【債権者の明確な受領拒絶の意思表明による債務不履行責任免除(口頭の提供すら不要)】

1 債権者の明確な受領拒絶の意思表明による債務不履行責任免除
2 債権者の明確な不受領意思表明による債務不履行責任免除
3 賃貸借の賃貸人の不受領意思表明による債務不履行責任免除
4 分割払いを無視した要求による債務不履行責任免除

1 債権者の明確な受領拒絶の意思表明による債務不履行責任免除

民法上,債務者は弁済の提供をしないと債務不履行責任を負います(民法492条)。そして弁済の提供の中には,原則的な現実の提供と,例外的に認められる簡易な口頭の提供があります。
詳しくはこちら|弁済の提供の基本(提供の方法(種類)と効果)
さらに例外的に,債権者が明確に受領を拒絶しているケースでは,口頭の提供をさらに簡略化して,弁済の提供をしなくても債務不履行責任が生じないということになります。
本記事では,この理論について説明します。

2 債権者の明確な不受領意思表明による債務不履行責任免除

債権者が債務の履行の受領を拒絶していると,債務者の負担は口頭の提供まで緩和されます。
さらに,債権者が明確に履行の受領を拒絶する意思を表明している場合は,口頭の提供すら不要となります。この理論は多くの判例で確立しています。
弁済の提供は不要ですが,履行の準備は必要です。
履行の準備の内容については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|口頭の提供の前提である『(弁済)履行の準備』の意味や解釈

<債権者の明確な不受領意思表明による債務不履行責任免除>

あ 提供なしでの債務不履行責任免除

債権者が明確に債務者の履行を受領しない意思を表明している場合
→債務者が履行の準備をしていれば,履行遅滞に陥らない
弁済の提供(口頭の提供)がなくても,債務者は債務不履行責任を負わない
※大判昭和10年8月5日;売渡担保のケース

い 履行の準備の不備による債務不履行責任発生

債務者が履行を準備することができない場合
→債権者の受領拒絶意思が明確であっても債務不履行に陥る
※最高裁昭和44年5月1日

3 賃貸借の賃貸人の不受領意思表明による債務不履行責任免除

実務で債権者が受領しない意思を表明することが生じる典型例は賃貸借における紛争です。
賃貸人(債権者)が賃料を受領しない態度が明確であれば,賃借人(債務者)は弁済の提供(口頭の提供)すら不要です。
ただし実際には明確な受領拒絶(提供不要)と普通の受領拒絶(口頭の提供が必要)との判定ははっきりしません。実務では,賃借人は念のため弁済の提供や供託をしておくことが望ましいです。

<賃貸借の賃貸人の不受領意思表明による債務不履行責任免除>

あ 紛争中の賃料受領拒否

賃料の増額や明渡の請求に関する紛争中において
賃貸人が(従前の)賃料を受領しない
賃借人は賃料を払わないままとなっていた
→賃貸人が賃料債務の不履行を理由とする解除を主張する

い 裁判所の判断(原則的ケース)

賃借人は債務不履行に陥らない
賃借人には債務不履行について帰責性がないことが考慮されることもある
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
※最高裁昭和32年6月5日
※最高裁昭和23年12月14日
※最高裁昭和34年6月2日

う 裁判所の判断(例外的ケース)

(賃貸人の受領の拒絶の態度が強度ではない場合)
賃借人の提供がない限り債務不履行に陥る
※最高裁昭和32年9月12日
※最高裁昭和40年9月28日

4 分割払いを無視した要求による債務不履行責任免除

明確な受領拒絶の意思表明の具体的な態度にはいろいろなものがあります。
その1例として,分割払いなのに一括払いを要求したというケースがあります。このような不合理で非常識な要求をしている態度から,(合意どおりに)分割払いの金銭を提供しても受け取らないことが明確であると判断されたのです。

<分割払いを無視した要求による債務不履行責任免除>

あ 分割払いを無視した一括請求

和解により分割払いが合意された
債権者が一括払いを要求した
債務者は弁済の提供をしなかった

い 裁判所の判断

債権者は明確に受領を拒絶している
債務者は弁済の提供(口頭の提供)をしなくても債務不履行に陥らない
※東京高裁昭和57年11月30日

本記事では,債権者の明確な受領拒絶の意思表明があるケースで弁済の提供が不要となる(債務不履行責任が発生しない)理論について説明しました。
実際には,具体的な状況によって債権者が明確に受領を拒絶する意思を表明したといえるのかどうかという判断が問題となります。
実際に債務の弁済(支払,納品)についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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