1 遺留分算定基礎財産の計算の基本部分(基礎的計算式・改正前後)
2 民法1043条(改正後)の条文
3 遺留分算定基礎財産の基礎的計算式
4 積極財産Bに含まれるもの
5 積極財産Bに含まれないもの
6 贈与した財産Cの内容(概要)
7 財産の評価方法と評価の基準時(概要)
8 遺贈・贈与と類似する財産の移転の扱い
9 消極財産Dに含まれるもの
10 消極財産Dに含まれないもの
11 被相続人の保証債務の扱い

1 遺留分算定基礎財産の計算の基本部分(基礎的計算式・改正前後)

<民法改正による遺留分の規定の変更(注意)>

平成30年改正民法により,遺留分の規定(制度)の内容が大きく変更されました。
令和元年6月30日までに開始した相続については,改正前の規定が適用されます。
令和元年7月1日以降に開始した相続については,改正後の規定が適用されます。

遺留分の侵害があった場合,侵害を受けた者(遺留分権利者)は遺留分減殺請求または遺留分侵害額請求ができます。民法の改正前後で違います。ただし,これらの請求をする上で,最初に遺留分算定基礎財産の金額の計算をするのは共通しています。
詳しくはこちら|遺留分権利者・遺留分割合と遺留分額の計算(改正前後)
本記事では,遺留分算定基礎財産の金額の計算の基本部分を説明します。

2 民法1043条(改正後)の条文

最初に,遺留分算定基礎財産の計算の方法を定めている条文を押さえます。条文はとてもシンプルです。
以下,1項の解釈について説明します。

<民法1043条(改正後)の条文>

第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
※民法1043条(改正前の1029条)

3 遺留分算定基礎財産の基礎的計算式

前記の条文でも分かりやすいのですが,より理解しやすいように計算式にします。この中のB・C・Dの内容については以下,順に説明します。

<遺留分算定基礎財産の基礎的計算式>

遺留分算定基礎財産A
= 積極財産B + 贈与した財産C − 消極財産D

4 積極財産Bに含まれるもの

前記の式の中の,積極財産Bは,条文上の言葉だと『被相続人が相続開始の時において有した財産』となっています。簡単に言えば,遺産の中のプラスの財産ということです。
慰謝料(の性質を持つもの)は一身専属性があるので否定する発想もありますが,判例は財産的な性質が強いと解釈しているため,ここでの積極財産Bに含まれます。

<積極財産Bに含まれるもの>

あ 遺贈の目的物(の価額)
い 死因贈与(の目的物の価額)

※民法554条(により遺贈と同様に扱う)
※東京家裁昭和47年7月28日(遺贈・死因贈与について)

う 慰謝料請求権

生命侵害による慰謝料請求権
被相続人が請求の意思を表明しなくても当然相続される
※最高裁昭和42年11月1日
→相続開始時に被相続人が有していた財産に含まれる

え 清算的財産分与請求権・慰謝料的財産分与請求権

※民法768条
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法11相続 第3版』第一法規2019年p481,482

5 積極財産Bに含まれないもの

被相続人に帰属してた積極財産でも,例外的に遺留分算定基礎財産の計算では除外する(積極財産Bに含めない)ものもあります。具体的には相続の扱いから除外される祭祀財産や一身専属的な権利のことです。

<積極財産Bに含まれないもの>

あ 祭祀財産

系譜・祭具・墳墓など
※民法897条(一般の相続財産とは別に扱う)
(参考)祭祀財産を説明している記事
詳しくはこちら|祭祀主宰者・祭祀財産の承継→相続とは無関係|承継者・相続への影響・相続税

い 一身専属権

ア 扶養請求権
※民法752条,877条など
イ 扶養的財産分与請求権
※民法768条

6 贈与した財産Cの内容(概要)

遺留分算定基礎財産の計算の中に,(生前に)贈与した財産Cがあります。要するに不公平な財産の動きを計算上元に戻すという趣旨です。持ち戻しと呼ぶこともあります。
どの範囲で戻すのか,ということについては,別の条文で定められていて,解釈の問題も出てきます。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)

7 財産の評価方法と評価の基準時(概要)

