【訴え提起前の和解の手続の流れと申立の方式・工夫(双方出頭方式)】
1 訴え提起前の和解の手続の流れ・所要期間
訴え提起前の和解はスピーディーに債務名義を取得する手段です。
詳しくはこちら|訴え提起前の和解の基本(債務名義機能・互譲不要・出席者)
本記事では,訴え提起前の和解の手続の流れを説明します。
まずは,手続全体の流れをまとめます。
<訴え提起前の和解の手続の流れ・所要期間(※1)>
あ 申立
書面or口頭によって行う
※民事訴訟規則1条
実務では一般的に申立書を用いる
他の方法もある(後記※2)
い 期日指定
裁判所が期日を指定する
目安=申立(あ)から約1か月程度
う 期日実施
当事者(代理人)が出席する
裁判所が当事者の意思(合意)を確認する
え 和解調書の作成
裁判所が和解調書を作成する
お 送付
裁判所が和解調書を当事者に送付する
か 所要期間
期日(う)から和解調書送付(お)までの目安は1週間程度である
申立(あ)から和解調書送付(お)までの目安は1〜2か月程度である
※『月報司法書士2014年3月』日本司法書士会連合会p54〜57
2 手続の所要期間と短縮の工夫
訴え提起前の和解の手続で,最終的に和解調書が獲得できるまでに1〜2か月もの期間がかかります。
これを短縮する方法もあります。
<手続の所要期間と短縮の工夫>
3 当事者双方出頭方式による即日和解(否定)
訴え提起前の和解は簡易裁判所が扱います。ここで,簡易裁判所は手続を簡略化するルールがあります。このような特別なルールを駆使すれば,簡裁に行けばその日のうちに和解が成立することになるはずです。しかし,実際にはこのような運用はとられていません。
当事者双方出頭方式による即日和解(否定)(※2)
あ 即日和解の方法
ア 申立
当事者双方が簡裁に赴く
訴え提起前の和解の申立を行う
(法律上は口頭でも申立ができるが,実際には申立書を提出する(後記※3)
イ 即日期日開催
簡裁の訴訟の口頭弁論は,即日開催ができることになっている(後記※4)
訴え提起前の和解でもこの規定が類推適用される
※民事訴訟法273条類推,民法151条参照
ウ 管轄の合意(参考)
管轄の合意が適用される
※民事訴訟法11条
→多くの簡裁が利用できる
い 実務の対応(否定)
即日和解は,実務上は行われていない。
これは,・・・慎重な和解運用の観点からすると適切でないと考えられ,また,裁判所の処理体勢からも困難であるからである。
※簡裁民事実務研究会編『改訂 簡易裁判所の民事実務』テイハン2005年p460,461
4 口頭での提訴(簡裁の特則)
簡裁の手続の変わったルールとして,口頭で申立をすることができるというものがあります。理論的には口頭で提訴できるのです。
しかし,実際には口頭では窓口で聞き取るスタッフが結局聞き取りながら筆記することになり,聞き漏れ(伝達ミス)や誤記が生じることがあり,なにより無駄に時間がかかります。そこで実際には書面(申立書)で申立をするのが通常です。
<口頭での提訴(簡裁の特則)(※3)>
※民事訴訟法271条
5 双方出頭による即日期日(簡裁の特則・参考)
当事者の双方が裁判所に赴くと,その日のうちに口頭弁論期日を開催するという特則があります。この規定(督促)は,理論的には訴え提起前の和解にも(類推)適用されますが,実際にはそのような扱いはなされていません(前述)。
双方出頭による即日期日(簡裁の特則・参考)(※4)
あ 双方出頭による期日開催
開廷時間中に当事者双方が簡裁に赴く
→訴訟の口頭弁論を行うことができる
※民事訴訟法273条
い 即日開催
裁判所は,可能な限り即日口頭弁論を開かなければならない
裁判所は,当日の時間と法廷を調整する
他の期日を指定することはできない
※兼子一ほか『条解民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1496
※賀集唱ほか『基本法コンメンタール民事訴訟法2 第3版追補版』日本評論社2012年p341
本記事では,訴え提起前の和解の手続の流れや工夫について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に裁判所による手続を検討していて不安をお持ちの方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。