1 不貞により発生する2種類の慰謝料(不貞慰謝料と離婚慰謝料)
2 不貞慰謝料の具体例と被侵害利益(概要)
3 不貞相手の不貞慰謝料の成否(概要)
4 不貞慰謝料の消滅時効
5 不貞慰謝料の消滅時効と「破綻」の関係
6 離婚慰謝料の具体例と被侵害利益
7 離婚慰謝料の消滅時効
8 不貞相手(第三者)の離婚慰謝料の成否(概要)
9 不貞慰謝料の金額算定における離婚結果の影響
10 不貞慰謝料と離婚慰謝料の関係(金額の大小)

1 不貞により発生する2種類の慰謝料(不貞慰謝料と離婚慰謝料)

夫Bと妻以外の女性Cの不貞行為(不倫)によって、Aは心理的にダメージを負いますので、慰謝料を請求できることになります。これ自体は単純ですが、この慰謝料は、法的には2種類があります。それによって金額や消滅時効など、違いもあります。
本記事では、不貞によって発生する2種類の慰謝料について説明します。

2 不貞慰謝料の具体例と被侵害利益(概要)

まず、不貞行為によって発生する慰謝料のうち、基本的(単純)なものは、不貞慰謝料です。BとCの不貞行為そのものによって、Aが受けたダメージについて賠償する、という考え方です。法的には、婚姻共同生活の平穏妻としての権利が侵害された、という捉え方です。妻の権利の内容を簡単にいうと、夫に貞操を守らせること(権利)です。

不貞慰謝料の具体例と被侵害利益(概要)

あ 具体例

夫Bと女性C(不貞相手)が性的関係をもった場合
BとCは、妻Aに対して、不法行為による損害賠償責任を負う
不貞行為自体を理由とする慰謝料である

い 被侵害利益

Aの被侵害利益は、婚姻共同生活の平和の維持である
※最判平成8年3月26日
Aの被侵害利益は、他方の配偶者の(夫又は)妻としての権利である
※最判昭和54年3月30日
詳しくはこちら|夫婦の一方との性交渉が不法行為になる理論と破綻後の責任否定(平成8年判例)

3 不貞相手の不貞慰謝料の成否(概要)

ところで、不貞慰謝料は前述のように単純ですし、社会の常識にもなっています。しかし、法律解釈としてはそう簡単ではありません。
夫婦間、つまり、妻Aが夫Bに慰謝料を請求できることは問題ないのですが、不貞相手Cに対して請求できるかどうか、ということについてはいくつもの見解があります。判例は一貫して慰謝料を認めています。そこで、社会の常識にもなっているのです。
しかし、学説では否定する、あるいは制限する傾向が強いです。

不貞相手の不貞慰謝料の成否(概要)

あ 判例

判例は、不貞相手の不法行為責任を認めている
詳しくはこちら|夫婦の一方との性交渉が不法行為になる理論と破綻後の責任否定(平成8年判例)

い 学説(概要)

学説上は、不貞行為自体を理由とする慰謝料を否定する、または制限する見解が有力である
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p186
詳しくはこちら|不倫の責任に関する見解は分かれている(4つの学説と判例や実務の傾向)

4 不貞慰謝料の消滅時効

以上のように、不貞行為があった場合、実務としては、その両者(夫Bと不貞相手C)への慰謝料請求が認められるという結論になります。
結論は単純ですが、実際に慰謝料請求を行う場面では、消滅時効に注意が必要です。
被害者(妻A)が不貞行為を知った時(不貞発覚)から3年間で消滅時効が完成してしまいます。正確には、不貞相手が誰かまで発覚して初めて時効期間のカウントがスタートします。
では、不貞発覚から3年後には一切請求できないかというと、そうとは限りません。不貞発覚後も、不貞行為が続いているケースでは、現時点からさかのぼって3年間の部分は請求可能です。あくまでも請求できなくなるのは、3年経過した時期(の不貞行為)なのです。
なお、不貞相手への請求ではなく、夫Bへの請求については、離婚の6か月後までは、全部の期間の不貞行為について請求可能です。

