【非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド】

1 非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド

非上場株式の評価は、上場株式と異なり統一的な市場価格が存在しないため、評価方法によって金額が大きく異なります。そのため、評価(株価算定)にはいろいろな評価方式(計算方法)があり、かつ、状況によって用いる評価方式が異なります。本記事では、非上場株式の評価が必要となる主要な場面、評価方式と、各場面で用いられる評価方式の全体像を説明します。

2 非上場株式の評価が問題となる場面

(1)非上場株式の評価が問題となる主な場面

非上場株式の評価(額)を算出する必要がある状況にはいろいろなものがあります。

非上場株式の評価が問題となる主な場面

あ 分割・清算系

遺産分割・共有物分割・(離婚時の)財産分与

い 買取請求(会社非訟)

強制的な買取を認める制度を利用した場合

う 固定合意

遺留分算定における評価額を固定する制度(事業承継の準備)

え 税務

相続税や贈与税の申告(税額の計算)やその他の税金の計算

(2)買取請求制度(会社非訟)の概要

非上場株式の評価が問題となる状況の1つとして、各種の買取請求制度を利用した場合、があります。買取請求とは、株主が請求することにより売買契約が成立したのと同じ扱いになる、というものです。株式の買取請求の制度の主な類型として、会社法144条(譲渡制限株式の売買価格決定)、785条等(株式買取請求権での価格決定)、172条(全部取得条項付種類株式の取得価格決定)、193条・194条(単元未満株式の売買価格決定)、177条(相続人等に対する売渡請求価格決定)があります。

3 株式評価方式の全体像

(1)株式評価の方式のまとめ

非公開会社の株式の評価方式は、大きな分類として4つがあります。これらの方式は、評価の目的や状況に応じて単独で用いられることもあれば、複数の方式を組み合わせて用いられることもあります。

株式評価の方式のまとめ

あ 収益方式

ア 収益還元方式イ DCF法ウ 配当還元方式

い 純資産方式

ア 簿価純資産方式イ 時価純資産方式

う 比準方式

ア 類似「会社」比準方式イ 類似「業種」比準方式ウ 取引事例方式

え 国税庁方式

国税庁が相続税、贈与税の算定をする時に用いる算定方法

このように、評価方式が数多くあります。そして、具体的な事例においては、いくつかの方式を組み合わせることが多いです。ここで、この組み合わせる方式の選択、割合については、画一的な基準はありません。見解による違いが大きく、対立・紛争となることが多い、というわけです。

(2)収益方式による評価

収益方式は、会社の将来の収益力に着目した評価方法です。継続企業としての価値を適切に反映できるため、M&Aや裁判手続きにおいて重視される傾向があります。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:収益方式(DCF法と配当還元法)

(3)純資産方式による評価

純資産方式は、会社の保有する資産の価値に着目した評価方法です。清算を前提とした評価に適していますが、継続企業の評価には限界があります。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:純資産価額方式

(4)比準方式による評価

(類似業種・類似会社)比準方式は、類似する他社の評価を参考にする方法です。比較的簡便な評価方法ですが、適切な比較対象の選定が重要となります。比準方式は国税庁方式の中の1つとなっています。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)

(5)国税庁方式による評価

国税庁方式は、相続税・贈与税の算定で用いられる画一的な評価方法です。税務以外の場面でも参考とされることがあります。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)

4 場面別の評価方式選択指針

株式評価の目的や状況によって、適切な評価方式は異なります。以下、主要な場面における評価方式の選択について概観します。

(1)税務手続での評価→国税庁ルールなど

相続税・贈与税の算定では、国税庁の通達に基づく画一的なルールが適用されます。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)
同じ税金でも、相続税・贈与税以外では、国税庁方式がそのまま使われるとは限りません。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:所得税・法人税における評価

(2)裁判所による評価(会社非訟など)→各種評価方式の組み合わせ

会社法では、一定の場合に、株式の買取請求ができることになっています。買取請求によって売買が成立したものとみなされます。金額について対立が生じた場合、最終的に裁判所が株価算定をすることになります(会社非訟)。この場合、特定の算定方式があるわけではなく、個別的な事情によって最も適切、公平な評価を行う、ということになります。実際には、特定の評価方式を採用する、特定の評価方式を修正する、複数の評価方式を組み合わせる、という手法がとられます。株主の属性や経営権の異動の有無によって適用される方式が変わります。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:会社非訟事件(裁判)での株価算定
また、離婚の際の財産分与でも、最終的には裁判所が財産の評価を行います。非上場株式については評価が問題となるとともに、分け方(分与方法)も問題となります。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与における非上場株式の評価と分与方法

(3)固定合意(事業承継)での評価

事業承継のための制度(遺留分対策)として固定合意制度があります。
詳しくはこちら|事業承継の遺留分トラブルを防ぐ「除外合意」と「固定合意」
この制度は関係者の間で文字どおり株価を固定する(合意する)ものですが、固定できる金額については一定の基準があります。
詳しくはこちら|固定合意・除外合意|事業承継と遺留分の抵触を予防できる

(4)任意売買での評価の傾向

任意の株式売買(当事者の合意による自由な売買)については、当然、法的な評価基準はありません。むしろ、当事者それぞれの評価を元にした交渉により合意に至った場合に初めて売買が成立するのです。ただし、実務上は以下のような評価方式が使われる傾向があります。

任意売買での評価の傾向

あ 純然たる第三者間取引

特定の評価方式が用いられる傾向というものはない

い 支配株主による取得の場合

DCF法や収益還元法など、会社の将来の収益力に着目した評価方式が用いられる傾向がある

う 少数株主による取得の場合

配当還元方式やゴードン・モデル方式など、株主が実際に受けられる経済的利益に着目した評価方式が用いられる傾向がある

本記事では、非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の全体像について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に非上場株式の株価算定・評価に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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