「法令の解釈に関する重要な事項」に当たる場合|民事訴訟法318条1項

1 「法令の解釈に関する重要な事項」に当たる場合|民事訴訟法318条1項

高等裁判所の判決に不服があるとき、最高裁判所へ進む道は2つに分かれています。上告と、上告受理の申立てです。このうち上告受理の申立てが認められるのは、その事件が「法令の解釈に関する重要な事項」を含むと最高裁判所が認めた場合です(民事訴訟法318条1項)。

条文は、判例と相反する判断がある事件をその例として挙げるだけで、それ以外にどういう事件が当たるのかを書いていません。実務では、最高裁判所の判例がまだ無い論点についてこれを主張できるのかが問題になります。

本記事では、「法令の解釈に関する重要な事項」に当たるのはどういう場合かを、条文と立案担当者の国会答弁、逐条解説にそくして説明します。

上告と上告受理の申立ての手続の種類や流れについては、別の記事で説明しています。

上告|申立・流れ|上告提起・上告受理申立|上告事由・上告受理事由

2 最高裁の判例がない論点も当たる=下級審の蓄積は考慮要素

本記事の結論を先にまとめます。いずれの行も、後述の各節で出典を挙げて説明します。

「法令の解釈に関する重要な事項」に当たる場合

あ 意義(何が「重要な事項」か)

(ア)「重要な事項」とは、その事件で問題となる法令の解釈が当該事件に限られず他の事件にも一般的に通用し得るものであり、最高裁判所が解釈を示すことが法令解釈適用の統一のために必要である場合をいう。抽象的には、統一のために実質的な判断を示す必要のある事項を含む事件である。該当するかどうかを判断するのは最高裁判所自身である。(イ)当たらないもの=法令違反に名を借りて原判決の事実認定を非難するもの、当該事件に適用されるべき法令の解釈について独自の見解を述べるにすぎないもの。

い 該当する類型(どういう事件が当たるか)

(ア)条文が挙げる判例違反は例示にすぎない。判例違反の判断事件であっても、最高裁判所が常に受理しなければならないものではない。(イ)立案担当者は、判例違反のほかに①これまで最高裁判所の判断がない解釈問題について判断を示すべき場合 ②これまでの判断を変更すべき場合 ③高等裁判所の誤った法令解釈を高等裁判所の判決として確定させることが適当でない場合 を挙げた。①に下級審の判断の割れも議論の蓄積も、条件としては挙げられていない。(ウ)逐条解説の4類型では、「最高裁判所の判例がなく下級審の判断が分かれている事件」と「高等裁判所における初めての法律判断であるが今後の同種事件の統一のため解釈を示すべき事件」が別の類型として並ぶ。後者は下級審の割れを要件としない。(エ)判例違反がなくても、最高裁判所が法令解釈について新たな判断を示すことが必要・適切と考えられる場合には、上告受理申立理由の存在が認められる。

う 考慮要素(受理・不受理は何で決まるか)

(ア)考慮要素は4つ=①当該事件特有でなく他の事件でも問題となりうる一般性があるか ②議論が成熟しているか ③当該事件が判断を示すのに適しているか ④結論にどの程度の影響を与えるか。(イ)②について、下級審での判断や学説が蓄積し議論が尽くされていることは「望ましい」と書かれている=要件ではない。ただし最高裁判所の調査官は、法律判断をするのに熟しているかも考慮要素になり得るとする。(ウ)受理・不受理は、これらの考慮要素による総合的な判断である。

え 結論への影響(受理の要件になるか)

(ア)原判決の法令違反が判決に影響を及ぼすことは、受理の要件ではない。最高裁判所の解釈が原判決と一致し上告を棄却すべき場合でも、統一すべきと判断したときは受理する。(イ)立案担当者は、結論に影響があるかないかを問うておらず、見方によっては旧法より広いと答弁した。最高裁判所側も、結論への影響は受理するかどうかとは若干異なる観点からの問題だとした。(ウ)逆に、影響はあるが一般的に通用する重要問題を含むとはいえない場合も、受理決定をすべきとする見解が有力である。(エ)原判決の結論に影響しない傍論についての法令解釈は、申立ての理由とはならない。

お 「法令」の範囲(どこまで含むか)