不貞慰謝料の消滅時効

あ 起算点

夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。
けだし、右の場合に一方の配偶者が被る精神的苦痛は、同せい関係が解消されるまでの間、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、一方の配偶者は、同せい関係を知った時点で、第三者に慰謝料の支払を求めることを妨げられるものではないからである。
これを本件についてみるのに、被上告人の請求は、上告人が一郎と同せい関係を継続した間、被上告人の妻としての権利が侵害されたことを理由に、その間の慰謝料の支払を求めるものであるが、被上告人が上告人に対して本訴を提起したのは、記録上、昭和六二年八月三一日であることが明らかであるから、同日から三年前の昭和五九年八月三一日より前に被上告人が上告人と一郎との同せい関係を知っていたのであれば、本訴請求に係る慰謝料請求権は、その一部が既に時効により消滅していたものといわなければならない。
※最判平成6年1月20日

い 時効期間

不貞行為を知った時(あ)から3年間で時効が完成する
※民法724条1号

う 夫婦間の消滅時効の停止

ア 条文 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない
※民法159条
イ 趣旨 夫婦間の継続中は、相互の間で権利を行使することは、事実上困難だからである。
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法 第3版』日本評論社p380

5 不貞慰謝料の消滅時効と「破綻」の関係

ところで、不貞慰謝料が発生するのは、婚姻関係が破綻していない状況に限られます。たとえば、夫婦関係が悪化してから別居が始まると、この別居時点破綻したと判定される傾向があります。この場合は、別居(破綻)前の時期の不貞行為だけが、慰謝料の対象となります。
これを前提として、次に、消滅時効のことを考えます。別居後に、妻が夫の不貞を知ったとすると、この時点では、(別居前の)全期間分の不貞行為の慰謝料請求ができます。知ってから3年が経過すると、直近の3年間分以外の慰謝料請求はできなくなります。一方、直近3年間分については、破綻後の不貞行為なので慰謝料請求はできません。結果的に慰謝料請求は一切できないことになります。

不貞慰謝料の消滅時効と「破綻」の関係

あ 不貞慰謝料と「破綻」の関係(前提)

婚姻関係が破綻した後の不貞行為(性的関係)は、不法行為責任(慰謝料)が発生しない
※最判平成8年3月26日
詳しくはこちら|夫婦の一方との性交渉が不法行為になる理論と破綻後の責任否定(平成8年判例)

い 別居による「破綻」の認定(前提)

実務では、(夫婦関係が悪化している中で)別居した時点で「破綻」を認める傾向がある
詳しくはこちら|不貞慰謝料請求(不法行為責任)における「破綻」判定の実例

う 破綻後発覚→発覚後3年の完全消滅

例えば、夫が不貞をして家を出てその女性と同棲を始め、婚姻が破綻したような場合、妻が破綻後に初めて同居中の不貞を知ったとすれば、その時点から時効が進行し、3年経過すると、女性への謝料請求権は消滅する。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p168

6 離婚慰謝料の具体例と被侵害利益

以上で説明した不貞慰謝料とは別モノとして、離婚慰謝料があります。
これは、不貞行為を含む、夫婦間の問題が原因となって、離婚する結果に至った場合に、離婚という結果によって生じたダメージを賠償する、というものです。
個々の原因によって発生したダメージ、ではなく、離婚という結果によって発生したダメージです。
ダメージの内容を法的にいうと、「配偶者という地位」(が喪失したこと)ということになります。
不貞慰謝料の場合のダメージは、妻(配偶者)としての権利(相手配偶者に貞操を守らせること)でした。似ているけど違うのです。

離婚慰謝料の具体例と被侵害利益

あ 具体例

夫Bの有責行為によって離婚のやむなきに至ったこと場合、Bは妻Aに対して不法行為による損害賠償責任を負う
離婚に至ったこと自体を理由とする慰謝料である
離婚に至るまでの個々の行為を理由とする慰謝料ではない
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p186

い 被侵害利益

Aの被侵害利益は、「配偶者たる地位」という身分法上の法益である
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p190

7 離婚慰謝料の消滅時効

不貞の結果、離婚に至ったというケースはありふれています。その場合、請求する慰謝料としては、不貞慰謝料離婚慰謝料の2つがあります。この2つの大きな違いは、消滅時効(の起算点)です。
離婚慰謝料は、離婚したことによるダメージが発生して初めて請求できるので、離婚成立時点から時効期間がスタートします。法律上、知った時ですが、妻Aは、離婚成立をリアルタイムで知るはずなので、単に離婚成立時(が起算点)です。
たとえば、過去に不貞行為が10年間続いていたとしても、そのうち7年分は消滅時効となる、ということはありません。

