1 『将棋』×法律|関係する場面はいろいろとある
2 棋譜は著作物ではない
3 『戦法』自体に著作権はない|『手柄横取り』は違法となることもある
4 『戦法』に関して法的に争われた例;居飛車穴熊戦法元祖訴訟
5 詰将棋は著作物として認められる可能性もある
6 『対局プログラム』×著作権|著作物として認められる
7 将棋×賭博罪|勝負にカネを賭けると賭博罪となる

本記事では,将棋に法律が絡むテーマを説明します。
将棋とテクノロジーとの関係については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|将棋・チェス×テクノロジー|棋士vsコンピュータ|王者vsワールド|集合知

1 『将棋』×法律|関係する場面はいろいろとある

将棋と法律との接点,はいくつか挙げられます。

(1)将棋×著作権

棋譜やその解説,あるいは詰将棋の問題について,著作権が主張されることもあります。
また,将棋(対戦)のコンピュータ上のプログラムが飛躍的に進化しています。
プログラムの著作権も主張されるケースがあります。
実際に紛争に至り『盤外の戦い』となった実例もあります。

(2)将棋×賭博罪

一方,賭け将棋となると,今度は賭博罪が問題になります。
実際に警察に立件され,刑罰が課せられている例は聞いたことはありませんが,理論的には問題となります。

(3)将来も新たな法律問題が生じる

サイエンス・テクノロジーの進歩とともに,将棋も進化してゆくことでしょう(別記事;リンクは冒頭記載)。
そうすると想定外の法律との接点が生じることもあると思います。

(4)将棋と法律|似ているところ

接点ではないかもしれませんが,将棋と法律の世界で似ていると感じることがあります。

<将棋と法律の世界の類似点>

あ 過去のデータ(これを蓄積したデータベース)が重要である
将棋の世界 法律の世界
過去のデータベース 棋譜 判例
い 進化(=時代の流れに乗ること)も重要である

新たな戦法の創造,時代に即した解釈の変化

2 棋譜は著作物ではない

棋譜自体が著作権かどうか(著作権があるか否か),という問題については,判例などの公的見解がありません。
学説などの見解としては著作物ではないという傾向が強いです。
詳しくはこちら|将棋や囲碁の棋譜に著作権(著作物性)はないという傾向である
以上は純粋な棋譜についての解釈です。
棋譜に解説を付けたものは,著作物です。
また,棋譜『集』についても著作物となることがあります。
棋譜の選択や並べ方・組み合わせ方(編集),という作業が創作的と考えられるからです。
さらに,コンピュータのプログラムによって,大量の棋譜データを検索可能な状態にしたシステム,の全体,つまりデータベースについても著作物となる可能性があります(著作権法2条1項10号の3)。
棋譜自体は著作物ではないという見解を前提にすると,次のようになります。

<棋譜に著作権がない前提での具体例>

あ 具体例

ア 棋譜のみの転載
棋譜をコピーしてた
これに独自のコメント(解説)を加えて公表した
→著作権侵害ではない(適法)
イ 解説付きの棋譜の転載
他者が『解説付きの棋譜』を公表した
これをそのままコピー(転載)して公表した
→著作権侵害である

い 公表の内容の例

出版・ブログやSNSへの投稿(掲載)・動画配信など

法解釈については以上のとおり,画一的・統一的な公的見解はありません。
しかし,棋譜は著作物ではないという見解を前提とすると,棋譜のコピーが自由→ファンがコメントを交換しやすくなる,というプロセスにつながります(上記あ)。
これは,将棋のファンを増やす効果が大きいでしょう。
むしろコメント・見解交換のプラットフォームの充実が望ましいと思います。

3 『戦法』自体に著作権はない|『手柄横取り』は違法となることもある

戦法について,新たに考えついたものについては,理論的に著作権が適用されることはありえます。
ただし,現実的には問題があります。
『創作的』という要件です(著作権法2条1項1号)。
本当に,同じ手順を思いついた人が過去に存在しなかったのか,明言,断言できないことが多いです。
もちろん,断片的な手順の『組み合わせ』過去の戦法の一部の『変化(改良)』でも,一般論としては,創作的として著作権が認められることはあります。
しかし,結局は,組み合わせた全体の手順,について,過去に思いついた人が居てた可能性が排除しにくい,ということが現実の局面では多いと思います。

