1 詐害行為取消権による違法な保全の賠償責任(過失の有無の判断傾向)
2 異常な取引の解消のための仮処分と過失の推定の逆転
3 本案と異議の審理における判断の相違と過失の否定
4 詐害行為の受益者の善意と保全の過失(否定)
5 相当価格での売買による詐害性の否定と保全の過失(否定)

1 詐害行為取消権による違法な保全の賠償責任(過失の有無の判断傾向)

詐害行為取消権の訴訟の前に仮処分をしておくことがよくあります。
詳しくはこちら|詐害行為取消権のための保全(処分禁止の仮処分や仮差押)の基本
後から本案訴訟で,詐害行為取消権が否定された場合には,仮処分は違法であったことになり,保全の執行による損害について,原則として債権者は賠償責任を負います。
詳しくはこちら|違法な保全の申立や執行による賠償責任の基本(違法性・過失の枠組み)
しかし,詐害行為取消権・通謀虚偽表示・背信的悪意の主張については,特有の構造があるため,過失が否定される傾向があります。
本記事では,主に詐害行為取消権に関する保全が違法であったケースについて,過失の有無の判断について説明します。

2 異常な取引の解消のための仮処分と過失の推定の逆転

詐害行為取消権や通謀虚偽表示,背信的悪意を主張する状況は,要するに,異常な取引がなされたと思われる状態です。
そして,(詐害行為などの)主張をする者が取引の当事者ではないという特殊な構造があります。そのため,類型的に(保全手続の)債権者が把握する情報が債務者よりも大幅に少ない状況にあります。
このような構造的な状況から,仮に保全が違法であったとしても過失が否定される傾向があります。

<異常な取引の解消のための仮処分と過失の推定の逆転>

あ 前提事情

不動産の譲渡が詐害行為or通謀虚偽表示or背信的悪意であるという主張に伴って
仮処分が執行された

い 過失の否定

被保全権利がなかったとしても過失が否定されることがある
※原田保孝稿『違法な保全処分による損害賠償責任』/『判例タイムズ710号』1989年12月p31

う 実例(裁判例)

不動産の譲渡先が義弟であった
譲渡した者は,生活に困窮する状態にあった
譲渡した不動産は,ほとんど全財産であった
→過失を否定した
※東京高裁昭和48年6月19日

3 本案と異議の審理における判断の相違と過失の否定

実際に,詐害行為取消権を被保全権利とする保全が違法であるが過失が否定された事案をみると,複数の裁判体で被保全権利の有無の判断が異なるものが多いです。
つまり,裁判所の判断が分かれるということは,初期段階で当事者の判断がどちらであっても判断ミス(=過失)とはいえない,ということです。

<本案と異議の審理における判断の相違と過失の否定>

あ 共通事項

本訴と異議における裁判所の判断が異なった場合
→これが相当な事由の判断に影響を与えているように思われる
過失を否定することにつながっている
※原田保孝稿『違法な保全処分による損害賠償責任』/『判例タイムズ710号』1989年12月p31

い 実例(裁判例)

本訴or異議の1審において保全債権者が勝訴した
→(結果として)保全債権者の損害賠償責任が否定された
※東京地裁昭和44年11月25日
※東京地裁昭和56年6月29日
※東京地裁昭和47年9月21日
※徳島地裁昭和56年5月28日

4 詐害行為の受益者の善意と保全の過失(否定)

前記のように,詐害行為の主張による仮処分が違法であっても,過失が否定される傾向があります。
過失が否定される状況の典型の1つは,詐害行為の受益者が善意であるという認定によって詐害行為取消権が否定された,というケースです。
もともと,詐害行為であると主張されるような異常な外形であった以上は,疑うことを責められません。また一方で,受益者の主観債権者が知ることは難しいので,これも判断ミスと責められないといえます。
このような考え方によって,受益者の善意を理由として詐害行為取消権が否定されたケースでは類型的に違法な仮処分の過失が否定される傾向が強いのです。

<詐害行為の受益者の善意と保全の過失(否定)>

あ 客観的な詐害行為

電気器具などの販売業者が,倒産前日に同業者に対して在庫商品を廉価で売却した

い 詐害行為としての仮処分

『あ』を詐害行為であるとして仮処分の執行がなされた

う 保全の相手方の反撃

保全の相手方(買主)は善意であったため,被保全権利(詐害行為取消権)が否定された
保全の相手方が債権者に対して損害賠償を請求した

え 裁判所の判断

買主が善意であったとしても,この事情のもとでは,相当な事由がある
過失が否定された
※福岡地裁昭和44年10月20日

5 相当価格での売買による詐害性の否定と保全の過失(否定)

売買代金が相当価格であることを理由として詐害行為取消権が否定されたケースがあります。
ところで,適正な価格での不動産の売却も,判例上,詐害行為として認められることがあります。
このような法解釈の理論に加えて,個別的な事情として詐害的(不当)な要素がある場合には,詐害行為と疑うことを責められない傾向が強くなります。結局,仮処分が違法だということになったとしても,過失が否定されて,賠償責任が生じない傾向にあります。

<相当価格での売買による詐害性の否定と保全の過失(否定)>

あ 詐害的な行為

債務者が建物を売却した

い 詐害行為としての仮処分

建物の売却(あ)が詐害行為になるとして処分禁止の仮処分の執行がなされた

う 保全の相手方の反撃

相当代価の売買であるとして被保全権利がないとされた
保全の相手方が債権者に対して損害賠償を請求した

え 裁判所の判断

債務者(売主)は多額の債務を負担していた
債務者は,不渡り直後に妻の親戚に建物を譲渡した
→これらの事情から,相当な事由がある
過失が否定された
※大阪地裁昭和48年2月17日

お 適正価格の売買と詐害行為(参考)

適正価格の売買でも詐害行為に該当することがある
※最高裁昭和39年11月17日
詳しくはこちら|詐害行為取消権(破産法の否認権)の基本(要件・判断基準・典型例)

本記事では,詐害行為としての保全が違法であったケースにおける過失の有無の判断について説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で判断は違ってきます。
実際に違法な保全についての賠償の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。