1 遺産分割審判における換価処分(総論)
2 遺産分割審判における換価処分の条文規定
3 換価処分の法的性質と換価処分ができる状況(概要)
4 換価処分の必要性・相当性(判断基準)
5 換価処分の必要性が認められる具体例
6 換価処分の裁判の告知
7 換価処分による売却の手続の内容(概要)
8 換価処分に対する即時抗告と取消の裁判
1 遺産分割審判における換価処分(総論)
家庭裁判所の遺産分割審判の際,裁判所は換価処分をすることができます。
遺産全体の承継内容を決めるメインの審判とは別の手続です。
本記事では,換価処分の基本的な内容を説明します。
2 遺産分割審判における換価処分の条文規定
遺産の換価処分の大まかな内容をまとめます。
要するに,最終的な審判よりも前に,遺産のうち一部について先行して売却するというものです。
<遺産分割審判における換価処分の条文規定>
あ 換価処分の基本的な規定
遺産分割の審判において
家庭裁判所は遺産の換価処分を命じることができる
対象となる財産=遺産の一部or全部
※家事事件手続法194条
い 換価処分の大まかな内容
特定の遺産を売却して金銭に換える
→これを相続人に分配する
う 換価処分の方法(種類)
換価処分には競売と任意売却がある
詳しくはこちら|遺産の換価処分による売却手続には形式的競売と任意売却がある
※家事事件手続法194条1項,2項
条文では,遺産の全部を対象にした換価分割も可能とされています。
しかし実務ではほとんどのケースで,遺産の一部を対象としています。
以下,本記事では遺産の一部を対象としていることを前提に説明します。
3 換価処分の法的性質と換価処分ができる状況(概要)
換価処分は中間処分という性質があります。
要するに,遺産分割の審判に伴って裁判所が行うものです。
そこで,それ以外の状況で換価処分の裁判をすることはできません。
また,換価処分は裁判所の職権だけで行うことができます。
当事者(相続人)は申立をすることはできません。ただし,実務では裁判所に換価処分の要請をすることがよくあります。
詳しくはこちら|換価処分の性質と換価処分できる状況(申立・調停・即時抗告審は不可)
4 換価処分の必要性・相当性(判断基準)
裁判所が換価処分をできる要件は,条文上,必要性や相当性などがある場合,と規定されています。
このような抽象的な基準をまとめます。
換価処分のうち任意売却だけは,相続人全員の同意も必要です。
<換価処分の必要性・相当性(判断基準)>
あ 競売による換価処分
必要があると認める場合
→競売による換価処分を命じることができる
※家事事件手続法194条1項
い 任意売却による換価処分
ア 本質的な判断
必要があるかつ相当と認める場合
→換価処分の任意売却を命じることができる
※家事事件手続法194条2項
イ 相続人の同意
相続人全員が同意していることを要する
※家事事件手続法194条2項ただし書
5 換価処分の必要性が認められる具体例
換価処分が認められる具体的な状況の典型を紹介します。
実務における換価処分の利用が有利である状況といえます。
このようなケースでは,当事者(代理人弁護士)は,積極的に換価処分の必要性を,資料とともに示し,裁判所が換価処分の裁判をするよう適切に働きかけるべきです。
<換価処分の必要性が認められる具体例>
あ 段階的な換価
終局審判において遺産の換価(換価分割)が予想される
先行して一部の遺産を換価しておくことにより
売却金額などの不確定要素が減る
→最終的な分割方法を決定しやすくなる
い 価値の減少の回避
経済状況の変動によって
遺産の交換価値が減少するおそれがある
う 物理的な変質の回避
遺産が変質しやすいものである
え 管理コストの削減
遺産の管理に相当な費用を要する
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p442
6 換価処分の裁判の告知
裁判所が換価処分を行うと判断した場合は換価を命じる裁判を行います。
この結果(裁判)は,当事者を始めとする一定の関係者に対して告知されます。
<換価処分の裁判の告知>
換価を命じる裁判について『ア・イ』の者に告知する
ア 当事者,利害関係参加人,(その他の)裁判を受ける者
イ 遺産分割の審判事件の当事者
※家事事件手続法81条1項,74条1項
※家事事件手続法194条4項
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p443
7 換価処分による売却の手続の内容(概要)
換価処分の裁判がなされると,遺産の一部を売却することになります。
この売却の手続は,大きく2つに分かれます。形式的競売と任意売却です。
売却手続の内容については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺産の換価処分による売却手続には形式的競売と任意売却がある
8 換価処分に対する即時抗告と取消の裁判
換価処分の裁判の告知(前記)を受けた当事者は,不服申立としての即時抗告をするかどうかを検討することになります。
また,換価処分の裁判の後に事情が変化したために換価処分をすべきではない状況になったケースでは,換価処分の裁判の取消がなされることになります。
詳しくはこちら|換価処分の裁判に対する即時抗告と取消の裁判