1 訴え提起前の和解で必要とされる争訟性(総論)
2 訴え提起前の和解における争訟性(まとめ)
3 争訟性の程度のバリエーション
4 実務における争訟性の判断の傾向

1 訴え提起前の和解で必要とされる争訟性(総論)

訴え提起前の和解は,債務名義を作るという機能があります。
この点で公正証書と同じような機能があるといえます。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)
ところで訴え提起前の和解は『争訟性』が一定程度必要です。
執行証書作成では争訟性は不要です。
訴え提起前の和解と執行証書の違いの1つです。
本記事では,訴え提起前の和解で必要とされる争訟性について説明します。

2 訴え提起前の和解における争訟性(まとめ)

訴え提起前の和解は,一般的な訴訟の規定が適用されます。
そのため,訴えの利益が必要となります。
訴えの利益の内容の1つとして争訟性が必要ということになるのです。
しかし通常の訴訟のような対立は存在しないのが通常です。
そこで,争訟性の程度は緩和されます。

<訴え提起前の和解における争訟性(まとめ)>

あ 訴えの利益

ア 要否 訴え提起前の和解の申立について
訴えの利益のひとつとして争いがあることが必要である
イ  争いがない場合の措置 争いがない場合,申立は却下される
※大阪高決昭和59年4月23日
※名古屋地決昭和42年1月16日

い 争訟性の程度

訴えの利益(あ)の1つとして
一定の争訟性(争い)が必要である
一般的な争訟性よりも低い程度で足りる
※大阪地裁平成3年5月14日
※東京地裁平成8年9月26日

3 争訟性の程度のバリエーション

訴え提起前の和解で必要とされる争訟性は緩和されます。
必要な争訟性の程度については,多くの裁判例が判断を示しています。
ある程度の幅があります。
ただし,表現が違うだけで,大部分の裁判例が示す基準に,実質的な違いはほとんどないといえます。

争訟性の程度のバリエーション

あ 厳格な争訟性

権利の存否,内容,範囲についての主張の対立がある
厳格な『争訟性』を求める見解である
※神戸地裁昭和24年6月3日

い 不安の存在

権利関係の内容の不確実or権利実行の不安がある
※東京高裁昭和38年2月19日

う 将来の紛争発生可能性

将来紛争が発生する可能性が予測できる
※名古屋高裁昭和35年1月29日

え 具体的な不安の存在

『ア・イ』のいずれかが存在する
ア 紛争発生の具体的要因 将来の権利実行にあたり紛争が生じることを予測させる具体的事情
イ 不安の具体的要因 将来の権利の実現に不安があると認められる相当の事情がある
※東京地裁昭和42年3月6日

4 実務における争訟性の判断の傾向

以上のように,解釈の理論にはいろいろなものがあります。では,実際に簡裁に訴え提起前の和解の申立をした時に,裁判所でそのような細かい検討がなされるかというとそうでもありません。もともと最初から和解ができていることを前提とする制度なので,争訟性がないことを理由に却下とすることは通常はありません。
逆に言えば,まったく紛争も不安もないというケース,たとえば,新たに賃貸借契約書を調印した状況で,契約が終了した時の明渡義務を認める和解をするという申立をした場合は,争訟性なしとして却下となるでしょう。

実務における争訟性の判断の傾向

裁判上の和解は民事上の争いがあることが前提であるから,争いがない場合にこの手続を利用することは,制度の悪用となる(ただし,実務としては争いがないとして却下されることは少ない)。
※京野哲也著『クロスレファレンス 民事実務講義 第2版』ぎょうせい2015年p29

本記事では,訴え提起前の和解の手続に必要とされる争訟性について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に裁判所による手続を検討していて不安をお持ちの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。