1 「権利」「◯◯権」の意味(実定法・立法・政策論・講学上による違い)
2 各種辞典による「権利」の説明
3 法令用語辞典の背景
4 法令用語辞典の「法律」の説明
5 実定法上の「権利」としての「◯◯権」の呼称
6 実定法とは別の意味での「権利」の呼称
7 「◯◯権者」の呼称の意味
8 民法709条の「権利」の意味(概要)
9 仮想通貨の「権利」性(概要)

1 「権利」「◯◯権」の意味(実定法・立法・政策論・講学上による違い)

私生活や事業・産業の中のいろいろな場面で、権利が登場します。権利の意味自体が実務で問題となることはあまりありません。
しかし、たとえば新しいテクノロジーなどの、今まで議論がなかった分野の法的問題を解決する際に、権利の意味が問題となることがあります。
本記事では、権利の意味や「◯◯権」が使われた時のその理論的な意味について説明します。

2 各種辞典による「権利」の説明

「権利」という用語はとても基本的、原始的であり、抽象度の高いものです。いろいろな辞典で「権利」が説明されています。基本的すぎて、説明が難しいともいえます。
まず、法令用語辞典は、後述のように実定法で使われる文言としての説明ですが、ここでは、法律上保障された力と説明されています。
法律用語辞典では、法律上正当に認められた力という説明です。
法律学小辞典では、以上の2つの辞典とは違い、国家や法が存在する以前の状態における「権利」の意味の説明から始まっています。つまり、実定法上の「権利」の意味よりも、もっと抽象度の高い「権能」の意味が、「権利」の意味として説明されています。その上で、国家や裁判制度が誕生した後では「権利」の意味が違ってくるということも記述されています。
最後に、一般的な国語辞典では、法律上の能力、つまり法律的な意味での「権利」とともに、法律とは関係ない、一定の資格・能力利益も明記されています。家族内で使う「チャンネル権」のような、日常用語で使う「権利」も含めた説明といえます。

各種辞典による「権利」の説明

あ 法令用語辞典の「権利」の説明

権利
一定の利益を自己のために主張することができる法律上保障された力をいう。
私法関係において認められる物権、債権、親族権その他の権利を「私権」といい(民法1、3条、国有財産法18条1項、河川法2条1項、道路法4条等)、公法関係において認められる権利を「公権」という(旧刑法には、剝奪公権、停止公権という制度があったが、現行法令の用語としては、「公権」という用語は、余り使われない。)。
公権は、財政権、警察権、刑罰権等の国家的公権と国民の有する個人的公権とに分かれ、後者は、更に、選挙権その他の参政権、訴権その他の受益権及び自由権(思想及び良心の自由、信教の自由、集会、言論の自由等)に分けることができる。
※角田禮次郎ほか編『法令用語辞典 第10次改訂版』学陽書房2016年p227

い 法律用語辞典の「権利」の説明

けんり【権利】
一定の利益を請求し、主張し、享受することができる法律上正当に認められた力をいう。
相手方に対して作為又は不作為を求めることができる権能であり、相手方はこれに対応する義務を負う。
権利は法によって認められ、法によって制限される。
私法関係で認められる権利としては、物権、債権、親権などがあり、公法関係で認められる権利としては、刑罰権等の国家的公権と、選挙権等の参政権、訴権等の受益権、自由権などの個人的公権とがある。
※法令用語研究会編『法律用語辞典 第5版』有斐閣2020年p322

う 法律学小辞典の「権利」の説明

権利
相手方(他人)に対して、ある作為・不作為を求めることのできる権能
権利の意味を一般的に述べることは極めて難しいが、(イ)一定の社会集団内の構成員にとって、利益あるいは価値と観念される事態の存在、(ロ)その利益あるいは価値の配分を巡って紛争が生じた場合には、紛争当事者以外の者の判定によって紛争が解決されなければならないという社会的要請及び社会的期待の存在、(ハ)その判定が、正当性をもつ客観的な基準にのっとって行われるという観念の存在の3つを要素として成立すると考えられる。
権利の語が同時に法や正義を意味している(ラテン語のius、フランス語のdroit、ドイツ語のRecht)のは、このためである。
(イ)における社会集団が国家と呼ばれ、(ロ)の判定が強制力を伴う紛争解決機構により行われるようになって裁判と呼ばれ、(ハ)の基準が法律と呼ばれるようになった段階においては、権利とは法律によって保護される利益と観念される。
このような観念が成立した以降では、権利は、法律によって保護される利益というにとどまらず、その保護のいろいろな態様を体系的・論理的に説明し処理するための法技術概念として構成されている。
この意味での権利は、公権・私権、物権・債権、財産権・身分権、形成権、請求権実体権、訴権等に分類される。
※高橋和之ほか編『法律学小辞典 第5版』有斐閣2016年p339、340

