1 販売量決定要素=価格・クオリティ・プロモーション|マーケット一般論
2 登記業務の特殊性|サービスの均質性−形式的審査
3 登記業務のマーケット|主要業務=売買+融資の決済
4 登記業務のマーケット|『発注』案件の偏在(寡占)
5 登記業務のマーケティング|少数者へのリーチ=個別営業
6 登記業務の特殊性|発注先決定権者と料金負担者の分離
7 登記業務のマーケット|紹介料・人脈への対価の依存|実例
8 登記業務の特殊性|紹介依存現象の要素のまとめ
9 同様の条件が揃う別のマーケット|多重下請構造・医療機関・葬儀社

司法書士の行う『不動産登記申請』の業務のマーケットは,非常に特殊な特徴が重なっています。
本記事では,この特徴と『紹介』への高い依存性という現象について説明します。
まずは,一般論として,マーケットの構造の基本的部分を説明します。

1 販売量決定要素=価格・クオリティ・プロモーション|マーケット一般論

一般的には,商品・サービスのマーケットにおいて,販売量が決まる要素は『価格』と『内容・クオリティ』です。
この2つが事業者間の『競争』の対象になります。
ところで,マーケットメカニズムは『情報の対称性』が前提となっています。
要するに『買い手』が,すべての『売り手』の存在や値段を知っている,というものです。
実際には,消費者が『事業者(販売者)』の存在自体を知らない,という商品・サービスもあります。
そこで『広告・プロモーション・紹介』による『広く知られる』という機能が有用になるのです。
ここまでで『競争の対象』をまとめると次のようになります。

<マーケットにおける販売量決定要素>

あ 販売価格
い 商品の内容・クオリティ
う 広告・プロモーション・紹介

↑供給者の情報が拡散していない場合

2 登記業務の特殊性|サービスの均質性−形式的審査

『不動産登記業務』は,3つの販売量決定要素のうち『クオリティ』ではほとんど差別化が図れません。
『誰が行っても同じ結果となる』のです。
これは,個々の司法書士への批判という意味ではありません。
法的にそのような規制があるのです。

<登記業務に関するサービス差別化を封印する法規>

あ 不動産登記の『形式的審査権限』

例外は『当事者の本人確認』のみ(実質的審査)
※不動産登記法24条,25条

い 『法律事務』を弁護士が独占する規定

日常的・常識的判断を超えたアドバイスは弁護士法違反となる
(別記事『司法書士vs弁護士法72条』;リンクは末尾に表示)
※弁護士法72条

<形式的審査と実質的審査により生じる現象>

審査方法 手続の例 遂行方法による結果の違い 手続の遂行の例
形式的審査 登記申請 生じない 添付書類の選択・記載(主張)内容
実質的審査 訴訟 生じる 証拠の選択・提出,主張内容・方法

不動産登記申請においては,法務局の審査は『形式的審査』とされています。
『却下』となる事情は形式的なものに限定されているのです。
形式的に要件が満たされていれば申請は通る(登記が実行される)という結果になります。
『申請に添付する資料や記載(主張)によって審査結果が異なる』ということが生じないのです。
この点,訴訟においては証拠の採否・判断は裁判官の自由裁量です(自由心証主義;民事訴訟法246条)。
提出証拠の選択・主張の内容・方法によって結果が違う,ということは言うまでもありません。

3 登記業務のマーケット|主要業務=売買+融資の決済

不動産登記業務のマーケットは分析しやすいです。
大雑把にまとめます。

<不動産登記マーケット|概観>

あ 売上規模の主要業務

不動産登記申請のマーケットのうち売上として大きなもの
→『売買による所有権移転』
=いわゆる『代金決済』である
大部分の案件では『担保権設定』も含まれる

い 主要業務|具体的場面

金融機関の融資を受けて不動産を購入する場面の登記

4 登記業務のマーケット|『発注』案件の偏在(寡占)

次に,司法書士が案件を獲得するルート=チャネル,について整理します。

<売買+融資の登記業務|チャネル>

あ 『売買+融資』案件の供給元

大部分が『金融機関』から紹介される

い 司法書士の登記業務獲得チャネル

司法書士紹介の権限を持つ者
=金融機関の融資の担当者(担当部署)

