

競売または任意売却により換価するという換価処分の裁判がなされた後は、決定内容どおりに遺産の一部を売却することになります。形式的競売任意売却を行う方法(売却手続の内容)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|換価処分(中間処分)の申立権の有無と決定できる時期

8 換価処分に対する即時抗告と取消の裁判

換価処分の裁判の告知(前記)を受けた当事者は、不服申立としての即時抗告をするかどうかを検討することになります。
また、換価処分の裁判の後に事情が変化したために換価処分をすべきではない状況になったケースでは、換価処分の裁判の取消がなされることになります。
詳しくはこちら|換価処分の裁判に対する即時抗告と取消の裁判

9 換価処分の裁判の後の共有持分譲渡(概要)

遺産分割が未了の段階で、共有持分を譲渡することは可能です。
詳しくはこちら|遺産の中の特定財産の処分(遺産共有の共有持分の譲渡・放棄)の可否
換価処分の裁判の後、かつ差押の前に、相続人が共有持分を譲渡した場合には、当該共有持分(権)は遺産の範囲から逸脱します。そこで、当該共有持分権は換価処分によって競売できないことになります。
詳しくはこちら|形式的競売における差押の有無と処分制限効、差押前の持分移転の扱い

本記事では、遺産分割審判における中間処分としての換価処分について説明しました。
実際には個別的な事情によって最適な手段が異なります。
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【換価処分(中間処分)の申立権の有無と決定できる時期】

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