【ペーパーレス現金の所有権(排他的権利)の立法論・株券との比較】

1 ペーパーレス現金の所有権の立法論・株券との比較
2 ペーパーレスの現金への排他的権利(立法論)
3 ペーパーレス株券の『物』扱い(参考)
4 現金のペーパーレス化の法整備の必要性(引用)

1 ペーパーレス現金の所有権の立法論・株券との比較

現金(金銭・貨幣)の所有権(物権)の法的扱いは,通常の財産(動産)とは大きく違います。
詳しくはこちら|現金の特殊性による変則的な占有・所有権の扱い
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
これに関して,古くから,将来登場するであろうペーパーレス現金を想定した議論があります。ペーパーレス株券の現在の法的扱いを参考としたものです。
現在では,ビットコインのような仮想通貨(暗号通貨)の法的扱いを考える上で役立つものです。
本記事では,ペーパーレス現金の所有権に関する考え方を説明(紹介)します。

2 ペーパーレスの現金への排他的権利(立法論)

現在の現金(フィアットマネー)の法的扱いは,『物(モノ)』か『価値』かという分類がベースになっています。
この分類自体が妥当ではないという指摘もあります。
詳しくはこちら|現金の占有イコール所有権理論への批判・外国の法令や解釈の例
特に,ペーパーレス現金については,従来のモノか価値かという分類を超越しているという指摘があります。
つまり,ペーパーレス現金の特徴に適した扱いを立法(法整備)の中で決める必要があるということです。

<ペーパーレスの現金への排他的権利(立法論)>

将来的に現金をペーパーレス化するような場合には,『モノ』としての券面に対する所有権とは別に,券面によって表象される一定の金額上の『交換価値』に対しても何らかの排他的な権利を肯定することは,少なくとも立法論としてありうる
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p136

3 ペーパーレス株券の『物』扱い(参考)

ペーパーレス現金の法的扱いを考える上では,ペーパーレス株券の法的扱いが非常に参考になります。
ペーパーレス株券は,動産(民法上の『物』)ではありません。しかし,特別法(と解釈)によって物権(的な請求権)が認められています。
要するに,法整備によって現物の株券がある状態と同じ扱いを実現しているのです。

<ペーパーレス株券の『物』扱い(参考)>

あ 特定性なし・共有権あり(前提)

株券保管振替機構により『混蔵保管』されている株券について
事実上特定性を失っている
しかし,共有権(共有持分の推定)が認められている
※旧株券等保管及び振替に関する法律24条

い 物権的請求権

預託証券に対する投資家の物権的な請求権を認める(通説的見解)

う 占有権

口座簿に記載された者は株券を占有しているとみなされる
※旧株券等保管及び振替に関する法律27条

え 善意取得

『う』の占有擬制により善意取得が認められる
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p137

なお,株券等保管及び振替に関する法律はすでに廃止され,現在は社債,株式等の振替に関する法律に変わっています。

4 現金のペーパーレス化の法整備の必要性(引用)

以上の説明は,現金をペーパーレス化した時の物権(所有権)の扱いに関するものでした。
この点,現金をペーパーレス化する際には,物権以外の法律的な扱いについても法整備が必要となります。
いろいろな種類の法的扱いについては,ペーパーレス化された有価証券の扱いが参考となります。
詳しくはこちら|現金(金銭・貨幣)と有価証券の機能やペーパーレス化の可能性の比較
ところで,1995年の時点で将来の現金のペーパーレス化を課題として指摘する見解がありました。
今(2018年)になって考えると,仮想通貨の登場を予言していたような指摘です。現金のペーパーレス化を考察している論文の一部を紹介(引用)します。

<現金のペーパーレス化の法整備の必要性(引用)>

現金を金額(計数)で表される『交換価値そのもの』と捉えれば,現金は現在の銀行券および貨幣のように有体物である必要はないかもしれない。
つまり,『交換価値』を表す電子現金というようなものである。
ただ,『ペーパーレス化された現金代替物』ではなく,『ペーパーレス化された現金』とするには何が必要なのであろうか。
法律構成としては,現在の現金を『価値そのもの』というのであれば,『ペーパーレス化された現金』についても同様でなければならないであろう。
それにはどのような立法措置が必要なのであろうか。また,いくら『価値そのもの』であると説明しても,経済実態として人々に受け入れられること(一般的受容性)がなければ現金として機能しない。それにはどのようなスキームとすべきであろうか。今後検討すべき課題である。
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p124

本記事ではペーパーレス現金の法的扱いを説明しました。
これらの理論は,実際の広範な問題の解決をする時に,ベースとして使うことがあります。特に仮想通貨の法的解釈の中で活きることがあります。
実際に現金や仮想通貨の法解釈に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【現金の占有イコール所有権理論への批判・外国の法令や解釈の例】
【現金についての物権的返還請求権の原則的な扱い(否定)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00