1 雇用期間の定めがない場合,従業員からの退職は締め日との関係で予告期間が決まる
2 退職予告期間は就業規則等よりも民法の規定が優先的
3 従業員の自主的退職については,労働基準法の解雇予告期間は適用されない
4 従業員の自主退職が不合理なタイミングであれば損害賠償責任が生じる

1 雇用期間の定めがない場合,従業員からの退職は締め日との関係で予告期間が決まる

従業員の都合で自主的に退職することは『依願退職』と言うこともあります。
法律上は,一定のルールがあり『自由に退職できる』というわけではありません。
自主退職(依願退職)のルールを説明します。

(1)有期雇用の場合は,途中での退職は法律上できない

雇用期間が『y年m月d日まで』と決まっている場合は,原則として途中での退職ということはできません。
あくまでもこれは法律上の規定のことです。
実際には合意で退職を認めることになるでしょう。
詳しくはこちら|有期労働契約における期間途中の自主退職には『やむを得ない事由』が必要

(2)無期雇用で月給制の場合締め日から半月かどうかで退職日が決まる

雇用期間の定めがない場合について説明します。

<無期雇用の場合の退職日;予告期間>

給与の締めサイクル 告知日 退職日 条文(民法)
月給制 対象月の前半 次期 627条2項
対象月の後半 次々期
月給制以外(日払い,週払い) 告知日の2週間後 627条1項

<退職の申し出と最短退職日の例>

5月15日~6月15日までに退職を申し出た
 →6月30日(の終業時)に退職

まず,法律上,労働者側からは,2週間の予告期間を置けば,いつでも雇用契約の解約(退職)ができることになっています(民法627条1項)。
その一方で,期間によって報酬を定めた場合には,当期の前半に解約申入れ(退職を申し出ること)をすれば,次期に解約(退職)となります(民法627条2項)。
一般的には,給与は月給制が原則とされています(労働基準法24条2項)。
注意すべき点は,627条1項の2週間が適用されるのは,結局,『日払い』『週払い』など,給与が月単位ではない場合のみ,ということです。

2 退職予告期間は就業規則等よりも民法の規定が優先的

<事例設定>

会社の就業規則や労働契約書では,『退職は30日前に申し出る』と規定されている

民法上の規定では,『月の前半に申し出れば月末に退職』となります(前記『1』)。
このように,退職予告期間について,民法上の規定と,就業規則・労働契約の規定が矛盾する場合があります。
この優先関係については,ストレートに判断している公的見解(裁判例)は見当たりません。
学説・通説としては民法の規定を強行法規として捉えています(後掲参考情報)。
逆に言えば,就業規則が有効(優先)という解釈もゼロではありません。
結論としては,民法の規定の方が優先という解釈が取られる可能性が高い,ということです。

<参考情報>

吾妻・債権各論中巻二p590,品川孝次契約法(下巻)p152

3 従業員の自主的退職については,労働基準法の解雇予告期間は適用されない

労働基準法20条において,解雇については30日前の予告が原則的に義務付けられています。
これはあくまでも雇用主からの労働契約の解約(=解雇)にだけ適用されます。
労働者からの解約(=退職)については適用されません。
労働基準法は,労働者の保護(=雇用主の拘束)が趣旨なので,このような方向性の規定となっています。

4 従業員の自主退職が不合理なタイミングであれば損害賠償責任が生じる

例えば,就業規則に『1か月前の退職申出』という規定があっても,効力がないという可能性が高いです(前記『2』)。
効力がないならば,これよりも短い予告期間も違法とはならないです。
では,申出とともに即座に退職できるか,と言えばそうではありません。
実際の業務の引継等に支障が生じた場合は,損害賠償責任が生じることもあります。

まさに,労働・職場の問題特有の事情です。
継続的な環境・業務がそれまで存続していたわけです。
退職すること自体の決定については最大限尊重されます。
しかし,民法・就業規則などのルール以前に,実害を生じさせるのは問題です。
退職の際の態様次第では,損害賠償として責任を負うことがあります。

この意味では,就業規則・労働契約における,退職申出予告期間については,有効・無効という問題ではなく,この程度の余裕を持たないと損害が生じるかもしれないという状況確認の意味は持っていると思われます。
具体的・現実的な状況を踏まえて,業務の引継等をしっかりと行い,勤務先に迷惑がかからないようにしておくべきです。
退職後は,職場に行かないことになります。
損害が発生したと会社から主張された場合,既に現場へのアクセスがしにくいので,防御しにくくなっているということもあります。

<まとめ>

民法の規定が優先ではあるが,就業規則・労働契約の退職予告期間はできる限り遵守した方が良い

条文

[民法]
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3  六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

[労働基準法]
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
(略)

(賃金の支払)
第二十四条  (略)
○2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。