(ア)「法令」には外国法・経験則・採証法則・釈明義務なども入り、銀行取引約款や普通保険約款などの約款の解釈も法令解釈に準じると解される。(イ)ただし経験則違反・釈明義務違反の主張が、実質的には原判決の事実認定の結果の不当性のみを問題にするにすぎないとみるべき場合は、受理決定はされない。釈明義務違反を理由に受理される場合は限定される。(ウ)審理不尽・経験則違反・採証法則違反の主張も法令違反の主張と解されるので、原裁判所が「重要な事項に当たらない」として却下することは許されない。

か 不受理決定(先例になるか)

(ア)不受理決定は総合的な判断であって、最高裁判所として当該事件の法律問題に判断を示したものではなく、何ら判例としての意義・効力を有しない。(イ)実例=不受理決定を「最高裁判所はその法律問題について否定の判断をした」と読むことはできない。

3 318条1項の条文=判例違反は例示にすぎず受理は最高裁の判断

条文は、上告受理の対象を「法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」と定め、その前に「原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件」を置いています。判例違反は、重要な事項を含む事件の例として挙げられているにすぎません。

上告受理の申立て(318条1項)

上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。

※民事訴訟法318条1項

逐条解説も、判例違反の判断事件を例示と位置づけています。

判例違反の判断事件=重要な法令解釈事項を含む事件の例示

「最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件」(以下「判例違反の判断事件」という)は、重要な法令解釈事項を含む事件の例示である(研究会423頁~426頁)

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p357

(1)判例違反でも受理は義務でない=「判例」の捉え方にも争い

例示であることの裏返しとして、判例違反があれば必ず受理されるわけではありません。重要な事項を含む事件かどうかの判断そのものが最高裁判所に委ねられており、判決のどの部分を判例と捉えるかにも争いが生じることがあります。

判例違反でも受理は義務でない→何を判例と捉えるかにも争いがある

重要な法令解釈事項を含む事件であるか否かの判断は、最高裁判所に委ねられており、判例違反の判断事件であるからといって、最高裁が常に重要な法令解釈事項を含む事件としてこれを受理しなければならないものではない。
この点については、判例を具体的事件の解決に不可欠であった論点について法律判断の示されたものと捉える(一問一答354頁)としても、具体的事案においては、判決のどの判断部分をもって判例と捉えるかに争いがあることもある

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p357

(2)「判例」の意味=主論だが最高裁の判例からは傍論を排除できない

ここでいう判例は、理由中で示された法律的な判断をいいます。厳密には主文の結論に不可欠な判断、つまり主論を指すことになりますが、最高裁判所の判例については傍論における判断も排除できないと解されています。

「判例」の意味→主論だが最高裁の判例からは傍論を排除できない

ここでいう「判例」とは、ある特定の裁判の理由中で示された法律的な判断をいうものと解される。
厳密には主文の結論に不可欠な判断である「主論」をいうと解すべきところであるが、従来最高裁判所が「傍論」で重要な判断を示し、それが先例としての意味を持つことがあったという実情にかんがみると、特に最高裁判所の「判例」からは傍論における判断を排除することはできないと思われる

※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p1088〜1089

4 「重要な事項」の意義=他の事件にも一般的に通用し得る法令解釈

「重要な事項」とは、その事件で問題になる法令の解釈が、その事件だけで終わらず他の事件にも通用するものであり、しかも最高裁判所が解釈を示すことが法令解釈の統一のために必要である場合をいいます。重要性の程度は主張される法律問題の内容によって違うので、原判決の法令違反を主張していても受理する必要がない場合があります。

「重要な事項」の意義→他の事件にも一般的に通用し得る法令解釈

法令の解釈に関する重要な事項を含む事件とは、その事件で問題となる法令の解釈が、当該事件に限られず他の事件にも一般的に通用し得るものであり、最高裁判所がその法令の解釈を示すことが法令の解釈適用の統一のために必要である場合をいう

※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p1088

(1)最高裁が実質的な判断を示す必要がある事項=該当の判断は最高裁自身

同じことは、抽象的には、法令解釈の統一のために最高裁判所が実質的な判断を示す必要のある事項を含む事件、と言い表されています。逐条解説と立案担当者の国会答弁は、ほぼ同じ言葉でこれを述べています。

