【相続人への払戻拒否による金融機関の負う責任(金融商品化)】

1 債権の帰属の紛争と債務不履行責任
2 金融機関の払戻義務(債務不履行)の基準
3 債務不履行の損害賠償の内容
4 金融機関の払戻拒否=金融商品化アイデア
5 金融商品の満期=消滅時効の5年
6 不法行為の損害賠償の内容
7 債務の履行拒否の不法行為責任の判断基準
8 払戻拒否と不法行為責任の肯定/否定の判例

1 債権の帰属の紛争と債務不履行責任

相続人は原則として,相続財産に含まれる預貯金の払戻を請求できます。しかし,金融機関は拒否する傾向があります。
詳しくはこちら|相続人の預貯金払戻請求と金融機関の対応(全体・平成28年判例変更前)
払戻を拒否することについて,金融機関は法的責任を負うことがありました。
ただし,平成28年の判例変更でそれ以後は法的責任を負う状況は解消されたと言えます。
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由
本記事では,判例変更前の相続を前提として,払戻拒否による金融機関の責任について説明します。
そもそも金融機関が払戻を拒否する背景には,払戻実行による法的リスクがあります。払戻のリスクがあるのは,債権者が誰かが不明確であるようなケースです。
詳しくはこちら|相続人への払戻実行による金融機関のリスクと救済策
この点,債権の帰属が不明確であることを理由に払戻を拒否したことについて,債務不履行責任を認めた判例があります。

<債権の帰属の紛争と債務不履行責任>

あ 前提事情

貯金債権の払戻請求がなされた
貯金債権の帰属に争いがあった
=複数の当事者が異なる主張をしていた
金融機関は真の債権者がいずれかを確知できなかった
確知できないことについて過失はなかった

い 弁済供託の可能性

『あ』の事情によって
→金融機関は弁済供託ができる状態であった

う 弁済・供託をしないことの責任

金融機関が弁済・弁済供託のいずれも行わない場合
→債務不履行(履行遅滞)に該当する
※最高裁平成11年6月15日

2 金融機関の払戻義務(債務不履行)の基準

金融機関は相続人からの払戻請求を拒否したら必ず債務不履行責任を負うわけではありません。払戻実行のリスクが大きい場合は払戻を拒否することが正当化できます。払戻拒否が債務不履行に該当する基準をまとめます。

<金融機関の払戻義務(債務不履行)の基準>

あ 払戻義務の基準

次のいずれにも該当する場合
→金融機関には払戻義務が生じる
ア 金融機関が,共同相続人の1人から預金の払戻請求を受けたイ 『払戻請求権』を示す資料の提示を受けたウ 『払戻請求権』を否定する特段の事情がない

い 『払戻請求権』を示す資料

次のすべての資料により『払戻請求権』が示される
ア 預金者である被相続人が亡くなったイ 請求者がその相続人であることウ 戸籍事項証明書 法定相続割合が確認できるもの

う 『払戻請求権』を否定する特段の事情の例示

払戻請求と相反する内容の遺言,遺産分割,相続放棄などの存在
※東京地裁平成26年2月7日

3 債務不履行の損害賠償の内容

払戻拒否が金融機関の債務不履行に該当する場合には,金融機関は賠償責任を負います。損害賠償の内容をまとめます。

<債務不履行の損害賠償の内容>

あ 損害賠償の範囲(※1)

金銭の給付を目的とする債務の不履行について
損害賠償の範囲(算定)は法定利率による
※民法419条1項

い 認められない損害の例

次のような損害は賠償の範囲に含まれない
ア 交通費イ 逸失利益ウ 精神的苦痛(損害) ※最高裁昭和48年10月11日

4 金融機関の払戻拒否=金融商品化アイデア

金融機関の預貯金の払戻拒否が債務不履行に該当した場合は,大きな賠償の内容となります。金融商品と言えるようなとても良い条件なのです。

<金融機関の払戻拒否=金融商品化アイデア>

あ 前提事情

金融機関が預貯金の払戻を拒否した

い ノーマル金融商品化

金融機関は債務不履行責任を負う
権利者は次の内容の利益を得る立場になる
ア 年利 6%or5%
イ ノーリスク 金融機関は実質的に倒産リスクがない
→元本・利息は確実に回収できる
ウ 評価・格付け リスク/リターンのバランスがとてつもなく優れている
金融マーケットにおいて同等の金融商品はあり得ない

