1 非上場株式の納税猶予制度により,事業承継トラブルを回避
2 納税猶予制度を利用するための手続の流れ
3 納税猶予制度が利用できる要件
4 納税猶予後にイレギュラー事態が生じると実質キャンセルとなる|一括納付
5 納税猶予の後で納税自体が免除されることもある|納付免除
6 『納税猶予制度』のハードル高さ→平成27年から緩和される

1 非上場株式の納税猶予制度により,事業承継トラブルを回避

非公開会社の事業承継(相続)では,相続税が大きな問題となります。
株式の評価額によっては,多額の相続税が課せられます。
一方で,株式を現実に売却(換価)できないので,納税資金が不足する,というようなトラブルが典型です。
別項目|相続税の株価評価は『類似業種比準方式』と『純資産方式』を使う
このように,相続税が事業承継のブレーキになることを避けるための制度があります。
そのような制度の1つが非上場株式の納税猶予制度です。

<非上場株式の納税猶予制度の概要>

非上場会社の経営を相続人の1人に承継させる
後継者が株式を先代経営者から相続or生前贈与により承継する
↓一定の手続を行う
非上場株式に対応する課税価格の80%の相続税納税が猶予される

一定の条件によって,納税が免除されることもある

2 納税猶予制度を利用するための手続の流れ

納税猶予制度を利用するためには,相続や生前贈与の前から,計画的に手続を行う必要があります。

<納税猶予制度の手続の流れ>

あ 経済産業大臣への『確認』申請

『事業承継の計画的な取組』などを提出します。
※平成27年から『確認』手続は不要となります。

い 経済産業大臣が『確認書』を交付

審査を経て,『確認書』の交付を受けます。

う 先代経営者の相続発生(死亡)or贈与実行

え 経済産業大臣への『認定』申請

期限は次のいずれかです。
・相続開始の日の翌日から8月経過する日まで
・贈与の翌年1月15日まで

お 経済産業大臣が『認定書』を交付

審査を経て,『認定書』の交付を受けます。

か 相続税申告or贈与税

納税猶予の内容を盛り込んだ相続税(贈与税)申告書を税務署に提出します。

3 納税猶予制度が利用できる要件

納税猶予制度は,一定の要件に該当していると認定されます。
この要件について,『相続』を前提にまとめます。
『相続』と『生前贈与』でほぼ同様です。
原則的に,『相続』を『贈与』と読み替えれば良いです。

<納税猶予制度の要件の概要>

あ 被相続人=先代経営者について

ア 被相続人が代表者であった
相続開始直前には代表者でなくなっていても問題ありません。
イ 次の3つのタイミングのすべてで,先代経営者+同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超を保有した
・代表者であった当時
・『確認』時
・相続開始時
ウ 代表者であった当時,同族関係者内で筆頭株主であった
この判定では,同族関係者に後継者候補を含めます。
エ 『確認』時+相続開始時において同族関係者内で筆頭株主である
この判定では,同族関係者から後継者候補を除きます。
オ 贈与の時点で役員を退任している(贈与のみ)
※平成27年以降は,『代表者の退任(足りる)』と変更されます。

い 後継者候補(相続人)について

ア 会社の代表者である
相続開始後5か月経過時において代表権を有していることです。
イ 先代経営者の親族である
※平成27年以降はこの要件が廃止される予定です。
ウ 同族関係者と合わせて発行済議決権株式総数の過半数の株式等を保有している
エ 後継者候補が同族内で筆頭株主である

う 会社について

ア 対象外として指定された会社に該当しない
《納税猶予制度の対象の会社》
・上場会社
・経営承継円滑化法上の中小企業者に該当しない会社
 医療法人は該当します。
・風俗関連事業を行なう会社
・総収入金額がゼロの会社
・常時使用する従業員がゼロの会社
・『相続開始日以降5か月経過する日の常時使用する従業員の数』<『相続開始日の同従業員の8割』
イ 資産管理会社に該当していない

要件は多いのですが,いくつか利用を大幅に制限してしまうものがあります。
この問題は後述します(後記『6』)。

4 納税猶予後にイレギュラー事態が生じると実質キャンセルとなる|一括納付

元々,納税猶予制度は『事業承継』を実現する,というものです。
『承継した事業が継続されない』という場合は,制度の趣旨の対象外です。
このような状態になった場合に,納税猶予をキャンセルする,という趣旨です。

<納税猶予税額の一括納付が必要となる場合>

あ 相続税申告期限後5年間,次の状態の維持が欠けた場合

ア 後継者候補が代表権を有している
イ 常時使用する従業員の数が相続開始時の数の8割以上
※平成27年以降は『平均』で維持すれば足りる,と変更されます。
ウ 後継者候補,後継者候補の親族等が保有する議決権数の合計が,総議決権数の50%を超える
エ 後継者候補が親族等のうち筆頭株主(議決権)である

い 会社が事業を中止するに至った場合

ア 破産等の手続によらずに『解散』した
イ 事業年度の総収入金額がゼロとなった

5 納税猶予の後で納税自体が免除されることもある|納付免除

納税猶予の認定後,猶予だけではなく納税自体しなくて良い=免除となる場合もあります。
納付免除となる主な要件は次のとおりです。

<納税猶予税額の納付免除|概要>

あ 後継者候補が死亡した場合
い 申告期限後5年を経過した後に,株式を一定の親族に贈与した+その親族が贈与税の納税猶予の適用を受けた
う 申告期限後5年を経過した後に,次に掲げるいずれかに該当した場合

ア 後継者候補が株式を親族以外に一定の状況で譲渡又は贈与した場合
イ 会社について,破産手続開始決定または特別清算開始命令がなされた場合
実質的な倒産です。
『民事再生』『会社更生』の手続は含まれていません。
※平成27年以降は,『民事再生』『会社更生』も含まれるように変更されます。
ウ 会社が合併により消滅した場合
エ 会社が株式交換により他の会社の株式交換完全子会社となった場合

6 『納税猶予制度』のハードル高さ→平成27年から緩和される

納税猶予制度は,事業承継を促進することを狙いとして創設されたものです。
しかし,現実には『使いにくい部分』がありました。
そこで,制度開始(平成21年12月4日)から平成26年の約4年間での認定件数は,約500件にとどまっていました。
この点,法改正により,平成27年以降は制度の利用が緩和されることとなりました。

<納税猶予制度の緩和|平成27年より>

改正前の問題点 改正(改良)ポイント
『認定』の前に,経済産業大臣の『確認』が必要 →『確認』は廃止
後継者は,現在の経営者の親族に限定される →親族以外にも拡大
雇用の8割以上を5年間『毎年維持』する →雇用の8割基準を5年間の『平均』で判定する
贈与時,現在の経営者は役員を退任 →現在の代表者は『代表者』を退任=役員として残ることはOK
納税免除となる倒産は『破産』『特別清算』のみ →『民事再生』『会社更生』を追加

※改正法の適用対象=平成27年1月1日以降に発生した相続

<参考情報>

非上場株式の納税猶予の適用ポイント 上西 左大信著 ぎょうせい p118〜
週刊ダイヤモンド14年9月13日号 p79〜

※関連サイト
外部サイト|非上場株式等についての相続税の納税猶予|国税庁
外部サイト|非上場株式等についての贈与税の納税猶予|国税庁