1 判決と和解の中間的手続として『裁定和解・17条決定』がある
2 裁定和解のためには『和解条項を承服する』という当事者双方の書面を提出が必要
3 裁定和解には『不服申立手続』はない|『許容範囲』を予め書面に盛り込むと良い
4 裁定和解の経緯に特殊事情があると,例外的に無効となる
5 民事調停で『調停に代わる決定(17条決定)』=裁判所の判断をもらう方法がある
6 調停に代わる決定(17条決定)に対して異議申立ができる
7 訴訟から調停に手続が移行される場合もある;付調停
8 賃料改定調停における裁定制度(概要)

1 判決と和解の中間的手続として『裁定和解・17条決定』がある

判決は,一方的に解決内容を裁判所が判断します。
和解は,当事者が解決内容を判断します。その判断が合致した時に成立します。
この中間的な制度があります。
裁判所の判断もなされ,かつ,当事者も一定の判断をする,というものです。
『民事訴訟・調停』で2つの制度があります。
家事調停の制度も含めると合計3つとなります。

<裁定和解・17条決定・調停に代わる審判|まとめ>

手続の種類 制度の種類 条文 判決と同じ効果 異議申立 事前の『承服宣言』
民事訴訟 裁定和解 民事訴訟法265条 必須
民事調停 調停に代わる決定(17条決定) 民事調停法17条 制度なし
家事調停 調停に代わる審判 家事事件手続法284条 ◯(※1) どちらも可能

※1 事前の『承服宣言』があるとできない(☓になる)

家事調停における手続は別記事にて説明しています。
詳しくはこちら|家事調停の『調停に代わる審判』|相手の出席拒否・合意間近という場合に使える

裁判所が和解調停の案を提示し,当事者が一定の関与をしつつ,この和解調停条項が効力を生じる,というものです。
実務上,次のような状況で活用されることがあります。

<裁定和解,調停に代わる決定の活用場面の例>

・和解交渉が進み,提案の相違幅が小さくなっている
・当事者双方は,自発的にこれ以上譲歩しない
・当事者双方は,中立的な見解があれば多少の譲歩は可能と思われる

なお,これらの制度を利用しなくても,通常,訴訟中の和解交渉の場面では,事実上,裁判所(裁判官)から和解案の提示がなされることはあります。
別項目;裁判官の訴訟指揮により和解協議が行われる
この事実上の和解案提示よりも,裁定和解・調停に代わる決定,の方が,裁判所の見解の影響度が大きいように設計されています。

2 裁定和解のためには『和解条項を承服する』という当事者双方の書面を提出が必要

裁定和解の手続>

あ 裁定申立

当事者双方が次の内容の宣言(約束)を書面にして裁判所に提出する
『裁判所提示の和解条項案を承服する』
※民事訴訟法265条2項

い 裁定和解の告知

裁判所が,和解条項案を判断し,告知します。
※民事訴訟法265条1項,3項

う 和解の成立と同じ扱い

和解が成立したのと同じ状態になります。
※民事訴訟法265条5項

裁判所が判断し,その内容が拘束力を持つ,という意味で,判決と類似します。
ミニ判決とでも呼べるような制度です。

3 裁定和解には『不服申立手続』はない|『許容範囲』を予め書面に盛り込むと良い

裁定和解の手続き上,最初に当事者が裁判所の和解条項案を承服することを書面において提出しています(民事訴訟法265条2項)。
文字どおりに,裁判所が示した和解条項に従うことになります。

判決であれば控訴や上告により,判決の効果を覆す制度があります。
しかし,裁定和解は判決ではないので,控訴や上告によって解消することはできません。

裁判所が和解条項案を提示(告知)する前であれば,キャンセルは可能です(民事訴訟法265条4項)。
しかし,提示(告知)後は,キャンセルできません(後掲文献1)。
結局,この制度利用上重要なことは↓です。

<裁定和解利用上の注意点>

裁判所の提示する和解条項が不利なものである場合でも,効果を解消できない

このような性格上,裁定和解は利用する際,当事者に躊躇が生じることが多いです。
逆に,利用する前提として,↓のような工夫をしておくと良いです。

<裁定和解利用上の工夫>

裁定申立の時点で和解条項の条件として許容できる範囲を協議の上,合意→書面に明記しておく

4 裁定和解の経緯に特殊事情があると,例外的に無効となる

条文上,裁定和解には不服申立ての制度がありません。
しかし,特殊事情がある場合は,無効と判断されることも考えられます。
裁定和解と類似する仲裁という手続のルールの類推適用です(仲裁法45条2項4号,5号)。
また,民法上の錯誤無効や信義則違反,を適用する考え方もあります。
裁定和解が無効となる事情,無効を主張する際に利用する手続は次のとおりです(後掲文献2)。

<裁定和解が無効となる事情>

・当事者の意見聴取が不十分→和解条項が当事者の意向を大きく逸脱(不意打ち)
・和解条項が当事者が裁定申立の中で設定した条件,範囲を逸脱している

<裁定和解無効を主張する手続>

・期日指定の申立
・裁定取消の訴え提起

5 民事調停で『調停に代わる決定(17条決定)』=裁判所の判断をもらう方法がある

民事調停は,原則的に,当事者の話し合い→合意成立を目指す,という制度です。
ただ,変わった制度として,裁判所が解決内容を決定する,というものもあります(民事調停法17条)。
調停に代わる決定とか17条決定と呼ばれる制度です。
条文上は職権で行われることと規定されています。
ただし通常は,当事者が,裁判所に解決案を提示して欲しいと希望している場合にこの手続がなされます。