う プレミアム金融商品化

金融機関の不法行為責任が認められた場合
法定利率を超える実損害の賠償を請求できる(後記※2
→権利者は『い』をさらに超える利益を得る立場になる

5 金融商品の満期=消滅時効の5年

払戻拒否が債務不履行になるとものすごく良い条件の金融商品のような状況になります(前記)。ほぼノーリスクで年6%や5%というゴールデン金利と言えます。しかし,ゴールデン金利が生じる期間には限界があります。消滅時効の規定があるため最大で5年となります。

<金融商品の満期=消滅時効の5年>

あ 預貯金債権の消滅時効

預貯金債権の消滅時効の期間について
→5年or10年である
詳しくはこちら|債権の消滅時効の期間(原則(民法)と商事債権・商人性の判断)

い 延長の方法(時効中断)

時効完成間際に『承認or訴訟上の請求』をした場合
→時効の中断となる
=時効完成までの期間が延長される

う 現実的ハードル

ア 承認 金融機関が『債務承認証明書』に調印してくれる可能性は低い
イ 訴訟上の請求 預貯金の払戻請求訴訟を提起して判決を獲得した場合
→金融機関は払戻に応じるようになってしまう
敢えて払戻請求をしない場合でも
→通常,金融機関は『弁済供託』をしてしまう
→それ以降は債務不履行責任が生じなくなる
=遅延損害金その他の賠償責任が生じない

6 不法行為の損害賠償の内容

以上の説明は『債務不履行責任』についてのものです。法的責任としては,これとは別の種類のものがあります。『不法行為責任』です。不法行為責任は,金銭債権の賠償範囲の制限が適用されないのです。つまり,債務不履行責任よりも損害賠償が大きくなるのです。不法行為の損害賠償の内容をまとめます。

<不法行為の損害賠償の内容(※2)

あ 債務不履行との違い

不法行為の損害賠償の範囲について
→相当因果関係にある損害が賠償の範囲となる
法定利率により算定する規定(前記※1)は適用されない
※民法416条類推

い 認められる損害の例

次のような損害は通常損害の範囲に含まれる
ア 遅延損害金 年5%と6%のいずれかとなる
詳しくはこちら|各種損害金・金利上限規制|貸金=消費貸借契約|出資・贈与との判別・認定基準
イ 訴訟に要する弁護士費用 ※大阪高裁平成26年3月20日

7 債務の履行拒否の不法行為責任の判断基準

払戻拒否が不法行為責任と認められるハードルは高いです。債務不履行よりも,ハードルが1段高いのです。判断基準をまとめます。

<債務の履行拒否の不法行為責任の判断基準>

あ 原則

債務の履行拒絶について
→原則として不法行為責任は生じない

い 例外

高度(強度)の違法性が認められる例外的な場合
例;履行拒絶行為自体が公序良俗に違反する事情がある
→不法行為責任が生じる
※東京高裁平成27年11月12日
※東京地裁平成24年1月25日

8 払戻拒否と不法行為責任の肯定/否定の判例

払戻拒否について,不法行為責任の認定にトライする猛者も存在します。ゴールデン金利6%(5%)を超えるリターン実現へのトライの事例を紹介します。当然,否定されるものも多いですが,肯定された事例もあります。

<払戻拒否と不法行為責任の肯定/否定の判例>

あ トライ没却判決(不法行為責任の否定)

金融機関は2重払いの危険回避等を重視して支払を拒絶した
→高度の違法性を認めることはできない
→不法行為は成立しない(債務不履行どまり)
※東京地裁平成24年1月25日
※東京高裁平成27年11月12日

い トライ成功判決(不法行為責任の肯定)

預金払戻拒否を『不法行為』と認めた
→『弁護士費用』を損害に算入した
※大阪高裁平成26年3月20日

以上の金融商品化は,平成28年の判例変更で実行できなくなったと言えます(前記)。
詳しくはこちら|預貯金の相続の平成28年判例変更(分割承継の否定・遺産分割の対象)

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