抽象的な意義→法令解釈の統一のために実質的な判断を示す必要のある事項

それでは、判例違反も含めて、重要な法令解釈事項を含む事件とは何かということになるが、上告受理制度は、最高裁判所による法令解釈の統一を目的とするものであるから、抽象的には、法令解釈の統一のために最高裁が法令解釈について実質的な判断を示す必要のある事項を含む事件ということになる(一問一答354頁)

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p358

立案担当者は、あわせて、該当するかどうかを判断するのは最高裁判所自身であることも述べています。

立案担当者の説明→実質的な判断を示す必要がある事項・該当の判断は最高裁判所自身

最高裁判所に対する上告受理申し立ての要件としての「法令の解釈に関する重要な事項」というものの意義ということでございますが、条文ではその代表例として「原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある」場合というのを挙げておるところでありますが、要するに最高裁判所が法令解釈について実質的な判断を示す必要がある事項というふうに抽象的には申し上げることができようと思います。そういう事項に該当するかどうかは最高裁判所自身が判断されるということになるわけでございます。

※濱崎恭生/『第136回国会参議院法務委員会会議録第10号』参議院1996-06-18p5

(2)当たらないもの=事実認定への非難・独自の法令解釈の主張

逆に、法令違反という形をとっていても、実質が原判決の事実認定への非難にすぎないもの、その事件に適用される法令について独自の解釈を述べるにすぎないものは、当たりません。

当たらないもの→事実認定への非難・独自の法令解釈の主張

これに対しまして、法令違反に名をかりて単に原判決の事実認定を非難する場合とか、あるいは法令解釈に関する事項を主張しているけれども、それは当該事件に適用されるべき法令の解釈に関して独自の見解を述べるにすぎないもの、そういった場合にはこの「重要な事項」に該当しないということになるのではないか、立案担当者としてはそのように考えているところでございます。

※濱崎恭生/『第136回国会参議院法務委員会会議録第10号』参議院1996-06-18p5

5 該当する類型=最高裁の判例がない論点も独立の類型

では、判例違反のほかにどういう事件が当たるのでしょうか。ここが実務でいちばん問題になるところで、最高裁判所の判例がまだ無い論点について受理を求められるかが分かれ目になります。

結論から言えば、判例が無い論点は独立した類型として挙げられています。下級審の判断が割れていることや議論が蓄積していることは、そこでは条件になっていません。

(1)立案担当者が挙げた3つの場合=判例がない解釈問題が第一

立案担当者は、国会で、判例違反のほかに当たる場合を3つ挙げました。第一に挙げたのが、これまで最高裁判所の判断がない解釈問題について判断を示すべき場合です。ここに下級審の判断の割れも議論の蓄積も、条件としては挙げられていません。

立案担当者が挙げた3つの場合→第一は最高裁判所の判断がない解釈問題

もう少し具体的に申し上げますと、代表例として掲げられております判例違反の場合のほかに、一つはこれまで最高裁判所の判断がない解釈問題について最高裁判所の判断を示すべき場合、二つとして、最高裁判所のこれまでの判断を変更すべき場合、そのほかに、三つ目として、高等裁判所の誤った法令解釈を高等裁判所の判決として確定させることが適当でないというふうに考えられる場合等がこれに当たるのではないかというふうに考えられます。

※濱崎恭生/『第136回国会参議院法務委員会会議録第10号』参議院1996-06-18p5

(2)コンメンタールの4類型=下級審の割れを要件としない類型も独立

逐条解説は、これを4つの類型に整理しています。注意して読む必要があるのは、「最高裁判所の判例がなく、下級審の判断が分かれている事件」と、「高等裁判所における初めての法律判断であるが、今後の同種事件の法令解釈を統一するため解釈を示すべき事件」が、別の類型として並んでいることです。後者は、下級審の判断が割れていることを要件にしていません。

逐条解説の4類型→②下級審の割れと③初めての法律判断は別の類型

①判例違反の判断事件で、法令解釈の統一の観点から、判例変更することなく原判決を維持することができないもの(判例変更され、原判決が維持されることもある)、
②当該法律問題について最高裁判所の判例がなく、下級審の判断は分かれており、法令解釈を統一する必要のある事件、
③高等裁判所における初めての法律判断であるが、今後の同種事件の法令解釈を統一するため、最高裁として法令解釈を示すべき事件、
④高裁の誤った法令解釈を高裁の判決として確定させることが適当でない場合などが考えられる(一問一答354頁参照)