以上の積極財産Bや贈与した財産Cについては,加算する前提として評価額を出す必要があります。
財産の評価の方法としては,原則として取引価格を用います。
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産の基本的な評価方法(改正前後)
また,評価の基準時(時点)は相続開始時とする見解が一般的です。
詳しくはこちら|遺留分に関する財産評価の基準時(基礎財産・価額弁償)(改正前・後)

8 遺贈・贈与と類似する財産の移転の扱い

実際に遺留分に関して問題になることが多いのは,遺贈・贈与そのものではないけれど実質的にこれと同じといえるような財産です。個別的な事案についてどのように扱うかを確実に判断できないというものも多いです。

<遺贈・贈与と類似する財産の移転の扱い>

あ 原則不算入・例外算入とする財産(概要)

『ア〜ウ』の財産は,遺贈(積極財産B)・贈与(贈与した財産C)ではないので,原則として遺留分算定基礎財産に含まない
しかし,個別的な事情によっては例外的に遺贈や贈与に準じるものとして遺留分算定基礎財産に含めることもある
ア 死亡保険金請求権
詳しくはこちら|相続人が受取人の生命保険金の遺留分における扱い(改正前後)
イ 死亡退職金
詳しくはこちら|相続における死亡退職金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)
ウ 遺族年金・死亡弔慰金
詳しくはこちら|相続における遺族年金と弔慰金の扱いの全体像(相続財産・特別受益・遺留分)

い 信託の扱い(概要)

信託は遺留分による制限を受けるというのが通説的見解である
ただし,具体的な法的扱いには統一的見解がないものが多い
詳しくはこちら|信託への遺留分減殺請求は認められる(信託と遺留分の解釈の基本・平成30年改正前後)

う 財団設立行為

ア 法的扱い
遺産の減少という点で贈与と類似する
民法1030条(改正前)の贈与と同様に扱われる
※一般法人法158条1項参照(財団設立行為に贈与の規定を準用する)
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法11相続 第3版』第一法規2019年p489
イ 『贈与』の解釈(参考)
(遺留分算定基礎財産となる)『贈与』には(贈与以外の)無償処分が含まれる
詳しくはこちら|遺留分算定基礎財産に含める生前贈与(平成30年改正による変更)

9 消極財産Dに含まれるもの

遺留分算定基礎財産の計算の中で,遺産のうちマイナス財産(債務)を差し引きます。条文上は『債務の全額』(を控除する)と定められています。文字どおり,原則としてすべての債務を差し引きます。

<消極財産Dに含まれるもの>

あ 私法上の債務

被相続人の私法上の債務

い 公法上の債務

公租公課
罰金
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法11相続 第3版』第一法規2019年p482

10 消極財産Dに含まれないもの

前述のように遺留分算定基礎財産の計算では債務を差し引きますが,例外的に差し引かないものもあります。大雑把に言うと,相続開始後に生じたといえるような費用がこれにあたります。

<消極財産Dに含まれないもの>

あ 葬儀費用

※東京高裁昭和60年9月26日

い 相続財産に要した費用

ア 遺言執行に要した費用
イ 相続税
※東京高裁昭和60年9月26日
ウ 相続財産の管理費用
※中川善編『註釈相続法(下)』p225
※高梨公之『遺留分の算定』/『法学セミナー48号』1960年p29
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法11相続 第3版』第一法規2019年p482

う 被相続人の保証債務(概要)

原則として含まれないが事情によって含まれることもある(後記※1)

11 被相続人の保証債務の扱い

被相続人が保証債務を負担していた場合,形式的には債務なので,遺留分算定基礎財産の計算で控除すると思えます。しかし,通常どおりに主債務者が弁済できれば保証債務は具体化しません。仮に保証債務を履行することになっても,その後主債務者に求償して回収できることもあります。そこで,現実的・実質的に負担する可能性が高いような場合にだけ遺留分算定基礎財産の計算上控除するという扱いになります。

<被相続人の保証債務の扱い(※1)>

被相続人の保証債務について
主たる債務者が弁済不能にあるため保証人がその債務を履行しなければならず,かつ,その履行による負担を主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り,民法1029条(改正前)の『債務』に含まれない
※東京高裁平成8年11月7日

本記事では,遺留分算定基礎財産の計算の基本部分を説明しました。
実際には,個別的な事情により,法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に遺留分や相続に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。