え デジタル大辞林(国語辞典)の「権利」の説明

けん‐り【権利】
1 ある物事を自分の意志によって自由に行ったり、他人に要求したりすることのできる資格・能力。「邪魔する権利は誰にもない」「当然の権利」「権利を主張する」⇔義務。
2 一定の利益を自分のために主張し、また、これを享受することができる法律上の能力。私権と公権とに分かれる。「店の権利を譲る」⇔義務。→ライツ(rights)
3 権勢と利益。
※『デジタル大辞林』

3 法令用語辞典の背景

以上のように、辞典(文献)によって「権利」についてのいろいろな説明があることが分かります。「権利」という用語は、もともと定義なく使われるものであって、複数の意味を持つ、ということを改めて、はっきりと認識させられます。
ところで、法令用語辞典法律学小辞典の2つの文献でも「権利」の説明が違うように読めます。
この点、法令用語辞典自体には特に説明はありませんが、この文献では、実定法における用語の意味が記述されているといえます。
逆に法律学小辞典の説明は、実定法上の意味以外(日常用語の意味)に近い(ものも記述されている)といえるでしょう。

法令用語辞典の背景

・・・歴代内閣法制局長官の編集に係り実定法の法概念を記述していると考えられる法令用語辞典で・・・
※片岡義広稿『再説・仮想通貨の私法上の性質』/『金融法務事情2106号』金融財政事情研究会2019年1月p9

4 法令用語辞典の「法律」の説明

では、実定法上の「権利」の意味について説明を続けます。権利とは法律上補償された力とされています。この「法律」とは何でしょうか。実は一般的に「法律」の意味を定義する法令はみあたりません。
実定法上の「権利」の意味としては、文字どおり、実定法(成文法)を意味すると考えられます。

法令用語辞典の「法律」の説明

法律
1)日本国憲法の定める方式に従い国会によって制定される国法の形式をいう。
「法律の定めるところにより」(憲法4条1項)、「法律でこれを定める」(憲法10条)、「法律の定める手続」(憲法31条)という場合の「法律」は、この意味に用いられる。
法規の定立は、一般的に、この国法形式の所管とされ、その効力は、憲法及び条約に次ぎ、他の国法形式に勝るものと考えられる。
2)このような法形式による成文法をいう。
「この法律の施行に関し必要な細目は、・・・・・・政令でこれを定める」(国家行政組織法27条)、「この法律の定めるところによる」(裁判所法1条)、「他の法律に特別の定めのある場合を除くほか」(国有財産法1条)という場合の「法律」は、この意味である。
3)まれに、2)の意味の成文法のほか、広く命令、条例その他成文の法規一切を含めていう場合がある。
「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」(刑法38条3項)という場合の「法律」は、この意味に用いられている。
※角田禮次郎ほか編『法令用語辞典 第10次改訂版』学陽書房2016年p710

5 実定法上の「権利」としての「◯◯権」の呼称

ところで、「権利」は、その名称や性質ごとに「◯◯権」として、呼称されることがあります。
実弟上の「権利」といえるためには、つまり実定法上の「◯◯権」と呼称できるためには、法律上で保障されている必要があります。より詳しくいうと、当該権利が定義され、かつ、要件と効果が規定されている、ということになります。

実定法上の「権利」としての「◯◯権」の呼称

あ 実定法上の「権利」の要件

裁判上の保護を受けうる何らかの請求権が認められ、また法的保護を受けて何らかの法律効果が発生する法律上の地位が認められるものであったとしても、その請求権自体またはその法律上の地位自体が
「法律」で①定義、②(法律)要件および③(法律)効果が規定されている確かな保障のあるものでない限り、・・・「○○権」とはいわないし、いえないのである。
※片岡義広稿『再説・仮想通貨の私法上の性質』/『金融法務事情2106号』金融財政事情研究会2019年1月p10