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p358

(3)判例違反がなくても新たな判断が必要・適切なら該当

実務書も、判例違反がない場合について、最高裁判所が法令解釈について新たな判断を示すことが必要または適切と考えられるなら、上告受理申立理由があると述べています。

判例違反がなくても→新たな判断が必要・適切なら該当

また、判例違反がない場合にも、最高裁判所が法令解釈について新たな判断を示すことが必要、適切と考えられる場合には、上告受理申立理由の存在が認められることになる

※瀬木比呂志著『民事訴訟法 第2版』日本評論社2022年p707

6 受理の考慮要素は4つ=議論の成熟度は「望ましい」止まり

該当するかどうかの判断では、4つのことが考慮されます。一般性があるか、議論が成熟しているか、その事件が判断を示すのに適しているか、そして結論にどの程度影響するかです。

このうち議論の成熟度については、下級審での判断や学説が蓄積し、様々な角度から議論が尽くされていることが「望ましい」と書かれています。望ましいという書き方であって、要件ではありません。

受理・不受理の考慮要素→一般性・議論の成熟度・事件の適否・結論への影響

そして、受理、不受理の判断にあたっての考慮要素としては、
①当該法律問題が当該事件特有のものではなく、他の事件においても問題となりうる一般的なものであるか否か、
②当該法律問題について議論が成熟しているか
(最高裁判所が当該法律問題について適切な法令解釈を示すためには、下級審での判断や学説が蓄積し、様々な角度から当該法律問題について議論が尽くされていることが望ましい)、
③当該事件が当該法律問題について判断を示すのに適しているか
(例えば、上告受理申立ての理由が当該法律問題に即したものになっていなければ、最高裁判所がその理由を前提として法令解釈を示すことは困難となろう)、
④当該法律問題についての法令解釈が原判決の結論にどの程度の影響を与えるか
(請求の全部について影響を与える、請求のごく一部に影響を与えるにすぎない、その判断が変わっても別な理由から結論は変わらない等)
などが考えられる。

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p358〜359

もっとも、反対側の材料もあります。最高裁判所の調査官は、議論の成熟度や下級審の裁判例からみて法律判断をするのに熟しているかどうかも考慮要素になり得るとしています。受理・不受理は、これらによる総合的な判断です。

最高裁判所の調査官→法律判断をするのに熟しているかも考慮要素・総合的な判断

また、当該事件の法令解釈に関する問題に一定の重要性が認められるとしても、その問題についての議論の成熟度、下級審の裁判例等からみて、上告審が法令解釈の統一をするのに適しているか(法律判断をするのに熟しているか)否か、あるいは、当該事件がその判断を示すのにふさわしい内容の事案であるか否かというような点も考慮要素になり得ると考えられる。
その意味では、受理、不受理の判断は、このような考慮要素による総合的な判断であるということができよう

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p9

7 判決の結論への影響→受理の要件ではない

原判決の法令違反が判決に影響を及ぼすことは、上告受理の要件ではありません。最高裁判所の解釈が原判決と一致して上告を棄却すべき場合であっても、法令解釈を統一すべきと判断したときは受理されます。

結論を維持すべき場合でも→統一すべきと判断したときは受理する

このように、重要な法令解釈事項を含む事件であるか否かは、最高裁判所が当該事件における法律問題について法令解釈の統一を図る必要があるか否かという観点から判断されるものであるから、最高裁の法令解釈が原判決と一致し、したがって、原判決の結論を維持すべき場合(上告を棄却すべき場合)であっても、最高裁が当該事件においてその法律問題の法令解釈を統一すべきものと判断したときは、上告を受理することになる

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p359

(1)立案担当者と最高裁=結論への影響は問わない・旧法より広い場面

この点は、立案担当者の答弁がはっきり述べています。結論に影響があるかないかを問うておらず、仮に上告棄却になるものでも重要な法令解釈については取り上げる、見方によっては旧法よりも広い、というものです。

立案担当者→結論への影響は問わない・見方によっては旧法より広い

したがいまして、判決の結論に影響があるかないかということを問うてないということでございますから、仮に上告棄却ということになるものであっても重要な法令解釈については取り上げると言っているわけでございまして、ある意味ではスキームも少し変わっておりますけれども、見方によっては今までよりも広いということになるわけでございまして、先ほども私御答弁させていただきましたけれども、要するに最高裁が判断をするという、ここは全く変わっていないわけでございまして、その判断をどう外へお答えをするか、それが不受理という決定になるのか、あるいは上告棄却ということになるのか、そこの違いであろうというふうに考えておりまして、決して権利を制限するものではないというふうに理解しているところでございます。