仮に手順に著作権が認められた,という前提でも,対局で同じ手順を用いることは,著作権侵害とはなりません。
著作権の侵害は,いくつかの形態が規定されています。
出版,放送,オンライン送信などです。
対局で用いることは著作権法で禁止されていないのです。

手順だけではなく手順+ネーミングや手順+解説という合わせ技で創作的となり,著作権が認められることはあります。
最近ではごきげん中飛車などの,陽気の良いネーミングが流行っています。
このようなネーミングや,既存の解説,などを含めてコピーして,出版,放送などで利用すると,著作権違反となります。

特に自分が創出したとアピールしたりすると,真の創作者の気持ちが踏みにじられます。
法的には『人格権侵害』として慰謝料請求が認められることになります。
『手柄横取り』は許されない,ということです。
なお,戦法の1つとして横歩取りというものもあります(余談)。
現実的には,多少手順からの改良の程度過去の手順との違いの大きさなど,戦法内容の評価によって侵害の判断が変わってきます。

4 『戦法』に関して法的に争われた例;居飛車穴熊戦法元祖訴訟

過去の実例では『戦法』について訴訟上の『対戦』がありました。

<居飛車穴熊戦法元祖訴訟>

あ 対立した事項=争点

ア 争点
『居飛車穴熊戦法』の『元祖創始者』が誰か
イ 主張
『元祖創始者』と名乗ることが違法である

い 裁判所の認定

ア 戦法内容に『一部改良』があった
イ アマチュア棋界・プロ棋界という『別の世界』で名乗った

う 裁判所の判断(結論)

それぞれが『元祖・創始者』としての名誉に値する
→人格権侵害を否定した
※東京高裁平成12年3月29日;判例1

控訴審まで長引いただけに,千日手=実質引き分けという格好での終わり方でした。

5 詰将棋は著作物として認められる可能性もある

独自に創作した詰将棋の問題は,創作的と思えます。
判例による統一的な見解はありません。
学説としては棋譜と同様に著作物としては否定する見解があります。

<詰将棋の棋譜を著作物として否定する見解>

あ 素朴な感覚

詰将棋の棋譜について
これを創作することについて思想感情を要する
→著作物であるかのようである

い 思想感情の内容

『あ』の思想感情は詰将棋の創作に向けられたものである
表現の仕方は決まっている
表現に思想感情が盛り込まれることはない
→著作物ではない
数式で書かれた計算問題が著作物でないのと同様である
※渋谷達紀『知的財産法講義2第2版』有斐閣2007年p24,25

ただし,詰将棋の説明の文章は別です。著作物として認められることも十分にあり得ます。
例えば,出版された書籍に掲載されている詰将棋のページをまるごとそのまま他の書籍で流用するとか,SNSで投稿するという行為は著作権侵害に該当するでしょう。
なお,問題の作成が新たな創作ではなく過去の実戦棋譜からそのまま流用したもの(投了図の一部を抜粋)であるとすれば,この詰将棋は対局者2名の共同で創作したことになるでしょう。
そうすると一般的な棋譜の著作物性の解釈となります(前記)。棋譜自体は著作物ではない見解を前提とすれば,対局を行った棋士(2名),にも著作権が認められるわけではない(=偶然の産物),ということになりましょう。

6 『対局プログラム』×著作権|著作物として認められる

コンピュータのプログラムは,著作物として著作権の対象となります(著作権法2条1項10号の2,10条1項9号)。
なお,この場合のプログラムとは,当然ですが,言語自体(C言語,phpなど)のことではありません(著作権法10条3項)。
プログラム言語で記述された命令・関数の集合(スクリプト,コード)のことです。

