【現存しない目的物の物権行為は条件付契約とされる傾向がある】

1 現存しない目的物の物権行為の効力
2 物権の変動の条文規定
3 客体についての物権変動の有効要件
4 条件付の物権行為の有効・無効の見解
5 条件付の物権行為が有効となる内容
6 不動産登記における条件付権利の仮登記制度
7 建物完成前の抵当権設定契約を無効とする登記実務(概要)

1 現存しない目的物の物権行為の効力

物権の変動が生じる契約には,売買・贈与や抵当権設定・地上権設定などいろいろなものがあります。これらの契約を物権行為と呼びます。
実際には目的物が存在しないけれど契約を締結するという状況もあります。
その場合は有効性の判断が曖昧になりがちです。
本記事では,目的物が現存しない状況での物権行為の効力の理論的な内容を説明します。

2 物権の変動の条文規定

物権の設定と移転は意思表示で生じるというとてもシンプルな条文の規定があります。
物権変動の一般的・基本的な規定です。

<物権の変動の条文規定>

あ 条文規定

物権の設定・移転について
当事者の意思表示のみによって効力を生じる
※民法176条

い 物権変動の意味

物権の設定(発生)・移転・変更・消滅について
→総称して『物権変動』と呼ぶ
※舟橋諄一ほか『新版 注釈民法(6)物権(1)』有斐閣2009年p224

3 客体についての物権変動の有効要件

物権変動の有効要件にはいろいろなものがあります。
その1つが目的物が現存することです。

<客体についての物権変動の有効要件>

あ 客体についての有効要件

目的物が現存すること
→物権変動の有効要件の1つである

い 理由

物権は目的物(or権利)を直接に支配することを内容としている
→対象が存在しないと支配権の成立を認めようがない
→直ちに有効として物権の変動を認めることはできない
※舟橋諄一ほか『新版 注釈民法(6)物権(1)』有斐閣2009年p233

4 条件付の物権行為の有効・無効の見解

目的物が現存しない場合でも,物権行為は完全に無効というわけではなく,条件付として有効という見解が一般的です。
無効とする見解もありますが,非常に古い下級審判例です。マイナーな見解といえます。

<条件付の物権行為の有効・無効の見解>

あ 有効とする見解

現存しない目的物に物権を設定する法律行為について
→停止条件付の法律行為として成立しうる
停止条件=将来目的物が存在することに至ること
※舟橋諄一ほか『新版 注釈民法(6)物権(1)』有斐閣2009年p233
※於保不二雄ほか『新版 注釈民法(4)総則(4)』有斐閣2015年p571

い 無効とする見解

未完成建物を目的とした抵当権設定契約について
→債権契約としても何ら効力を生じない
※東京地裁昭和3年12月12日

5 条件付の物権行為が有効となる内容

条件付の物権行為は一般的に有効とされています(前記)。
この有効の内容は2種類があります。
一般的には債権的な内容,つまり,条件成就の時点における契約を締結する義務がある,と解釈されています。
物権的な内容であると解釈した古い下級審裁判例がありますが,マイナーな見解です。

<条件付の物権行為が有効となる内容>

あ 条件付の債権的効果

停止条件が成就した時点において
『契約を締結する義務』がある
※登記実務における見解
詳しくはこちら|建物建築資金の融資における建物への抵当権設定契約は完成後にする

い 条件付の物権的効果

未完成建物を目的とした抵当権設定契約について
建物と認められる状態となった時点において
→物権的効果発生の障害が除去される
→当然に抵当権設定の効果が生じる
建物完成後に改めて抵当権設定契約をしなくてもよい
※大阪地裁昭和13年8月2日

6 不動産登記における条件付権利の仮登記制度

不動産登記には仮登記の制度があります。
これは条件付の物権行為を認めることが前提となっています。

<不動産登記における条件付権利の仮登記制度>

あ 条件付権利の仮登記の制度

条件付法律行為による不動産上の条件付権利について
→不動産登記法は仮登記によって保存する方法を認めている
※不動産登記法105条

い 判例の解釈

『あ』の仮登記の制度について
→実体法上,条件付物権行為が有効であることを前提としている
※大判昭和11年8月4日

う 反対説

『仮登記の対象は請求権である』とする反対説もある
※於保不二雄ほか『新版 注釈民法(4)総則(4)』有斐閣2015年p571

7 建物完成前の抵当権設定契約を無効とする登記実務(概要)

建物の建築資金についての融資の際は,敷地と建物を担保にするのが一般的です。
この点,登記実務では,建物への抵当権設定については,建物の完成前の契約は無効であることを前提にしたような扱いがなされています。
以上で説明した純粋な民法(物権法)の解釈とはちょっと違うように思えます。
詳しくはこちら|建物建築資金の融資における建物への抵当権設定契約は完成後にする

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【建物建築資金の融資における建物への抵当権設定契約は完成後にする】
【私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)】

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