控訴理由書の書き方|裁判官が原判決に感じた疑問を突く

1 控訴理由書の書き方|裁判官が原判決に感じた疑問を突く

1審で負けた。言いたいことは山ほどある。控訴理由書に全部書けば、裁判官は分かってくれるでしょうか。

本記事では、現役の高裁裁判官が座談で語った控訴理由書の実情を、文献にそくして説明します。長い控訴理由書が効かない理由と、裁判官が「良い控訴理由書」と呼ぶものの中身が要点です。控訴状の記載事項や提出期限といった手続の側は、後掲の別記事で説明しています。

裁判官が1つの事件にかけられる時間そのものは、別の記事で説明しています。

裁判官が1つの事件にかけられる時間|新受件数と、記録を読み切れない実情

2 結論——原判決の誤りを簡潔に指摘したものが効く

この座談と文献から取り出せる要点をまとめます。いずれも後述の各節で引用を挙げて説明します。

控訴理由書の押さえどころ

(ア)原判決が10頁から15頁なのに50頁、ときには100頁ほどの控訴理由書が出ることがあり、原審の準備書面をコピーしてつなげただけの内容に乏しいものがある(イ)あまりに長大だと不服の点が曖昧になる。原判決の事実認定や法的判断の問題点を、請求の当否との関係で簡潔に指摘するものが望ましい(ウ)最終準備書面のような控訴理由書は要らない(エ)良い控訴理由書とは、裁判官が原判決を読んで疑問に思った所を鋭く指摘してあるもので、原判決より優れた論理展開が書かれていると感じさせるもの(オ)裁判官がおかしいと思う所に触れず、大丈夫だと思っている所を集中的に書いた控訴理由書は、何だろうということになる(カ)原判決の一文一文を細かに批判しても、事件全体を通じての主張を欠いていると、何が不服なのかが伝わらない(キ)原審の裁判官に対する批判は、表現に行き過ぎが出ることがある

3 長すぎる控訴理由書——原判決10頁に対して100頁という実情

ここからは座談です。弁護士からの質問を司会が代弁し、高裁の裁判官が答える形で進んでいます。控訴の理由について過不足なく書かれているかを問われた裁判官は、いろいろ問題があると思っていると答えました。

挙げられたのは、まず分量です。原判決が10頁あるいは15頁程度であるにもかかわらず、50頁、ときには100頁ほどの控訴理由書が出ることがあり、その内容を見ると原審で提出された複数の準備書面をコピーしてつなげただけの内容に乏しいものがある、と述べています。

なぜ長いと効かないのか。裁判官に対して不服の点を明確にするためには適切な長さがあるはずで、あまりに長大だと不服の点が曖昧になる、というのがその理由です。

原判決10〜15頁に対し50〜100頁/長大だと不服の点が曖昧になる

1つには、非常に長大な控訴理由書が提出されることがあります。
たとえば、原判決が10頁、あるいは15頁程度であるにもかかわらず、50頁、ときには100頁位の控訴理由書が提出されることもあります。
その内容を見ますと、原審で提出された複数の準備書面をコピーしてつなげただけの内容に乏しいものがあります。
裁判官に対して不服の点を明確にするためには、適切な長さがあるはずであり、あまりに長大だと不服の点が曖昧になりますし、効果としてもいかがかと思われます。
やはり、原判決の事実認定や法的判断の問題点を、請求の当否との関係で、簡潔に指摘するものが望ましいと思います。

※『裁判官に聴く 訴訟実務のバイタルポイント No15・完 控訴審』/『ジュリスト1529号』2019年3月p48、49

4 最終準備書面のような控訴理由書は要らない

座談では、弁護士からの質問として「控訴理由書は1審の最終準備書面と同じようになりがちだが、どのように書くのが効果的か」が挙げられました。答えは端的です。

控訴は1審判決に対する不服申立てであり、最終的には請求の当否が審判の対象になる。そのうえで、1審判決の事実認定の誤りや法的判断の誤りという点を簡潔に指摘することが効果的だ、という組み立てです。分量が増える背景については、依頼者との関係もあって強調したい点が積み上がるのではないか、という見方も語られています。

最終準備書面のような控訴理由書は要らない

最終準備書面のような控訴理由書は要らないと思います。
控訴は、1審判決に対する不服申立てということになり、最終的には請求の当否が審判の対象ということになりますが、1審判決の事実認定の誤りなり、法的判断の誤りという点を簡潔に指摘していただくということが効果的なのではないかと思います。