ボナンザ(チェス),ボンクラーズ(将棋)などが対戦プログラムの典型例です。
これら以外に市販の将棋ソフトウェアもあります。
市販ソフトウェアには,対戦プログラム以外に棋譜の解説や詰将棋(問題)が含まれていることもあります。
この場合は,当然,これらについても著作権の対象となります。
承諾を得ず無断で他のソフトウェアで利用すると著作権侵害となります。

実際に,ソフトウェアが相互に類似していたため,訴訟となったケースもあるようです。
ただし,判決に至らず,和解で終了しているため,裁判所の判断とはなっていません。

7 将棋×賭博罪|勝負にカネを賭けると賭博罪となる

(1)将棋の対戦にお金を賭けると『賭博罪』となる

将棋の対戦にお金を賭けると『賭博罪』が問題になります。

<『賭博(罪)』の解釈>

『偶然の支配』による財物の得喪

『賭博罪』についてはこのように解釈されます。
まず,将棋の対局は,『偶然の要素』がないため,賭け賭博ではないようにも思えます。
例えば,タイトルホルダーの現役プロ棋士とアマチュア棋士が平手で対局したら,現実的には100%結果は決まっていると言えるでしょう。
しかし逆に,力量の差がそこまで極端ではないという場合は,100%ということはありません。
棋士の体調・精神状態・思考能力のコンディションなどの多くの要素によって,勝敗の結果は変わってきます。
この考え方では,プロ対アマチュアでも,絶対的な理論的100%ということにはなりません。
意外な決着,として『トン死』という用語があるほどです。

<将棋×賭博罪|判例>

賭け将棋は,『偶然の支配』による財物の得喪に該当する
→賭博罪が成立する
※刑法186条1項
※東京高裁昭和32年1月17日;判例2

実際に判例では,囲碁・麻雀とともに将棋についての『賭博罪』が認められています。

(2)『一時の娯楽に供する物』を賭けても『賭博罪』にならない

将棋で賭けをしても,規模が小さいと『賭博罪にはならない』ということもあります。
一時の娯楽に供する物を賭けた場合は,賭博罪には該当しないとされています(刑法186条1項ただし書)。
金銭以外で価値が小さい,とか,金銭だけどその日の『飲食代金』という場合に,賭博罪が否定されます。
詳しくはこちら|勝負に金銭・賞品を賭けると賭博罪となる