離婚慰謝料の消滅時効

あ 起算点

離婚時(離婚成立時)から、離婚慰謝料の消滅時効が進行する
※最二小判昭和46年7月23日

い 時効期間

(「あ」の時点から)3年間で時効が完成する
※民法724条1号

8 不貞相手(第三者)の離婚慰謝料の成否(概要)

以上のように、離婚慰謝料の方は、過去の古い不貞行為の慰謝料も請求できる、ということになります。
ここで、不貞相手に対して離婚慰謝料を請求できるか、という問題が出てきます。というのは、離婚(を請求)するかしないかは夫婦だけが決められることです。たとえば、被害者である妻Aが、「夫Bが謝って今後は不貞をしないと誓っているから許す」と判断することも実際によくあります。
結果的に離婚が成立した場合でも、不貞行為により確実に離婚が成立するとはいえないのです。このような構造があるので、判例上、特殊な事情がない限り、不貞相手(夫婦以外の第三者)への離婚慰謝料は認められません。
詳しくはこちら|不貞相手に対する「離婚慰謝料」の請求
結果的に、妻としては、夫の不貞を知ってから3年が経過すると、夫への慰謝料請求はできるけど、不貞相手への背慰謝料請求はできないということになってしまいます。

9 不貞慰謝料の金額算定における離婚結果の影響

以上のような、不貞慰謝料と離婚慰謝料の区別は、実は、平成31年判例が明確に示した理論です。
それ以前は、2つをひっくるめるような扱いもありました。具体的には、不貞行為の結果離婚に至ったというケースで、不貞相手の不貞慰謝料の金額を決める時に、離婚したという結果を、損害として上乗せしていたのです。
平成31年判例の理論だと、2つの慰謝料は別物(別の訴訟物)なので、このような扱いはできないはずです。
では離婚した結果は関係ないかというとそうではありません。不貞慰謝料のダメージ(被侵害利益)である妻としての権利への侵害が、離婚によってより大きくなった、と捉えれば、結果的に増額要素となる、といえるのです。
理論的な構造が違っただけで、実際の金額算定が判例の前後で違った、とまではいえないでしょう。

不貞慰謝料の金額算定における離婚結果の影響

あ 平成31年判例以前の扱い(否定)

不貞慰謝料額の算定において、これまで下級審の裁判例では、不貞行為の結果、婚姻関係が破綻し、離婚するに至った場合においては、そのことを考慮することが多かったといえるところ、本判決(最判平成31年2月19日)の考え方からすると、単純に損害として離婚自体慰謝料を上乗せすることは許されないものと考えられる。

い 「夫又は妻としての権利」への侵害の程度への影響

他方で、不貞行為の結果、婚姻関係が破綻し、離婚するに至った場合には、不貞慰謝料の被侵害利益である「夫又は妻としての権利」という人格権的利益に対する侵害も大きかったものと評価することができるであろう。
したがって、前記のような事情を慰謝料の増額要素として考慮することは許されるものと解される。
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p197、198

10 不貞慰謝料と離婚慰謝料の関係(金額の大小)

不貞慰謝料と離婚慰謝料の2つを明確に区別する理論を元にして考えると、この2つの慰謝料の金額の違いもみえてきます。具体的には、不貞慰謝料よりも離婚慰謝料の方が金額が大きいという関係です。離婚慰謝料には、離婚という結果によるダメージが入っている(不貞慰謝料には入っていない)という理由です。
もちろん、夫婦の両方に離婚の原因がある場合には、打ち消し合うことになるので、不貞慰謝料よりも離婚慰謝料の方が金額が小さい、ということもありえます。

不貞慰謝料と離婚慰謝料の関係(金額の大小)

不貞相手に対して請求された不貞慰謝料に係る債務と、配偶者が負っていた離婚慰謝料に係る債務は、不真正連帯債務になるものと解される(最一小判平成6年11月24日集民173号431頁参照)が、両者は、被侵害利益が異なり、慰謝料の中身が異なるため、このことを考慮して損害額を算定する必要があり、通常は、損害額が異なることとなる(不貞慰謝料には、離婚自体によって発生する慰謝料が含まれないため、不貞以外の事情が認められない場合は、離婚慰謝料の方が多額になる。)ものと解される。
※家原尚秀稿/『法曹時報73巻12号』法曹会2021年p198

本記事では、不貞により発生する2種類の慰謝料について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や、最適な対応方法は違ってきます。
実際に、不貞などの夫婦に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。