う 司法書士紹介の実態

金融機関の担当者が特定の司法書士とつながっている
司法書士業界では『指定』と呼んでいる

え 微笑ましいシーン

新人司法書士が『指定取れた!』と歓喜して祝杯を上げる情景が散見される
『指定』獲得=継続的に売買の登記の案件を受注できることを意味する

お チャネル偏在

『金融機関』以外では,継続的な案件供給元はほとんどない
→『発注案件』を『金融機関が寡占している・偏在している』という状態

5 登記業務のマーケティング|少数者へのリーチ=個別営業

寡占・偏在,だとマーケットにどのような動きが生じるでしょうか。
『知ってもらう』ための『広告・プロモーション』はマス媒体のものの効果はありません。
『広告合戦』『広告料競争』は生じないのです。
特定の金融機関がターゲットだからです。
『広く大勢に知ってもらう』よりも『少数・特定の者に深く知ってもらう』が効率が高いのです。
直接挨拶に行く,というのが印象を持ってもらうための効率最適化,となります。
ということで,金融機関の融資担当者には常に『司法書士が営業に来る』状態が生じます。
次に,金融機関の『発注先選択』のメカニズムを説明します。
マーケットメカニズムでは『商品内容に差がない』前提ですと『値下げ競争』となります。
要するに『最も価格が低いサービスを選択する』という法則です。
しかし,司法書士の不動産登記マーケットではこの法則が成り立たないのです。

6 登記業務の特殊性|発注先決定権者と料金負担者の分離

金融機関が『発注案件』を寡占し,発注先を選べる,という前提でここまで説明しました。
この部分に実は特殊性が潜んでいます。
不動産登記についての司法書士への費用は『金融機関』が負担するわけではありません。
通常は『不動産の購入者』です。
そうすると『発注先選択基準』であるはずの『安い価格を選ぶ』が機能しません。
『発注先決定権者』と『料金負担者』が分離している,ということから来る現象です。
金融機関としては『価格ディスカウント』をしてもトクにはなりません。
そこで,金融機関が『キックバック』=実質的紹介料をもらう,というベクトルが生じます。
特に金融機関は『案件を寡占』,つまり多数に持っています。
受注側の司法書士は案件獲得への意欲が非常に強いです。
『紹介料』金額競争が生じる,というのがマーケットメカニズムによるベクトルです。
さらに,不動産登記業務は『サービス内容での差別化』はありません。
『紹介依存ベクトル』は非常に高まっています。

7 登記業務のマーケット|紹介料・人脈への対価の依存|実例

以上のように登記業務はマーケットの構造上『紹介・人脈』への依存が高まります。
実際に発覚してペナルティを受ける事例があります。
司法書士会が調査した事例があります。
案件獲得のスキームと隠蔽工作・紹介料の相場,などが明らかとなっています。
これは別記事にまとめてあります。
(別記事『注意勧告事例』;リンクは末尾に表示)

8 登記業務の特殊性|紹介依存現象の要素のまとめ

以上の『紹介依存現象の要因』をまとめます。

<不動産登記業務における『紹介』への依存現象の要因>

あ サービスの均質性
い 『発注』案件の偏在(寡占)
う 事業者決定権者と料金負担者の分離

9 同様の条件が揃う別のマーケット|多重下請構造・医療機関・葬儀社

他のマーケットでも,『決定権者と負担者の分離』という状況がたくさんあります。
いずれも『紹介料(キックバック)』か『下請け=マージン徴収』という構造として現れます。

<『決定権者と負担者の分離』→『送客対価=キックバックor下請け』産業>

あ 不動産登記
い 建築・建設
う 不動産売買仲介→内装・リフォーム
え 介護施設→医療機関
お 病院→葬儀社

そのようなマーケットでは『紹介料・キックバック』や『(多重)下請構造』が生じるのは一般的で合理的なものです(前述)。
しかし,不動産登記マーケットほどには『紹介依存要因』が揃っているものは少ないです。
ここまでパーフェクトに要因が揃っているのはミラクルと言えましょう。

なお,司法書士はルール上『紹介料』が禁止されています。
接待の飲食,手土産レベルの贈呈など『対価性・頻度・規模』によっては『紹介料』には該当しないでしょう。
多くの司法書士が,真面目に適法な範囲でのプロモーションを努力しています。
ここでは司法書士の不動産登記マーケットを一例,説明の素材として用いました。
他の業種・マーケットでも同様の条件が揃っているものもあると思います。
ユーザーにとってメリットのある事業が発展するための参考になれば幸いです。