特に,案件内容の専門家が調停委員,専門委員として関与している場合に,調停に変わる決定が活用されることがあります。
例えば,建築瑕疵について,建築の専門家が瑕疵の有無,損害の内容・金額を評価,判断する,という形で積極的に関与するという状況です。

裁判所の提示する解決内容は,最終的には,調停成立と同じように,強制執行が可能な状態となります(民事調停法18条5項)。

6 調停に代わる決定(17条決定)に対して異議申立ができる

調停に代わる決定がなされた場合,何もしないと,その内容は調停成立と同様に,強制執行可能な状態となります(民事調停法18条5項)。
逆に,内容に納得出来ない場合は,告知後2週間内に異議申立をすることができます(民事調停法18条1項)。
異議申立がなされると,裁判所の決定,は効力を失います(民事調停法18条4項)。
そして,異議申立に際しては,特に不服の理由は必要とされていません。
逆に言えば,まずは裁判所(調停委員や専門委員)の案をみてからそれを承服するか否かを考えるという様子見的に利用することもできます。

異議申立によって,決定は法的効力を失うのです。います。
ただし,この決定内容が,その後の訴訟などで資料(証拠)として利用されることはあり得ます。
案件内容の専門家の判断であれば,訴訟などの別の手続でも重視されることが多いです。

7 訴訟から調停に手続が移行される場合もある;付調停

民事訴訟において,専門的な調停委員に和解案を出してもらいたい,という場合に『付調停』が有用です。
一般の民事訴訟において,手続を訴訟から調停に変更するという制度のことです。
条文上,調停に付すると規定されているので付調停と呼ばれています(民事調停法20条)。

条文上は職権とされていますが,実務上,当事者からの要請により,裁判所が判断する,ということが通常です。
民事調停の場合,調停委員として各種専門家が候補者として用意されています。
そこで,専門家の評価を活用する,という局面で,訴訟から調停に付する,という方法が取られることがあります。
調停に移行した後は,次のような形で調停委員が活躍することになります。

<民事調停における調停委員(専門委員)の積極的関与の例>

・事実上,調停委員が評価・見解を説明する
・調停に変わる決定として具体的解決内容を提示する

8 賃料改定調停における裁定制度(概要)

賃料改定(増減額)の調停では,特別な裁定制度があります。
裁定制度によって裁判所が調停条項を定めるとこれが確定します。
不服申立はできません。
前記の一般的な調停における調停に代わる決定(17条決定)とは違います。
詳しくはこちら|賃料改定の調停における調停条項の裁定制度

条文

[民事訴訟法]
(裁判所等が定める和解条項)
第二百六十五条  裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。
2  前項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。
3  第一項の規定による和解条項の定めは、口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
4  当事者は、前項の告知前に限り、第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。
5  第三項の告知が当事者双方にされたときは、当事者間に和解が調ったものとみなす。

[民事調停法]
(調停に代わる決定)
第十七条  裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。

(異議の申立て)
第十八条  前条の決定に対しては、当事者又は利害関係人は、異議の申立てをすることができる。その期間は、当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。
2〜4(略)
5  第一項の期間内に異議の申立てがないときは、前条の決定は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

(付調停)
第二十条  受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
2〜4(略)

[仲裁法]
(仲裁判断の承認)
第四十五条  仲裁判断(仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わない。以下この章において同じ。)は、確定判決と同一の効力を有する。ただし、当該仲裁判断に基づく民事執行をするには、次条の規定による執行決定がなければならない。
2  前項の規定は、次に掲げる事由のいずれかがある場合(第一号から第七号までに掲げる事由にあっては、当事者のいずれかが当該事由の存在を証明した場合に限る。)には、適用しない。
一~三(略)
四  当事者が、仲裁手続において防御することが不可能であったこと。
五  仲裁判断が、仲裁合意又は仲裁手続における申立ての範囲を超える事項に関する判断を含むものであること。
六~九(略)
3(略)

判例・参考情報

(文献1)
[コンメンタール民事訴訟法Ⅴ 297頁]
本条による和解条項の定めについては不服申立ての規定はなく,この場合も通常の和解の場合と同様,原則として期日指定を申し立て,裁判所の判断を求めることになろう(略)。なお,単に裁判所の定める和解条項が予想に反したというだけでは,和解が無効とならないのは当然である。

(文献2)
[基本法コンメンタール民事訴訟法2(第3版)317頁]
裁定和解に対して,抗告等の上訴または異議などの不服申立てを認める旨の規定はない,しかし,両当事者が裁定申立てのなかで設定した条件・範囲を逸脱した裁定に対しては,裁判所等による紛争解決の範囲に関して訴訟当事者に認められる自己決定権を侵害するものとして,無効な裁定というべきであり,仲裁合意を逸脱した仲裁判断(仲裁45Ⅱ5)に準じて裁定取消しの訴えを認めるべきであろう。また,裁判所等が当事者の意見聴取を十分に行わなかったために和解条項が当事者に不意打ちを与えた場合についても,同じく仲裁手続において当事者の審訊を怠った場合(仲裁45Ⅱ4)に準じて裁定取消しの訴えを許すべきであろう(高橋・前掲196頁は和解条項裁定無効確認の訴えを認める可能性を示唆し,吉田前掲書201頁以下は,錯誤無効あるいは信義則違反を理由に無効を主張できるとする)。