1 現金の占有イコール所有権理論への批判・外国の法令や解釈の例
2 現金を『物』とみることへの疑問
3 占有イコール所有権理論への批判
4 現金の物権的請求権に関する他の見解(概要)
5 占有イコール所有権理論の起源
5 現金の物権の帰属に関する外国の解釈の例

1 現金の占有イコール所有権理論への批判・外国の法令や解釈の例

現金(金銭・貨幣)の根本的な法解釈として占有イコール所有権理論(法理)があります。
この理論は古くから普及し,判例も採用し,実務では確立しているといえます。
詳しくはこちら|現金についての占有イコール所有権理論(法理)の基本的内容
しかし,実際にはこの理論だけでは解決できない問題もあり,修正が必要となることも多いです。
そこで,占有イコール所有権理論自体への批判があります。また,解釈としてここまで特殊な扱いを作るのは無理があるとして立法(法整備)により解決すべきという指摘もあります。
また,外国の法令・解釈との比較という視点では,占有イコール所有権理論は国際的に多数派ではありません。
本記事では,このような,占有イコール所有権理論そのものではなく,これに関する議論・見解などについて説明します。

2 現金を『物』とみることへの疑問

占有イコール所有権理論の前提として,現金を民法上の『物』として認めています。
このこと自体が適切ではないという指摘もあります。
つまり,占有イコール所有権理論は,現金(貨幣)が素材自体が高価な金属であった時代を前提とする理論であり,現在には適合しないという考え方です。

<現金を『物』とみることへの疑問>

あ 権利・所有権の客体(『物』)の本質

本来,物が権利(特に所有権)の客体たりうるのは,それ自体が使用・収益・処分その他利用されるに適する性能すなわち効用を有することが理由である
『物』自体で使用価値・交換価値を有する

い 古い時代の貨幣

かつて貨幣がその有する素材価値(貨幣金属の実体価値)の故に流通していた時代があった
貨幣は『物』として取り扱われるべき根拠を有していた

う 現在の現金の価値の本質

今日では,現金はその素材価値の故に広く流通しているわけではない
実に社会的な信認に根ざし,かつ,法律的な強制通用力に基づく慣性的なものをそれ自身の価値として内在させている
つまり,流通支払の手段たることそのことを直ちに自己の価値として有するが故に流通しているのである
価値の帯有者として流通している
金属貨幣・紙幣の素材価値は低い
→現金(貨幣)はそれ自体で使用価値・交換価値はない
→現金は一般的な『物』と同一視はできない
→現金は『物』の領域を超越している
※末川博稿『貨幣とその所有権』/『経済学雑誌1巻2号(1937年)』/末川博著『物権・親族・相続』岩波書店1970年所収p267

3 占有イコール所有権理論への批判

また,占有イコール所有権理論本体への批判もあります。
占有イコール所有権理論のベースは,『物』か『価値』かという視点での解釈にあります。
このように2つに分類するから無理が生じるのであり,最初から現金に適したルールを作るべきだ,という考え方です。

<占有イコール所有権理論への批判>

あ 占有イコール所有権理論の弱点

現金は価値そのものだといっておきながら,所有権を持ち出すことはやや奇異である
そもそも『現金は価値である』という一種のドグマですべてを解決しようとするところに無理があるのであろう
現金を『物』,『価値』として扱う見解のいずれも,それだけでは妥当な結論をみちびけない

い 2面性を認める見解

結局,現金を『価値』か『モノ』かのいずれか一方に割り切るのではなく,その2面性を有することを前提に,個々の規定や具体的なケースに即したルール化が必要と思われる
※四宮和夫稿『物権的価値返還請求権について−金銭の物権法的一側面−』/星野英一編『私法学の新たな展開』有斐閣1975年p185
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p135

う 外国の解釈との比較(比較法)

(占有イコール所有権法理に対して)
諸外国に比しわが国では,現金の特殊性を強調しすぎ,かえってその新たな公式から演繹すれば足りるかのようなムードが感じられなくもない
問題として提起しておく
『占有あるところに所有あり』というスローガンで割り切ることはできない
※川島武宣ほか編『新版注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p151,152

4 現金の物権的請求権に関する他の見解(概要)

占有イコール所有権理論を前提とした具体的な法的扱いの1つとして現金の物権的返還請求権は否定されるというものがあります。
これについては,個別的な事情に応じて扱い(結論)を変えるという見解が主流です。この見解にはいくつかのバリエーション(学説)があります。
詳しくはこちら|現金の物権的返還請求権を認める見解(理論)や判断基準
また,将来普及すると予想されるペーパーレス現金を想定すると,解釈の範囲を超えるので,立法(法整備)で対応すべきであるという指摘もあります。
詳しくはこちら|ペーパーレス現金の所有権(排他的権利)の立法論・株券との比較

5 占有イコール所有権理論の起源

以上のように,占有イコール所有権理論は,批判もありますが日本では主流(判例・通説)となっています。
ところで,この理論はもともとドイツで提唱されたものです。日本はこれを持ち込んだのです。

<占有イコール所有権理論の起源>

最初にドイツで主張された
ドイツでは通説とならなかった(後記※1)
日本では通説となった
※能見善久稿『金銭の法律上の地位』/星野英一編『民法講義 別巻1』有斐閣1990年p110

5 現金の物権の帰属に関する外国の解釈の例

外国の法令や解釈としては,現金の占有イコール所有権理論は多数派ではありません。この理論の発祥であるドイツでも,この理論は有力ではないのです。
外国の法令・解釈は,日本の法解釈でも参考となることがあります。

<現金の物権の帰属に関する外国の解釈の例>

あ 世界的シェア

比較法的に見て,現金に関する”占有イコール所有権理論を採用する国は必ずしも多くない
※能見善久稿『金銭の法律上の地位』/星野英一編『民法講義 別巻1』有斐閣1990年p111

い 具体例

ア ドイツ
価値の返還請求を認める説が有力である(※1)
イ 英米法
擬制(法定)信託 や エクイティ法上の先取特権という法理により,現金の所有権といった問題にはとらわれずに具体的ケースに応じた対応がとられている
※古市峰子稿『現金,金銭に関する法的一考察』/『金融研究14巻4号』日本銀行金融研究所1995年12月p130

本記事では現金の占有イコール所有権理論への批判や外国の法令・解釈との比較などについて説明しました。
これらの理論は,従来の現金や仮想通貨に関する実際の広範な問題の解決をする時に,ベースとして使うことがあります。
実際に現金や仮想通貨の法解釈に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。