【司法書士業務vs弁護士法72条|高松/富山判例|簡裁訴訟代理業務】

1 司法書士業務vs弁護士法72条→サービスの均質性
2 司法書士業務vs弁護士法72条|高松判例
3 司法書士業務vs弁護士法72条|富山判例
4 司法書士×簡裁訴訟代理業務→法改正により弁護士法の対象外創設
5 司法書士×法的アドバイス|素晴らしいアイデアを思いついても言えない

1 司法書士業務vs弁護士法72条→サービスの均質性

司法書士の行う登記業務の本質は『登記の申請書の作成代行』ではありません。
手続法・実体法の解釈を前提として適法・適式な登記申請を遂行します。
この点,登記申請以前に,どのような方法を選択するのかを問題にすることはあります。
例えば,『資金の貸与』という場合の担保設定方法はいくつもの選択肢があります。
抵当権・根抵当権・譲渡担保・仮登記担保・売買+買戻特約などです。
このように,『登記申請手続』という以前の法的アクションの組み立て(法律構成)の部分で『優れたアドバイス』をできる,という発想もあります。
事務的な登記手続の前段階であれば『法的知識・ノウハウにより他の司法書士との差別化』が図れそうです。
しかし,あまり『優れた』アドバイスをしてしまうと,弁護士法72条違反となってしまうのです。
『法律事務』に該当するリスクがあるのです。

2 司法書士業務vs弁護士法72条|高松判例

司法書士が弁護士法72条違反となってしまった判例があります。
判断基準などをまとめます。

<司法書士の『優れたアドバイス』封印|高松判決>

あ 司法書士業務として適法な範囲

依頼者の要望の内容を正確に法律的に表現し,司法の運営に支障を来たさない限度で,法律的,常識的な知識に基づく整序的な事項に限る

い 違法な範囲=『法律事務』に該当する行為

専門的な鑑定に属すべき事務に及ぶこと
代理その他の方法で他人間の法律関係に立ち入ること
これらの違法な範囲の業務の一環として行った登記業務

う 判決|宣告刑

懲役3月,執行猶予1年
※高松高裁昭和54年6月11日

3 司法書士業務vs弁護士法72条|富山判例

司法書士の業務の制約を判断した別の判例を紹介します。
事案は『訴訟』ですが,基準としては登記にも適用されるものです。

<司法書士の『専門的判断』封印|富山判例>

あ 事案

訴訟の遂行を包括的に委任した

い 裁判所の判断|司法書士ができない業務

次の事項は司法書士の固有の業務範囲には含まれない
ア いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することイ 専門的法律知識に基づいて判断して書類を作成すること

う 裁判所の判断|違反の効果

ア 違反する規定 ・弁護士法72条違反
・民事訴訟法54条1項違反
イ 提起した訴訟の行方 訴え提起は無効である
→訴え却下とする
※民事訴訟法54条1項
※富山地裁平成25年9月10日

以上のように司法書士の法的アドバイスには大幅な制限があるのです。
この点現在ではこれら判例は先例としての効力を失っている,という見解もあります。
しかし,明確な判例における解釈の変更はありません。
立法による一部の変更はありました。
次に説明します。

4 司法書士×簡裁訴訟代理業務→法改正により弁護士法の対象外創設

平成15年の司法書士法改正により業務範囲が拡大されました。
『簡易裁判所』の扱う案件の範囲内で,一定条件のもと,訴訟代理が認められました。

<簡裁訴訟代理業務|弁護士法の対象外創設|概要>

あ 簡裁訴訟代理業務|全体

簡裁訴訟代理業務の認定を受けた司法書士が対象である
一定の業務について,実質的な法律判断を含めて適法に行える
弁護士法72条の例外となる

い 『簡易裁判所』における『代理』業務

次のいずれにも該当するもの
ア 対象となる裁判所 『簡易裁判所』のみ
『家庭裁判所』『地方裁判所』などは含まれない
イ 手続の種類 ・民事訴訟
・訴え提起前の和解
・支払督促
・民事調停
ウ 規模の制限 請求・訴訟・調停の目的の価額が140万円未満である

う 民事紛争の『相談』『代理人交渉』業務

次のいずれにも該当するもの
ア 簡易裁判所の民事訴訟手続の対象であるイ 紛争の目的の価額が140万円未満である ※司法書士法3条1項6号〜8号,2項
※裁判所法33条1項1号

逆に,この範囲外については,従来の法令の適用に変更はありません。
アドバイスできる範囲が『常識的知識』に制限された状態です。

5 司法書士×法的アドバイス|素晴らしいアイデアを思いついても言えない

司法書士は法的判断・アドバイスの範囲が大きく制限されています(前述)。
『仮に素晴らしいアイデアが浮かんでも依頼者に説明してはいけない』という不合理な足かせがはめられています。
結局『登記』の周辺部分で『クオリティアップ』も封じられているのです。
サービスの差別化が法的に禁止され『同質』が強要されているのです。
マーケットの一般論としてサービスクオリティ以外での競争が生じる傾向になります。
これについては別記事で説明しています。
詳しくはこちら|紹介依存現象|登記業務|サービス均質性+需要寡占+負担者と決定権者の分離

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