※山崎潮/『第136回国会参議院法務委員会会議録第8号』参議院1996-06-13p21

最高裁判所側も、同じ国会審議で、結論への影響は受理するかどうかとは若干異なる観点からの問題だと説明しています。

最高裁判所側→自ら取り上げて判断するのが適切な事件か・結論への影響とは若干異なる観点

したがいまして、ここで受理するかどうかということを判断するに当たりましては、この例示も参考にしながら、最高裁判所がみずから取り上げて判断をするのが適切な事件であるかどうか、そういう観点から判断されるものではないかというふうに考えているところでございます。
 先ほど来御指摘がございます原判決に影響を及ぼす法令違反があるかないかという点は、この受理するかどうかという観点とは若干異なる観点からの問題でございまして、それが直ちに一致するということではないというふうに考えております。

※柳田幸三/『第136回国会参議院法務委員会会議録第8号』参議院1996-06-13p21

(2)影響があっても一般性がない場合=受理すべきとする有力説

逆の場合、つまり法令違反が判決に影響するけれども一般的に通用する重要問題を含むとはいえない場合については、それでも受理決定をすべきだとする見解が有力です。誤った法令解釈を含む高等裁判所の判決を確定させるのは妥当でなく、職権破棄の余地が認められるべきだという理由によります。

影響はあるが一般性がない場合→受理決定をすべきとする見解が有力

逆に、原判決に法令違反があってそれが判決に影響を及ぼすと考えられるが、必ずしも一般的に通用する法令解釈上の重要問題を含むものではない場合に、最高裁判所は上告受理の決定ができるかどうかが問題となるが、そのような法令違反を申立人が主張したときや、上告受理についての審理の過程で最高裁判所がそのような法令違反を認識したときには、上告受理決定をすべきであるとする見解が有力であり、これが妥当であろう。
このような場合にも、誤った法令解釈を含む高等裁判所の判決を確定させることは妥当ではないし、上告理由が認められない場合でもいわゆる職権破棄が認められており(325条2項)、上告受理申立てがあった場合にも最高裁判所の職権破棄の余地が認められるべきだからである

※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p1089

(3)原判決の傍論についての法令解釈→申立ての理由にならない

ただし、原判決の結論に影響しない傍論についての法令解釈は、申立ての理由になりません。上告受理は原判決破棄の申立てについての判断の前提だからです。前述の「判例」の意味で傍論が排除されないこととは、別の話です。

原判決の傍論についての法令解釈→申立ての理由にならない

また、上記のとおり、上告受理は、原判決破棄の申立てについての判断の前提であるから、原判決の結論に影響しない傍論についての法令解釈は上告受理申立ての理由とはならない

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p360

8 「法令」に含まれるもの=外国法・経験則・採証法則・釈明義務・約款

「法令の解釈」というときの法令は、制定法だけを指すのではありません。外国法や経験則、採証法則、釈明義務なども入り、銀行取引約款や普通保険約款のような約款の解釈も法令解釈に準じるものと解されています。実際にもそのように運用されています。

「法令」に含まれるもの→外国法・経験則・採証法則・釈明義務・約款

重要な法令解釈の「法令」の中には、外国法、経験則、採証法則、釈明義務なども入り(一問一答355頁、研究会422頁)、
銀行取引約款や普通保険約款などの約款の解釈も法令解釈に準じるものと解されるし、実際にもそのように運用されている

※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』日本評論社2014年p360

(1)実質が事実認定の不当性のみなら→受理されない

もっとも、経験則違反や釈明義務違反の主張は、実質的には原判決の事実認定の結果が不当だということだけを問題にしているとみるべき場合があります。そのような場合は受理決定はされません。

実質が事実認定の結果の不当性のみ→受理決定はされない

もっとも、上告受理申立てにおける経験則違反や釈明義務違反の主張は、実質的には原判決の事実認定の結果の不当性のみを問題にするに過ぎないとみるべき場合があり、このような場合には上告受理決定はされない

