【営業権(のれん)の意味と一般的な評価方法】

1 営業権(のれん)の意味と一般的な評価方法
2 「営業権」の意味
3 「営業権」の法的位置づけ
4 市場取引のある営業権の評価
5 市場取引のない営業権の評価の枠組み
6 市場取引のない営業権の評価の計算式
7 企業者報酬の計算方法
8 営業(権)の差押(概要)

1 営業権(のれん)の意味と一般的な評価方法

土地や建物の明渡の際の明渡料(立退料)の計算の中で営業権(の価値)が登場することがあります。
詳しくはこちら|明渡による営業補償における廃業の判断と明渡料算定
本記事では,営業(権)の意味や評価方法について説明します。

2 「営業権」の意味

「営業権」とは,簡単にいえば営業の収益力ということになります。のれんということも多いです。

<「営業権」の意味>

あ 営業権の意義

営業権とは,通常,暖簾(のれん)や老舗(しにせ)などと呼ばれている企業財産の一種であり,企業のもつ営業上の収益力が他の同業種の平均的な収益力に比較して超過している場合,その超過している部分(超過利潤)を生む原因となっている一種の無体財産権である。

い 営業権の構成要素

営業権は,次のような要素によって期待される将来の超過収益を資本還元した現在価値として評価される価値である
ア 企業の長年にわたる伝統・社会的信用の蓄積イ 技術的面あるいは人的面の優秀性ウ 取引先・顧客に対する比較優位エ 独占的分野の保持やプライスリーダーシップオ 新規取得困難な許認可・権利関係 ※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p194,195

3 「営業権」の法的位置づけ

ところで「営業権」という言葉は,法律上の権利,という意味ではありません。営業の価値という意味で使われるものです。
なお,税法や会計学では少しニュアンスの違う意味を持ちます。

<「営業権」の法的位置づけ>

あ 民事上の位置づけ

営業権は,法律上の特権を包含されていることもあるが,それ全体としては法律で認められた権利ではなく「事実に基づく財産」といわれるものである
法律上保護されている商号権,商標権等と異なり商取引上の事実関係としての価値を有するものである。
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p195
(参考)「権利」の持つ複数の意味については別の記事で説明している
詳しくはこちら|「権利」「◯◯権」の意味(実定法・立法・政策論・講学上による違い)

い 法人税法上の位置づけ(判例)

(法人税法上の)営業権とは,当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用,立地条件,特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した,他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係であるとの見解に立つて,・・・原審の判断は,正当として是認することができる。
※最判昭和51年7月13日

う 会計学上の位置づけ

自然発生的な「のれん」は,資産として貸借対照表に計上することはできない
有償譲渡,合併により取得した「のれん」は,貸借対照表に営業権として計上することができる
この場合は,営業権は,無形固定資産として減価償却される
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p195

4 市場取引のある営業権の評価

以上のような営業権が実際の案件で使われる典型的な状況は,土地や建物の明渡の際に営業補償をする(明渡料を支払う)というものです。この場合は,営業権の価値を計算することが必要になります。
営業権の評価方法は大きく2つに分けられます。
1つ目は,市場で取引される営業権です。この場合,市場での取引価格が適正な評価額といえます。とはいっても実際にはその取引価格(金額)をはっきりと特定することは容易ではありません。

<市場取引のある営業権の評価>

あ 収用の補償における規定

営業権等の価格は,営業権等が資産とは独立して市場で取引される慣習があるものについては,正常な取引価格によるものとする。
※用対連細則第26

い 取引価格の判定の困難性

ア 自然発生的な営業権 現実には,比較考量し得る営業権等の取引市場が未成熟であること又は格差判定の基準がまだ確立されていないため,実務的にはなかなか困難な方法といえる
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p196
イ M&Aにより取得した営業権 貸借対照表の資産の部の無形固定資産の項に表示されており,そこで営業権の存在を確認することができる。
・・・貸借対照表上の営業権は,償却資産であり簿価が超過収益力を表しているか否か,また,その営業権が取引時点から時が経過しており果たして適正な市場価値を有するか否か,客観的に判定することが非常に困難なことである。
これらを考慮すると,取引の時点が新しく明らかに営業権の市場価値が把握できる場合はともかく,一般的には取引事例から適正な価格を求めることは困難といわざるを得ない
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p197

