1 戸籍上の性別変更をした者の法的扱い
2 男性に性別変更をした者の法的な扱い(判例)
3 GID夫婦の意味
4 性別変更後の男性を父とする出生届(判例)
5 嫡出推定の対象であるが推定が及ばない場合(参考)
6 GID夫婦の妻が出産し出生届提出後の戸籍是正方法
7 GID夫婦の子供の戸籍是正の痕跡を抹消する方法
8 性別変更生殖テクノロジーに関する未解決の法律問題

1 戸籍上の性別変更をした者の法的扱い

性同一性障害などにより,戸籍上の性別の変更ができるケースがあります。
詳しくはこちら|性同一性障害による戸籍上の性別の変更と性分化疾患による性別の訂正
戸籍上の性別を変更した後は,いろいろな面で法的にも新たな性別(変更後の性別)として扱われます。ただし例外もあります。
本記事では,戸籍上の性別を変更した後の法的な扱いについて説明します。

2 男性に性別変更をした者の法的な扱い(判例)

法律的な性別を女性から男性に変更した場合には,男性としての法的扱いを受けます。
具体的には婚姻出生届(父となること)です。いずれも最高裁が男性としての扱いを認めました。

<男性に性別変更をした者の法的な扱い(判例)>

あ 女性との婚姻

民法の規定に基づきとして婚姻することができる
→GID夫婦(後記※1)

い 父としての出生届

ア 嫡出推定(原則=適用あり)
婚姻中にその妻が子を懐胎した場合
→子は『夫』の子と推定される
イ 嫡出推定(例外=適用なし)
一般的には性交渉がない状況では嫡出推定の適用を否定する(推定が及ばない・後記※2)
しかしGID夫婦は『推定が及ばない』ことにはならない
※民法772条
※最高裁平成25年12月10日

3 GID夫婦の意味

性別変更で女性から男性に性別を変更した者がとなっている夫婦をGID夫婦を呼んでいます。

<GID夫婦の意味(※1>

女性→男性への性別変更済
(元からの)女性

4 性別変更後の男性を父とする出生届(判例)

GID夫婦の出生届でとして認めた判例の前提となる事案内容をまとめます。

<性別変更後の男性を父とする出生届(判例)>

あ 出生届の経緯

Aは,性同一性障害であった
Aは女性から男性に性別を変更した(前述)
Aは『夫』として,女性である妻Bと結婚した
A・Bは,第三者との人工授精により子供をもうけた
A・Bは,嫡出子として『出生届』を役所に提出した
役所は『嫡出子』としては認めなかった

い 家裁の審判申立

A・Bは裁判所に戸籍訂正の許可申立を行った
※戸籍法113条

う 裁判所の判断

戸籍の訂正を認めた
=戸籍上の『父』となることを認めた
※最高裁平成25年12月10日

5 嫡出推定の対象であるが推定が及ばない場合(参考)

以前は,性別変更により男性となった者がとなることはできない,という見解もありました。否定する理由は,嫡出推定の規定の適用に関する一般的な見解がベースになっていました。
要するに,父と母の間に性交渉がなかったといえるような特殊な事情がある場合には嫡出推定を適用しない,という理論です。この一般的な理論は最高裁で認められているものです。

<嫡出推定の対象であるが推定が及ばない場合(参考・※2)>

『ア・イ』の両方に該当する場合
→嫡出推定が適用されない(及ばない)
ア 形式的には嫡出推定の対象となっている
イ しかし現実には夫婦間に『性的関係を持つ機会がなかった』ことが明らかである
※最高裁平成12年3月14日
※最高裁平成10年8月31日
詳しくはこちら|嫡出推定・誤作動・基本|推定が『及ぶ/及ばない』

性別変更があった場合は夫婦の性的関係の機会がなかったことが明らかと言えます。
そこで,この判例理論からは例外的に推定が及ばないという考えが出てきたのです。
しかし,平成25年最高裁判例は,推定が及ばないことにしたら性別変更の手続の意味がなくなってしまうと考えたのです。結論として前述のとおりとなることが認められたのです。

6 GID夫婦の妻が出産し出生届提出後の戸籍是正方法

GID夫婦の出生届は,判例によって通常の夫婦と同じ扱いが認められるようになりました(前記)。
逆にこの判例前の出生届ではこのような扱いは認められていませんでした。
つまり,平成25年判例よりも過去に出生した子については通常の戸籍とは違う記録となっていました。
そこで,過去に戸籍に記録された事項を後から是正(修正)する必要が生じています。
この是正方法については通達でルールが整備されています。

<GID夫婦の妻が出産し出生届提出後の戸籍是正方法>

あ 『父』空欄の場合

嫡出子としての届出を受理

い 既に戸籍に『嫡出でない子』と記載済の場合

職権による戸籍訂正を行う
嫡出子に変更する
※戸籍法24条2項

う 普通or特別養子縁組済の場合

職権による戸籍訂正を行う
ア 『父』の欄にGID夫婦の夫の氏名を記載する
イ 『普通or特別養子縁組(に関する事項)』を消除する
ただし,法務局が夫婦に対して面談して説明を行う
※法務省14年1月27日通達
※平成26年1月27日民一第77号民事局通達

7 GID夫婦の子供の戸籍是正の痕跡を抹消する方法

前記の方法によりGID夫婦の出産の際の戸籍を後から訂正できるようになっています。しかし,訂正の痕跡が戸籍に残ってしまいます。
現在の日本では戸籍が身分の記録としてまだ非常に重視されています。
そこで記録上の痕跡も含めて抹消するニーズがあります。これについては,戸籍簿の再製を行うことにより実現できます。

<GID夫婦の子供の戸籍是正の痕跡を抹消する方法>

戸籍簿の再製を行う
訂正した痕跡(訂正事項の記載)もクリアすることができる
※戸籍法11条の2

8 性別変更生殖テクノロジーに関する未解決の法律問題

性別変更については,法的扱いが立法で追いついた状況です。さらに判例で解釈論が統一されつつあります。
しかし,現在でも解釈が統一されていない未解決問題があります。

<性別変更生殖テクノロジーに関する未解決の法律問題>

あ 未解決問題

MTF(男→女へ性別変更)がになること
→法的扱いが決まっていない
理由=現行法では分娩が前提となっている

い 暫定的解決法

特別養子が有用な解決法の1つである
代理母における暫定対応と同じである
詳しくはこちら|代理母の場合『卵子提供者』は戸籍上の『母』になれない→特別養子縁組を利用

う 暫定的解決法の問題点

『父・母』の関係が法律婚であることが条件となっている
法律婚を選択しないパートナーシップでは特別養子縁組の制度を利用できない

いずれ,具体的事案において個人と行政で見解が対立し,訴訟提起を経て最終的に裁判所が扱いを明らかにするということが予想されます。しかし,裁判所の解釈での統一は救済措置です。
本来は,立法によるルール整備を進めるべきです。テクノロジーの進化・価値観の多様化に整合する制度・法整備が進むことが期待されます。

<参考情報>

『月報司法書士2014年3月』日本司法書士会連合会p63〜67

本記事では,戸籍上の性別を変更した後の法的扱いについて説明しました。
実際には個別的な事情によって扱いが異なることもあります。
実際に戸籍上の性別の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。