い 利益・地位と「権利」の違い

実定法上、「○○権」というものは、実定法上保障がなされたものをいい、それが法律上保護される利益または法律上の地位であっても、法律に規定がないものについては、「○○権」とはいわない。
※片岡義広稿『再説・仮想通貨の私法上の性質』/『金融法務事情2106号』金融財政事情研究会2019年1月p9

6 実定法とは別の意味での「権利」の呼称

前述のように「権利」には複数の意味があり、実定法上の「権利」とは別の意味の「権利」もあります。つまり、「◯◯権」と呼ばれていても、それが実定法上の権利ではない、ということもあります。立法論、政策論、講学上の概念としての「権利」という意味です。
また「実定法上の権利」ではなくても、いわば俗称として「◯◯権」と呼ぶような状況もあります。

実定法とは別の意味での「権利」の呼称

あ 実定法とは別の意味での「◯◯権」の呼称

ところで、立法論、政策論として、また講学上の概念として「○○権」の概念が提唱されることは多い。

い 立法論・政策論としての「◯◯権」

「環境権」「情報コントロール権」等であり、また、私法上でも、民法(債権関係)改正の過程では、「追完権」という概念での立法提案もなされた。
しかし、これらの概念は、政府(内閣法制局)も最高裁判所の判例も、いずれも認めるところではない。
※片岡義広稿『再説・仮想通貨の私法上の性質』/『金融法務事情2106号』金融財政事情研究会2019年1月p10

う 講学上の「◯◯権」の呼称

ア 基本 なお、実定法上「○○権」といわない例は、ほかにも、譲渡担保とはいっても譲渡担保権とはいわない等の例がある。
※片岡義広稿『再説・仮想通貨の私法上の性質』/『金融法務事情2106号』金融財政事情研究会2019年1月p10
イ 俗称としての呼称 実定法上の権利という意味ではなく、便宜的に(俗称として)「譲渡担保権」という呼称が用いられることはある
同様に、実定法上の権利という意味ではなく「営業権」という呼称が用いられることはある
詳しくはこちら|営業権(のれん)の意味と一般的な評価方法

7 「◯◯権者」の呼称の意味

「◯◯権」という呼称の使われ方と近いものとして、「◯◯権者」というものがあります。これについては、より広く「俗称」としての使われ方がされています。

「◯◯権者」の呼称の意味

あ 「◯◯権者」の呼称を用いる状況

実定法上の権利そのものではなく、講学上の概念であっても、当該概念と関連する権利が帰属する者(主体)を示す呼称として「◯◯権者」を用いることがよくある
「◯◯権者」という呼称があっても、実定法上「◯◯権」が存在することを意味するわけではない

い 具体例(譲渡担保)

「譲渡担保」の仕組みに該当するケースにおいて、対象となる所有権(または担保権)が帰属する者のことを「譲渡担保権者」と呼称することがある
「譲渡担保権」という実定法上の権利があることを意味しない

8 民法709条の「権利」の意味(概要)

ところで、民法709条は不法行為責任を定めていますが、条文の中に「権利」が登場します。権利の侵害が要件の1つ(一部)となっているのです。以前はこの「権利」に、一定の範囲の「利益」も含める解釈がなされていました。つまり、「権利」を実定法上の「権利」に限定しない解釈がとられていたのです。ただし、この解釈には、消極的・防御的な地位を(被害者に)与えるという民法709条の特殊性によるものであり、「権利」という用語について一般論としていえることはでありません。
なお、現在では条文に「法律上保護される利益」(の侵害)が追記されています。その結果、条文上の「権利」は実体法上の「権利」に限定されたともいえます。
民法709条の「権利」(侵害の要件)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法709条の「権利」「利益」侵害の要件(判例の変遷と条文化)

9 仮想通貨の「権利」性(概要)

仮想通貨(暗号資産)は、テクノロジーの進化によって近年登場したものであり、法的性質について議論が続いています。その議論の中に、権利(性)が認められるかどうかというものもあり、実情や、以上のような「権利」の意味から考えると権利性を否定する見解が有力となっています。
詳しくはこちら|仮想通貨を『価値記録』とする公的見解(答弁書・中間報告・WG報告)

本記事では権利の意味「◯◯権」という呼称の理論的な意味について説明しました。
この理論は、単独で使うわけではなく、具体的な問題解決のためのツールとして使う理論です。
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