【養育費・婚姻費用の算定の枠組み(基礎となる理論・最低生活費の影響)】

1 養育費・婚姻費用の算定の枠組み
2 養育費算定の基本的枠組み
3 婚姻費用の算定の基本的枠組み
4 総収入から基礎収入を実額方式で計算する方法(概要)
5 標準的算定方式の計算式全体と用いる基礎収入割合(概要)
6 養育費・婚姻費用の簡易算定表(概要)
7 最低生活費の影響

1 養育費・婚姻費用の算定の枠組み

養育費や婚姻費用(分担金)の金額について意見が対立するトラブルはよくあります。
この点,養育費や婚姻費用の金額を理論的に正確に算定するのはとても複雑です。
本記事では,養育費・婚姻費用を算定する前提となる理論的な枠組み(基本的な考え方)を説明します。

2 養育費算定の基本的枠組み

養育費の金額を算定する考え方は,高収入の親と子供が同居していることを前提として,妥当な生活費の分担方法を決める,というものです。高収入の親は,自分と同じレベルの生活環境を子供にも与える必要があるという理論が元になっています。

<養育費算定の基本的枠組み>

あ 扶養義務の性質

養育費は(扶養義務のうち)生活保持義務が元になっている
=自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務

い 算定における想定(前提)

子が高収入の親(義務者)と同居している状態を仮定する

う 養育費算定の枠組み

『い』を前提として,子のために使われるはずの生活費を算定する
これを義務者・権利者の収入で按分する
※東京・大阪養育費等研究会稿『簡易迅速な養育費等の算定を目指して〜養育費・婚姻費用の算定を目指して〜』/『判例タイムズ1111号』2003年4月1日p286

3 婚姻費用の算定の基本的枠組み

婚姻費用の金額を算定する考え方は,夫婦(と子供)が同居していることを前提として,妥当な生活費の分担を決める,というものです。養育費と同様に,同レベルの生活環境を提供(実現)する必要があるという理論が元になっています。

<婚姻費用の算定の基本的枠組み>

あ 扶養義務の性質

養育費は(扶養義務のうち)生活保持義務が元になっている
=自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務

い 算定における想定(前提)

義務者・権利者・子供が同居しているものと仮定する

う 婚姻費用の算定の枠組み

両方の基礎収入の合計額を世帯収入とする
世帯収入を,権利者グループの最低生活費と義務者グループの最低生活費で按分する
※東京・大阪養育費等研究会稿『簡易迅速な養育費等の算定を目指して〜養育費・婚姻費用の算定を目指して〜』/『判例タイムズ1111号』2003年4月1日p292

4 総収入から基礎収入を実額方式で計算する方法(概要)

以上のように,養育費も婚姻費用も,夫婦(両親)の収入を分担していろいろな生活費として使うというものです。
計算の土台となるものは収入全体(総収入)のうち自由に使える金額です。これを基礎収入といいます。つまり,計算の最初のステップで,総収入から必要な出費を差し引くことで基礎収入を出すのです。原理的には個々の必要な出費(実額)を集計することになります。この原理的な基礎収入の計算方法については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|総収入の認定と基礎収入の意味や計算方法(公租公課・職業費・特別経費の控除)

5 標準算定方式の計算式全体と用いる基礎収入割合(概要)

必要な出費の実額を集計する方法は,実際にやろうとするととても手間がかかります。そこで,実務では,必要な出費として標準的な金額を想定するという簡略化した方法が使われることが多いです。これを標準算定方式といいます。
標準算定方式によって基礎収入を算定する方法やこの計算で使う基礎収入割合と,その後,基礎収入を夫婦(両親)で分担する計算の具体的な内容(計算式)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|標準算定方式による養育費・婚姻費用の算定(計算式・生活費指数)
詳しくはこちら|婚姻費用・養育費の算定で用いる基礎収入割合の表

6 養育費・婚姻費用の簡易算定表(概要)

実務では,実額方式を簡略化した標準的算定方式が用いられることが多いです(前記)。
さらに簡単に金額を出せるように,簡易算定表が用いられています。これは,標準的算定方式の計算結果を早見表としてまとめたものです。
細かい計算をしなくて済むので実務で広く使われています。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)

7 最低生活費の影響

養育費・婚姻費用を算定する上で,最低生活費という要素(概念)も登場します。
要するに,義務者の収入が最低生活費を下回っている場合には,これ以上の余力がないということになります。そこで,相手(配偶者や子)に養育費や婚姻費用を払えないという方向性となります。
とはいっても,相手も著しく収入に乏しいようなケースでは,養育費や婚姻費用を完全にゼロとはしないこともあります。

<最低生活費の影響>

あ 最低生活費の意味

最低限度の生活を維持するための費用
※生活保護法3条

い 最低生活費の影響

義務者の収入が義務者の最低生活費を下回っている場合
→義務者に養育費・婚姻費用の分担能力がない
→養育費・婚姻費用分担義務はないとされることがある
養育費・婚姻費用をゼロとするとは限らない
※東京・大阪養育費等研究会稿『簡易迅速な養育費等の算定を目指して〜養育費・婚姻費用の算定を目指して〜』/『判例タイムズ1111号』2003年4月1日p286,287,290

本記事では,養育費・婚姻費用の金額を算定する理論的な枠組みについて説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に養育費や婚姻費用の金額についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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