控訴状の記載事項と控訴理由書の提出期限|不服の理由は任意・50日は訓示規定

1 控訴状の記載事項と控訴理由書の提出期限|不服の理由は任意・50日は訓示規定

控訴したい。控訴状には、どこがどう間違っているのかを書かなければならないのでしょうか。控訴理由書は50日以内と聞いたけれど、間に合わなかったらどうなるのでしょうか。

本記事では、控訴状の必要的記載事項と、控訴理由書の提出期限の性質を、文献にそくして説明します。不服の理由が任意的記載事項であること、民事訴訟規則182条の50日が制裁のない訓示規定であること、そして書かないままだと何が起きるかが要点です。

控訴理由書に何を書くと効くのかは、別の記事で説明しています。

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2 結論——控訴状に必要なのは当事者と原判決の表示だけ・50日の期限に制裁はない

この文献から取り出せる要点をまとめます。いずれも後述の各節で引用を挙げて説明します。

控訴状と控訴理由書の押さえどころ

(ア)控訴状の必要的記載事項は、当事者等の表示と、原判決とこれに対する控訴であることの表示である(民事訴訟法286条2項)(イ)不服の範囲と不服の理由の記載は任意的記載事項で、性質上は記載しても準備書面である(ウ)不服の範囲と理由は、あとから控訴審の口頭弁論で述べれば足り、口頭弁論終結時までに変更することができるというのが現行法の建前である(エ)不服の範囲は、記載がなければ敗訴部分全部だと扱えばよい(オ)不服の理由の記載がないと、控訴審の最初で審理の計画を立てがたい(カ)民事訴訟規則182条は控訴人が50日以内に控訴理由書を提出するものとし、183条は被控訴人が定められた相当の期間内に反論書を提出するものとしているが、制裁のない訓示規定である(キ)変更の余地は残すにせよ、控訴理由書の提出を義務とし、不提出の場合には上告と同様に控訴を却下すべきだというのが立法論である(ク)控訴理由を開示しないままでも控訴の利益自体は肯定されるが、控訴審の本案審理を早期に結審し、ただちに控訴棄却と処理することになると説かれている

3 控訴状の必要的記載事項=当事者等の表示と、原判決・控訴であることの表示

まず条文です。控訴状には、当事者等の表示のほか、原判決とこれに対する控訴であることを表示します(民事訴訟法286条2項)。文献はこれを控訴状の必要的記載事項と呼んでいます。

つまり、必ず書かなければならないのは「誰と誰の事件か」と「どの判決に対する控訴か」の2つであって、原判決のどこがどう間違っているかは必要的記載事項に入っていません。

4 不服の範囲と理由は任意的記載事項——性質上は準備書面に当たる

ここから先が本題です。必要的記載事項が上の2つだけだということは、不服の範囲(どこまでの取消しを原判決に対して求めるのか、全部か一部か)と不服の理由の記載は任意的記載事項であり、性質上は記載したとしても準備書面だということになります。

そして現行法の建前はこうです。原判決に対する不服の範囲と理由は、あとから控訴審の口頭弁論で述べれば足り、しかも口頭弁論終結時までに変更することができる。控訴状の段階で書き切る必要はなく、書いたものを後で変えてもよい、という組み方です。

必要的記載事項は286条2項の表示だけ・不服の範囲と理由は任意的記載事項

3 控訴状には、当事者等の表示のほか、原判決とこれに対する控訴であることを表示する(二八六条二項)。
これが控訴状の必要的記載事項である。
ということは、実は、不服の範囲(どこまでの取消しを原判決に対して求めるのか、全部か一部か)、不服の理由の記載は、任意的記載事項であり、性質上は記載したとしても準備書面だということになる。
すなわち、原判決に対する不服の範囲、理由は、あとから控訴審の口頭弁論で述べれば足り、しかも、口頭弁論終結時までに変更することができるというのが現行法の建前である。

※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p596

5 不服の範囲は記載がなければ敗訴部分全部・理由がないと審理の計画が立てがたい

では、書かないままだと実際に何が起きるのでしょうか。文献は、この建前には立法論的に強い批判があるとして、2つを分けて述べています。

不服の範囲の方は、記載がなければ敗訴部分全部だと扱えばよい。つまり書かなくても困りません。ところが不服の理由の記載がないと、控訴審の最初で審理の計画を立てがたい。ここが問題だとされています。

審理の計画が立てがたいという指摘は、裁判所の側の実情とつながっています。裁判官は原判決を読んだあと控訴理由書を読んで記録に入り、第1回口頭弁論期日で請求の当否が判断できると考える事件はそこで終結します。理由が出ていないと、その見通しが立たないわけです。

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6 民訴規則182条の50日と183条の反論書=どちらも制裁のない訓示規定

