1 民事訴訟における専門委員の関与の制度
2 専門委員の位置付け(性質)
3 専門委員が関与する場面と要件
4 専門委員が関与できる事件の典型例(専門訴訟)
5 争点整理,進行協議への専門委員の関与による明瞭化
6 専門委員の関与の必要性の程度
7 証拠調べ手続への専門委員の関与
8 訴訟上の和解手続への専門委員の関与
9 専門委員に対する準備の指示

1 民事訴訟における専門委員の関与の制度

民事訴訟では専門委員が関与する制度があります。本記事では,専門委員の関与の制度の基本的事項を説明します。

2 専門委員の位置付け(性質)

訴訟に置いて,裁判所は職権で,特定分野の専門家を専門委員として関与させるができます。鑑定や証言などの証拠方法とは異なります。

<専門委員の位置付け(性質)>

専門委員は,裁判所が職権で関与させるものであり,裁判所の補助者(訴訟手続上の補助機関)としての性質を有する
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p246

3 専門委員が関与する場面と要件

専門委員が関与できる場面は条文上決まっていて,関与する場面によって要件が少し異なります。

<専門委員が関与する場面と要件>

場面       要件      項番号(※1)

争点整理 必要性+当事者の意見(聴く) 1項
進行協議 必要性+当事者の意見(聴く) 1項
証拠調べ 必要性+当事者の意見(聴く) 2項
和解勧試 必要性+当事者の同意(後記※2) 3項

※1 民事訴訟法92条の2の各号である

4 専門委員が関与できる事件の典型例(専門訴訟)

専門委員は,特定の分野の専門家であり,その知見を活用するという制度です。そこで,訴訟の内容が特定分野の専門的なものであるケースでこの制度が用いられることになります。

<専門委員が関与できる事件の典型例(専門訴訟)>

あ 医事関係訴訟
い 建築関係訴訟
う 知的財産権関係訴訟

特に特許権や実用新案権の侵害の有無が争点となるもの

え 労働関係訴訟
お 金融関係訴訟

特に金融商品販売における適切な説明の有無が争点となるもの

か 従来型の訴訟類型において専門的知見を要するもの

例=コンピュータソフトを売買の目的物とする売主の契約不適合責任を追及する訴訟において,その性能が争点になるケース
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p247

5 争点整理,進行協議への専門委員の関与による明瞭化

専門委員が関与する典型的な状況は,争点整理と進行協議の場面です。
専門委員が関与することにより,審理の対象となる事実や争点を明らかにすることになります。専門委員の役割であり,かつ,関与の決定の要件の一部でもあります。
審理の対象が明らかになれば,それに対応して裁判所が訴訟指揮をすることになり,当事者は主張・立証に反映させることになります。

<争点整理,進行協議への専門委員の関与による明瞭化>

あ 専門委員の関与の必要性(決定の要件・前提)

争点整理,進行協議への専門委員の関与の決定の要件(の一部)は,『訴訟関係を明瞭にし,又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要がある』ことである
※民事訴訟法92条の2第1項

い 訴訟関係の明瞭化の意味

訴訟関係を明瞭にするとは,審理の対象となる事実および争点を明らかにすることである

う 訴訟関係の明瞭化のプロセス

専門委員が説明をする
→訴訟当事者にとって事案の理解と訴訟方針の再考や訴訟方針の転換の契機となる
→裁判所は一定の見通し(予測)を持つことになる
裁判所は当事者に対して従前の主張についての再検討を釈明する
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p248,249

え 専門委員の説明と当事者の対応の具体例

専門委員が『原告の主張する事実は,専門的経験則上極めて起こりにくい』と説明する
原告は,自身で専門的観点からの調査を行う
原告は『ア〜ウ』のいずれかの対応をする
ア 当該事実の主張を(完全に)維持する
イ 当該事実の主張を維持しつつ別の事実を追加的に主張する
ウ 当該事実の主張を変更する
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p248,249

6 専門委員の関与の必要性の程度

専門委員の関与の決定の要件の1つは,必要性があることです。一般論として,専門家が関与すれば専門的知見は役立つので必要性は認められやすいので,広範に,裁判所は関与の決定をすることができます。