5 市場取引のない営業権の評価の枠組み

一般に取引されることがない営業権は,取引価格というものがありません。そこで,大雑把にいうと,将来生み出す利益を元にして営業権の評価額を計算します。収益還元といわれる手法です。
この手法が明文の規範になっているものとして,土地の収用や相続税の計算のための基準があります。

<市場取引のない営業権の評価の枠組み>

あ 収用の補償における評価

営業権の取引事例がない場合は,企業が将来生むと期待される超過収益の現価の総和を営業権の評価とする
具体的には,平均収益額から企業者報酬額及び自己資本利子見積額を控除して求めた超過収益額を還金元利回りで還元して求める
※関東地区用地対策連合協議会,損失補償算定標準書,細則第26第2項
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p197

い 財産評価基本通達による評価

相続税・贈与税の計算における営業権の評価については,財産評価基本通達に規定がある
基本的な枠組みは『あ』と同様であるが,細かいところでは異なる

6 市場取引のない営業権の評価の計算式

市場で取引されていない営業権の評価額の具体的な計算方法として公的なものを2つ挙げます。土地の収用の補償の際に用いるものと,相続税の計算で使うものです。
いずれも,年間の利益の10〜12.5年分を営業権の評価とします。ただしここで使う年間の利益については,企業者報酬資産に対する利子(に相当する金額)を差し引くという調整をします。
企業者報酬とは,企業のオーナーへの配当という趣旨です。仮に営業を継続したとしても(利益のうち)オーナー配当分は蓄積されない(残らない)という考え方です。
資産に対する利子は,営業をしなくても,資産(財産)を当該営業に用いずに別に運用すれば生じる利益です。そこで資産を営業に用いたことによって得る利益としては利子相当額を控除することになります。

<市場取引のない営業権の評価の計算式>

あ 営業権の評価(本体)

ア 収用における計算式 営業権(補償額)=年間超過収益額(い)/年利率(8%)
年間超過収益額の12.5年分ということになる
イ 財産評価基本通達 原則として,超過利益金額(い)の10年分営業権の価額とする

い 年間超過収益額

ア 収用における計算式 年間超過収益額=平均収益額−年間企業者報酬額(後記※2)−自己資本利子見積額
自己資本利子見積額=自己資本相当額×8%
イ 財産評価基本通達 超過利益金額=平均利益金額×0.5-標準企業者報酬額(後記※2)−総資産価額×5%
※財産評価基本通達165,166
※関東地区用地対策連合協議会,損失補償算定標準書44条
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p197,198

7 企業者報酬の計算方法

前述のように,年間の利益を計算する際,企業者報酬(オーナー配当分)を差し引きます。具体的な企業者報酬の金額の計算方法について,財産評価基本通達(相続税の計算で用いる基準)が示しています。

<企業者報酬の計算方法(※2)

あ 収用における基準

計算式として定められていない

い 財産評価基本通達
平均利益金額の区分 標準企業者報酬額
1億円以下 平均利益金額×0.3+1,000万円
1億円超3億円以下 平均利益金額×0.2+2,000万円
3億円超5億円以下 平均利益金額×0.1+5,000万円
5億円超 平均利益金額×0.05+7,500万円

※財産評価基本通達165,166
※関東地区用地対策連合協議会,損失補償算定標準書44条
※用地補償実務研究会編著『営業補償の理論と実務 改訂4版』大成出版社2014年p197,198

8 営業(権)の差押(概要)

ところで,営業(権)に価値がある(財産である)といっても,営業(権)そのものを差し押さえることはできません。差押の対象として認められる要件を欠くのです。このことは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|営業に関する差押対象物|差押対象物の要件=独立性・換価可能・譲渡性

本記事では,営業権の意味と一般的な評価額の計算方法を説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断(計算方法)や最適な対応方法は違ってきます。
実際に営業権(営業補償)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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