【将棋や囲碁の棋譜に著作権(著作物性)はないという傾向である】

1 将棋の棋譜の著作権の有無の統一的見解はない
2 著作物の定義と列挙の規定では判断できない
3 加戸守行氏は棋譜を著作物として認める
4 渋谷達紀氏は棋譜を著作物として否定する
5 中山信弘氏は棋譜を著作物として認めていない
6 チェスでは世界的に棋譜の著作権を否定する傾向
7 棋譜は著作物として否定される傾向にある(まとめ)
8 棋譜は俳句と違って表現・文学という性格がない

1 将棋の棋譜の著作権の有無の統一的見解はない

将棋の棋譜が著作物に該当するかどうかは,判例などの統一的な見解がありません。
仮に著作物であれば,報道された棋譜をSNSなどでさらに伝える(拡散する)ことは著作権侵害となります。
著作物でなければ,著作権はないということになります。棋譜を伝達しても著作権の侵害とはなりません。
本記事では棋譜が著作物に該当するかどうかのいろいろな見解を紹介して説明します。

2 著作物の定義と列挙の規定では判断できない

まず,著作物に該当するものがなにであるか,については,著作権法に定義の規定があります。
簡単にいえば,思想や感情を創作的に表現したものです。
正確には,文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する,という要件もあります。
詳しくはこちら|『著作物』の定義(基本・創作性の判断基準)
さらに著作権法には,具体的な著作物の例がたくさん示されています。
しかし,これらの著作権法上の定義や例示などの規定からは,棋譜が著作物に該当するかしないかを明確に判断できません。
公的で統一的な見解である判例もありません。
以下,いろいろな見解(学説)を紹介します。

3 加戸守行氏は棋譜を著作物として認める

加戸守行氏は著書の中で,棋譜を著作物として認めています。
特に具体的な理由の説明は付されていません。

<加戸守行氏の見解(※1)

あ 著作権法10条の例示(前提)

著作物は著作権法10条に例示されているものに限られない
詳しくはこちら|著作物の例示の規定(条文・趣旨・プラグラムの例外)

い 例示以外の著作物

著作権法10条の例示以外の著作物について
例としては,碁や将棋の棋譜がある

う 見解の引用

『棋譜も私の理解では対局者の共同著作物と解されます・・・』
※加戸守行『著作権法逐条講義 6訂新版』著作権情報センター2013年p120

4 渋谷達紀氏は棋譜を著作物として否定する

渋谷達紀氏は著書の中で,前記の肯定説を踏まえて批判しています。
要するに表現の形式が駒の動きの集合なので,創作的な表現ではないというものです。
説得力があるように思えます。

<渋谷達紀氏の見解>

あ 肯定説(批判の前提)

囲碁や将棋の棋譜について
対局者の共同著作物であるとする見解(前記※1)がある

い 創作性の否定

しかし,棋譜は,勝負の1局面を決まった表現形式で記録したものである
→創作性の要件を欠く
→著作物ではない

う 事実の記録としての性格

棋譜は事実の記録である
新聞などに掲載されている棋譜について
→事実の伝達(雑報)(著作権法10条2項)とみるべきものである
※渋谷達紀『知的財産法講義2第2版』有斐閣2007年p24

え 詰将棋の棋譜について(参考)

一般的な棋譜と同様に著作物ではない
詳しくはこちら|将棋に関する法律問題(著作権や賭け将棋による賭博罪)

5 中山信弘氏は棋譜を著作物として認めていない

中山信弘氏は著書の中で,前記の肯定説を紹介していますが,自身の見解を明確には示していません。
一方,著作物の例示以外の著作物は実際にはほとんどないという指摘をしています。
全体としては棋譜を著作物としては否定する方向性であるように読めます。

<中山信弘氏の見解>

あ 著作物の例示の例外のレアリティ

著作権法10条に著作物の例示が列挙されている
これ以外の著作物が認められることは事実上少ない
※中山信弘『著作権法 第2版』有斐閣2014年p84
詳しくはこちら|著作物の例示の規定(条文・趣旨・プラグラムの例外)

い 棋譜の著作物該当性

他の見解(前記※1)の紹介にとどまる
肯定・否定の見解を明示していない
※中山信弘『著作権法 第2版』有斐閣2014年p84
→例示列挙に含まれない棋譜を著作権として否定するように読める

6 チェスでは世界的に棋譜の著作権を否定する傾向

囲碁や将棋ではなく,チェスについては,世界的に多くの団体が棋譜の権利(著作権)を否定しています。
つまり著作物としては否定しているということです。
ただし,日本チェス協会は棋譜を財産として認める見解を示しています。

<チェスに関する団体の見解(参考)>

あ 国際チェス連盟(FIDE)

棋譜は著作物ではないという見解

い 日本チェス協会(JCA)

棋譜は著作物(主催者の財産)であるという見解

7 棋譜は著作物として否定される傾向にある(まとめ)

以上は棋譜の著作物性についての主要な見解(学説)でした。
全体としては,棋譜には(表現としての)創作性がないので著作物ではないという見解が説得的であるように思います。

8 棋譜は俳句と違って表現・文学という性格がない

さらに補足すると,著作物の要件には,文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する,というものもあります。
棋譜はこれらに該当する表現ではないということもいえると思います。
比較として俳句を考えます。
ひらがなで考えると,個々の文字は約100とおり(文字)の選択肢があり,それが(約)17個組み合わさっているといえます。
将棋の指し手も有限の選択肢が(主に)100個程度組み合わさったものです。
組み合わせ的には似ているのですが,目的が大きく違います。
俳句は文章(表現)自体がより面白みのあるものにするという目的があります。
将棋の指し手(棋譜)はそれぞれが相手に勝つという目的があります。
文芸の範囲かどうか,というところが大きく違います。
この点からも棋譜が著作物として扱われることの違和感が生じます。
つまり,棋譜は著作物ではないという方向性であると思います。

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