<専門委員の関与の必要性の程度>

あ 一般論

(争点整理,進行協議への専門委員の関与の必要性について)
専門委員の関与の必要性は,高いものであることを要しない
専門委員の関与により,裁判所および当事者は専門的知見を補充されることになるのであり,一般的にその有用であることは承認される

い 判断基準

裁判所としては,当該事案の内容,争点の性質,当事者の訴訟活動の状況などに照らし,専門委員が関与することによっ て,訴訟関係がより明瞭になり,訴訟手続がより円滑に進められるものと判断できれば,必要性を肯定してよいであろう
※村田渉『専門訴訟』/大江忠ほか『手続裁量とその規律』有斐閣2005年p209
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p249,250

7 証拠調べ手続への専門委員の関与

専門委員が関与する場面の1つは証拠調べ手続です。主に人証調べ,鑑定人質問の期日への参加です。原則として専門委員は裁判所や当事者に説明をする形をとります。例外的に専門委員が証人などに直接質問(発問)することも可能ですが,当事者の同意と裁判長の許可が必要となります。

<証拠調べ手続への専門委員の関与>

あ 関与の形態

人証調べ期日,鑑定人質問の期日への専門委員の関与が中心となる
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p252

い 専門委員による発問

ア 規定
専門委員が証人などに対して発問することができるが,当事者の同意・裁判長の許可が必要となる
※民事訴訟法92条の2第2項後段
イ 運用の方針
通常は,専門委員の説明を受けて,心証形成の主体である裁判所が証人などに質問することを原則とすべきである
※村田渉『専門訴訟』/大江忠ほか『手続裁量とその規律』有斐閣2005年p214
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p253

8 訴訟上の和解手続への専門委員の関与

専門委員が関与できる場面の1つに,和解手続があります。この場合は,他の場面への参加と異なり,当事者の両方の同意が必要になります。和解手続自体が特に当事者の意向が尊重されるためです。

<訴訟上の和解手続への専門委員の関与(※2)>

あ 当事者の同意の要件

訴訟上の和解手続への専門委員の関与の決定について
当事者の意見を聴くでは足りず,当事者の同意が必要である
当事者の一方でも反対している場合には決定できない
※民事訴訟法92条の2第3項

い 当事者の同意を必要とする趣旨

訴訟上の和解の本質は当事者の合意であり,その合意形成過程のあり方の選択についても当事者の意向を尊重すべきであると考えられた
もっとも,専門委員の関与について当事者の同意が得られないケースでは,実際上,和解そのものの成立も困難なことが少なくないであろう
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p254

9 専門委員に対する準備の指示

裁判所が指示した場合に,専門委員は準備を行うことができます。文献の調査や現地の確認のことです。法令上は当事者の関与(立ち会い)は必須ではないですが,実務では通常,当事者に立ち会う機会を与える運用がなされています。

<専門委員に対する準備の指示>

あ 規定の内容

ア 準備の指示
裁判長は,専門委員を手続に関与させ説明させるにあたり,必要があると認めるときは,専門委員に対し,係争物の現況の確認その他の準備を指示することができる
※民事訴訟規則34条の6第1項
イ 当事者への通知
裁判長が,専門委員に対し『ア』の指示をしたときは,裁判所書記官は,当事者双方に対し,その旨およびその内容を通知する
※民事訴訟規則34条の6第2項

い 準備の具体例

関連の特殊な専門的文献を調査する
建築関係訴訟において係争物である建物の瑕疵の状況を確認する(現地確認)

う 当事者への通知の趣旨

専門委員による準備の遂行は,当事者の訴訟活動に少なからぬ影響を与えることが予想される
当事者に対する通知は,専門委員の準備に立ち会う機会を保障するという意味で,手続保障である
専門委員が関与する手続の透明性を高めようとする趣旨の定めでもある
※笠井正俊『専門委員について』/『法曹時報56巻4号』2004年p16
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅱ 第2版』日本評論社2006年p259

本記事では,専門委員の制度の基本的事項を説明しました。
実際には,個別的事情により,訴訟上の最適な対応は違ってきます。
実際に訴訟における進行方向の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。