※笠井正俊ほか編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』日本評論社2013年p1088

(2)釈明義務違反での受理=限定的

釈明義務についての判断は、個々の事案での審理状況に左右される面が多くなります。そのため、釈明義務違反を理由に受理される場合は限定されることになります。

釈明義務に関する判断は審理状況に左右される→受理は限定的

「法令の解釈に関する重要な事項」がその事件の処理だけではなく他の事件の処理にも影響を及ぼすような一般的な意義をもつ事項を指すとすれば(松本=上野775)、釈明義務に関する判断は個々の事案での具体的な審理状況に左右される面が多いのであるから、釈明義務違反を理由に上告が受理される場合は限定されることになろう

※兼子一ほか著『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2012年p920

(3)経験則違反等の主張→原裁判所は却下できず最高裁へ送付

もう1つ、手続の面で押さえておくことがあります。審理不尽・経験則違反・採証法則違反の主張も法令違反の主張と解されるので、これらが申立書または期間内の理由書に書かれていれば、原裁判所は事件を最高裁判所へ送付しなければなりません。原裁判所が「重要な事項に当たらない」として却下することは許されません。

審理不尽・経験則違反・採証法則違反の主張→法令違反の主張として事件送付

審理不尽、経験則違反、採証法則違反の主張も、法令違反の主張と解される。
このような主張が上告受理申立て書又は期間内に提出された理由書に記載されていれば、一応「法令の解釈に関する重要な事項」の主張があるものとして、事件送付すべきことになる

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p8

9 不受理決定→判例としての意義・効力なし

申立てが受理されなかった場合、その不受理決定は、理由中に重要な事項が含まれているとは認められないという総合的な判断です。最高裁判所がその事件の法律問題について判断を示したものではないので、判例としての意義も効力もありません。

不受理決定→何ら判例としての意義・効力を有しない

不受理決定は、上告受理の申立ての理由中に法令の解釈に関する重要な事項が含まれているとは認められないという判断であり、その判断は、前記のように総合的なものであるから、最高裁として当該事件の法律問題に判断を示したものではなく、何ら判例としての意義、効力を有するものではない

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p9

この点を読み違えた例があります。貸金業者の取引履歴の開示義務が問題になった事案で、不受理決定を「最高裁判所は一般的な開示義務を認めなかった」と理解したものですが、そのような理解はできません。

実例→不受理を「一般的な開示義務を認めなかった」と読むことはできない

例えば、貸金業者の債務者に対する取引履歴の開示義務を認めた最三小判平成17年7月19日(民集59巻6号1783頁)の前に、貸金業者の取引履歴の不開示について不法行為の成立を否定した原判決に対する上告受理申立てが不受理とされたことがあり、この不受理決定について、最高裁は貸金業者について一般的な取引履歴の開示義務を認めなかったとの理解があったが、不受理決定は最高裁として当該事件の法律問題に判断を示したものではないのであるから、そのような理解ができないことは明らかである

※福田剛久ほか稿『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』/『判例タイムズ1250号』2007年11月p9

10 上告受理制度が設けられた理由(概要)

なぜ法令違反が上告の理由から外され、この受理の仕組みへ移されたのかは、「重要な事項」をどこまで広く読むかにも効いてきます。立法の理由と現在の運用については、別の記事で説明しています。

上告受理制度が平成8年改正で設けられた理由と現在の運用

11 理由不備・理由齟齬との振り分け(参考)(概要)

原判決の理由に不備や食い違いがあるという主張は、上告の側の理由(312条2項6号)で、本記事の範囲外です。旧法では法令違反もそこに読み込まれていたため、旧法のもとで書かれた判例を読むときは振り分けに注意が必要になります。この点は別の記事で説明しています。

上告理由としての理由不備・理由齟齬|民事訴訟法312条2項6号

12 おわりに

「法令の解釈に関する重要な事項」に当たるかどうかは、その法律問題が他の事件にも通用するもので、最高裁判所が解釈を示すことが統一のために必要かどうかで決まります。最高裁判所の判例がまだ無い論点は、独立した類型として挙げられており、下級審の判断が割れていることは要件ではありません。

もっとも、議論の成熟度は考慮要素として残り、法律判断をするのに熟しているかという見方もあります。申立ての理由をどう組むかは、この考慮要素の並びを踏まえて決めることになります。

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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