判例・参考情報

(判例1)
[東京高等裁判所平成11年(ネ)第3985号損害賠償請求控訴事件平成12年3月29日]
1 控訴人は、「居飛車穴熊戦法」とは、相手が振飛車戦法をとることに対抗して、序盤戦の段階で、基本的には、「7、六歩」、「6、八玉」、「7、八玉」、「7、七角」、「9、八香」、「8、八玉」、「9、九玉」、「8、八銀」、「7、九金」との守りの手順に「2、六歩」、「2、五歩」、「5、六歩」、「4、八銀」、「5、七銀」との攻めの手順を加えて守りと攻めとを一体化した手順(Aタイプの手順)のことであると定義付けているところ、被控訴人は、居飛車穴熊にするに際し銀将を「6、六」の一置に上げることと玉の近くに金将が這いずるように移動することを特徴とする手順(Bタイプの手順)は、被控訴人が戦法として開発したもので、控訴人主張の居飛車穴熊戦法(Aタイプ)とは異なる戦法であると主張している。
 この点について、控訴人は、Bタイプの手順も控訴人主張の居飛車穴熊戦法の変化手順であって、控訴人主張の居飛車穴熊戦法に含まれると主張している。しかし、被控訴人ばBタイプの手順を開発するまで、棋戦において戦法としてBタイプの手順が採用されたことはないから、Aタイプの手順の研究からBタイプの手順が容易く導き出されるものでないことは明らかであり、被控訴人が開発したBタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法は、戦法として独創性があると認められる。したがって、控訴人が開発したと主張する居飛車穴熊戦法は、Aタイプの手順であることを特徴とするものであるから、被控訴人が開発したBタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法は、控訴人が開発したと主張する居飛車穴熊戦法と異なる戦法であることになる。
2 控訴人が主張する「居飛車穴熊戦法の創始者又は元祖」とは、以下のとおりのものであると解せられる。控訴人の主張に従うと、居飛車穴熊戦法の元祖又は創始者とは、居飛車穴熊戦法を創案し確立した者を意味し、創案し確立したとは、居飛車穴熊戦法のエッセンスとなる手順を選択し集積したことであるとしている。居飛車穴熊戦法のエッセンスとなる手順を選択し集積した」との意味は、明確でないが、善解すれば、振飛車戦法に対して高い勝率を上げる戦法として居飛車穴熊戦法という手順を開発し棋戦において多用したことと解される。したがって、居飛車穴熊戦法の創始者又は元祖とは、居飛車穴熊戦法という手順を開発し棋戦において多用した最初の者を意味することになる。
 そして、先に認定した事実によれば、控訴人は、Aタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法を開発しアマチュアの棋戦において多用した最初の者であるということができ、右の限り(アマチュアの棋戦であること及びAタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法であること)で、Bタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法が流行するようになった後に、居飛車穴熊戦法の元祖又は創始者と評価されていたというベきである。
 一方、先に認定した事実によれば、被控訴人は、Bタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法を開発し、昭和五一年から棋戦において居飛車穴熊戦法を多用して好成績を収めたことから、昭和五一年頃からプロの棋士の間にもアマチュア愛好家の間にも居飛車穴熊戦法が流行し出したのであり、被控訴人を居飛車穴熊戦法の元祖又は創始者と評価するのか一般的であることが認められる。
(略)
控訴人は、Aタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法を開発しアマチュアの棋戦において多用した最初の者であるという意味において、「居飛車穴熊戦法の創始者又は元祖」であり、そのように呼ばれるという名誉を有するところ、被控訴人は、Bタイプの手順を特徴とする居飛車穴熊戦法を開発しプロの棋戦において多用した最初の者であるから、前記被控訴人の発言ないし主張に虚偽の事実が含まれていることにはならないし、また、被控訴人が居飛車穴熊戦法の元祖」と自称することは、控訴人の活躍の場がアマチュアの棋戦であるのに対し、被控訴人の活躍の場はプロの棋戦であり(プロの棋戦のレベルがアマチュアの棋戦のそれより圧倒的に高いことは、いうまでもない。)、控訴人がAタイプの手順であるのに対し、被控訴人はBタイプの手順であるから、何ら不相当なことではない。
 したがって、前記被控訴人の発言ないし主張は、控訴人の「居飛車穴熊戦法の創始者又は元祖」であるとの名誉に抵触するものでも、その社会的評価を低下させるものでもないから、控訴人の「居飛車穴熊戦法の創始者又は元祖」であると呼ばれるという名誉を侵害するものではない。

(判例2)
[東京高等裁判所昭和31年(う)第1638号常習賭博被告事件昭和32年1月17日]
又そこでは銃やキルク玉など下切使用しないのであるから、玉を標的に命中させる射的遊戯本来の興味即ち遊戯乃至娯楽といつた要素は少しもなく、ただ円筒が停止したときいかなる数字を現わしているかという偶然の結果で勝敗が決り、ひいてそれが自由に現金に換えられ現金と同一視すべきチケツトの得衷につながつているとと即ち偶然の支配によつて財物を得或いはこれを失うという賭博的要素が存するのみであるから、右所為が賭博罪に該当すること明白である。
(略)
本件では客は現金と同一視すべきチケツトを勝敗の結果に賭けていること先に説明したとおりである。而して金銭は経済上価値の尺度たる機能を有し、他の一切の商品と等価的に交換できるものであるから、その性質上一時の娯楽に供せられるものとはいえない。金銭と同一視すべき本件チケツトも亦同様である。従つて被告人方に集まつた賭客がチケツトを購入して賭けたことが一時の娯楽に供せられるものを賭けたとはいえず、これによつて賭博罪の成立を否定する理由とはならない。