期限の側を見ます。民事訴訟規則182条で控訴人は50日以内に控訴理由書を提出し、183条で被控訴人は定められた相当の期間内に反論書を提出することになっています。

文献はこれに続けて、しかし制裁のない訓示規定である、と述べています。期限を過ぎても控訴が却下されるわけではありません。もっとも、上の節で見たとおり、理由が出ていないと審理の計画が立てがたいという不利益は残ります。

民訴規則182条の50日・183条の反論書はいずれも制裁のない訓示規定

変更の余地は残すにせよ、控訴理由書の提出を義務とし、不提出の場合には、上告と同様に、控訴を却下すべきだというのが立法論である
(民訴規一八二条で、控訴人は五〇日以内に控訴理由書を提出し、一八三条で、被控訴人は定められた相当の期間内に反論書を提出することになっている。
しかし、制裁のない訓示規定である)。

※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p596、597

7 提出強制の立法論=不提出なら上告と同様に控訴を却下すべき

立法論の中身も押さえておきます。変更の余地は残すにせよ、控訴理由書の提出を義務とし、不提出の場合には上告と同様に控訴を却下すべきだ、というのが立法論です。

文献はさらに踏み込んで、現在でも多くの弁護士は控訴状の中では無理だとしても早期の準備書面の中で不服の範囲と理由を書いているとされる、そうであれば控訴理由書提出強制に踏み切ってもよいのではなかろうか、と述べています。実務がすでにそう動いているなら制度を合わせてよい、という見方です。

ただし留保が付いています。控訴審が続審であることをなにがしか制約することになるかもしれない、という点です。

実務が先行しているなら提出強制に踏み切ってよい・ただし続審制を制約しうる

現在でも、多くの弁護士は、控訴状の中では無理だとしても、早期の準備書面の中で不服の範囲と理由を書いているとされるが、そうであれば、控訴理由書提出強制に踏み切ってもよいのではなかろうか。
ただし、控訴審が続審であることをなにがしか制約することになるかもしれない。

※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p597

8 控訴理由を開示しないままでも控訴の利益は認める——ただし早期に結審して控訴棄却

控訴理由をまったく開示しないまま期日に臨んだ場合はどうなるのでしょうか。文献は、井上治典教授からの根本的な問題提起を紹介する中で、この場面を取り上げています。

挙げられている例はこうです。第一審判決が、被告が答弁書も提出せず口頭弁論期日にも出席しなかったことによるいわゆる欠席判決だった。被告が控訴した。控訴審の第1回口頭弁論期日で、被告は控訴状にもとづいて控訴の意思を表明しただけで、控訴理由は開示せず、原告の請求原因に対する答弁も行わない。そのような被告に控訴の利益があるとしてよいか、という問いです。

井上治典教授の問題提起〔例三〕=控訴理由を開示しない控訴人に控訴の利益があるか

〔例三〕第一審判決はYが答弁書も提出せず口頭弁論期日にも出席しなかったことによるいわゆる欠席判決であった。
Yが控訴した。
控訴審第一回口頭弁論期日で、Yは控訴状にもとづいて控訴の意思を表明しただけで、控訴理由は開示せず、Xの請求原因に対する答弁も行なわない場合、そのようなYに控訴の利益があるとしてよいか。

※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p605

文献の応答は、控訴の利益自体は肯定することになる、というものです。ただし控訴を適法とした上で、控訴審の本案審理を早期に結審し、ただちに控訴棄却と処理することになろう、と述べられています。入口では止めないが、中身の審理は早く終わる、という形です。

そして、立法論としては控訴理由書不提出を却下に結びつけることは可能であり、望ましいことであるかもしれない、と前の節の立法論に戻っています。

控訴の利益は肯定するが早期に結審して控訴棄却・立法論としては却下に結びつけうる

〔例三〕の控訴理由不開示でも、控訴の利益自体は肯定することになる。
しかし、控訴を適法とした上で、控訴審の本案審理を早期に結審し、ただちに控訴棄却と処理することになろう。
もっとも、立法論としては、前述のように(本書五九六頁)、控訴理由書不提出を却下に結びつけることは可能であり、望ましいことであるかもしれない。

※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(下)第2版補訂版』有斐閣2014年p607

9 おわりに

本記事では、控訴状の必要的記載事項が当事者等の表示と原判決・控訴であることの表示の2つだけであること、不服の範囲と理由は任意的記載事項で性質上は準備書面に当たること、民事訴訟規則182条の50日が制裁のない訓示規定であることを説明しました。

制度の側は書くことを強制していません。しかし不服の理由を出さないと控訴審の最初で審理の計画が立てがたく、控訴理由を開示しないままなら本案審理を早期に結審して控訴棄却となると説かれています。強制がないことと、書かなくて済むことは別だということになります。

控訴理由書に何を書くと効くのかは、別の記事で説明しています。

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控訴理由書を出したあとの手続は、別の記事で説明しています。

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本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。

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