※『裁判官に聴く 訴訟実務のバイタルポイント No15・完 控訴審』/『ジュリスト1529号』2019年3月p49

5 良い控訴理由書——裁判官が原判決に感じた疑問を鋭く突いたもの

ここが本記事の中心です。裁判官は、原審の判決を読んで「ここはどうか」「少し論理展開がおかしいけれども大丈夫か」と思うことがある、と述べています。

そこを鋭く控訴理由書で指摘してあると、やはり指摘されていると感じ、原判決より控訴理由書に書いてある論理展開のほうが優れていると思ったりもする。それが良い控訴理由書だ、というのが答えです。

裏返しも語られています。裁判官が原審の判決を見て「ここはおかしい」と思うのに控訴理由書でほとんど触れていなくて、裁判官が全く大丈夫だと思っているところを集中的に触れていると、この控訴理由書は何だろうということになる、と。

裁判官が疑問に思った所を突いたものが良い/大丈夫だと思う所を書いても効かない

基本的に控訴理由書ですから、1審判決のここが誤りであると指摘すればいいのです。
裁判官も原審の判決を読んで、ここはどうかとか、少し論理展開がおかしいけれども大丈夫かなどと思うことがあります。
そこを鋭く控訴理由書で指摘してあると、やはり指摘されているなとか、原判決より控訴理由書に書いてある論理展開のほうが優れているなと思ったりもします。
それが良い控訴理由書です。
一方、我々裁判官が原審の判決を見て、ここはおかしいと思うのに控訴理由書でほとんど触れていなくて、こちらは全く大丈夫だと思っているところを集中的に触れていると、この控訴理由書は何だろうということになります。

※『裁判官に聴く 訴訟実務のバイタルポイント No15・完 控訴審』/『ジュリスト1529号』2019年3月p50

6 一文一文を批判しても、事件全体の主張を欠けば不服は伝わらない

書き方の型についても述べられています。多くの控訴理由書は、原判決の記載の順序に従ってこれを批判し、あるべき事実認定や法的判断を展開しており、一般的にはこれでよい、と。

問題になるのはその先です。原判決の一文一文を細かに批判するものの、事件全体を通じての主張に欠けているものがあり、全体として何が不服なのかを明確に主張してもらう必要がある、とされています。順序に沿って潰すだけでは、何を争っているのかが伝わらないわけです。

あわせて、原審の裁判官に対する批判があり、その表現に若干の行き過ぎがあると感じるものもあるので、表現にあたってはその辺りも考えてほしい、とも述べられています。

事件全体の主張を欠くと不服が伝わらない/原審裁判官への批判は表現が行き過ぎる

多くの控訴理由書は、原判決について、その記載の順序に従ってこれを批判し、あるべき事実認定や法的判断を展開しており、一般的にはこれでいいかと思います。
ただ、中には原判決の一文一文を細かに批判するものの、事件全体
を通じての主張に欠けているものがあり、全体として何が不服なのかを明確に主張していただく必要があると思います。
また、一部には、原審の裁判官に対する批判もあり、その表現に若
干の行き過ぎがあると感ずるものもありますので、表現に当たっては、その辺りもお考えいただけたらと思います。

※『裁判官に聴く 訴訟実務のバイタルポイント No15・完 控訴審』/『ジュリスト1529号』2019年3月p49

7 控訴理由書が出たあとの手続=第1回期日で70〜80%が結審(参考)

控訴理由書を出したあと、審理はどう進むのでしょうか。座談の同じ箇所で、第1回口頭弁論期日の実情も語られています。1回で終結するのは全事件の70%から80%くらいで、振分けの基準は「第1回期日を行えば請求の当否が判断できるか」の1点だとされています。

本記事の読者にとっての要点は、どの答えも控訴理由書に戻ってくることです。更に主張したいことがあったという不満に対しては「控訴理由書で十分主張できる」と答えられており、裁判官は原判決を読んだあと控訴理由書を読んで記録に入ります。

控訴審の第1回口頭弁論期日|70〜80%が1回で結審する理由と続行の型

8 控訴状の記載事項と提出期限の側=不服の理由は任意・50日は訓示規定(参考)

制度の側も押さえておきます。控訴状の必要的記載事項は当事者等の表示と原判決・控訴であることの表示だけで、不服の範囲と理由は任意的記載事項です。民事訴訟規則182条の50日は制裁のない訓示規定だとされています。

控訴状の記載事項と控訴理由書の提出期限|不服の理由は任意・50日は訓示規定

9 おわりに

本記事では、控訴理由書について現役の高裁裁判官が語った実情を説明しました。制度の側では不服の理由は任意的記載事項にすぎませんが、実際には控訴理由書が審理の出発点になっており、そこで何を突くかが効き方を分けます。

裁判官が1つの事件にかけられる時間そのものは、別の記事で説明しています。

裁判官が1つの事件にかけられる時間|新受件数と、記録を読み切れない実情

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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「法令の解釈に関する重要な事項」に当たる場合|民事訴訟法318条1項
許可抗告が許可される場合|民事訴訟法337条

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