【「◯◯権設定」の意味・使う場面と「処分行為」との関係】

1 「◯◯権設定」の意味・使う場面と「処分行為」との関係

たとえば、「抵当権設定」、「地上権設定」など、いろいろな場面で「◯◯権設定」という用語を使います。権利を発生させる、という意味であり、特に変わったことはありませんが、「処分行為」にあたるかどうか、という理論と関わると話しは複雑になります。実際にいろいろな状況で、法解釈の中でこのような理論を活かすことがあります。
本記事では、このような理論について説明します。

2 「設定」という用語の意味

最初に、「設定」という用語の説明を紹介します。正確に表現すると、権利を持っている者が、その権利よりも制限された権利発生させること、です。
たとえば、所有権の主な中身は譲渡できることと使用できることです。所有権を持っている者(所有者)が、当該物について、使用できる権利だけを与える、ということです。利用できる権利の典型は地上権です。

「設定」という用語の意味

あ 注解不動産法

権利主体がその権利を保有しながら、その権利よりも内容の制限された権利を他人のために発生させることを、設定という。たとえば、甲が所有権を有する土地について、乙のために地上権または抵当権を取得させる(設定する)場合が、これにあたる。
※林良平ほか編『注解不動産法 第6巻 不動産登記法 補訂版』青林書院1992年

い 権利に関する登記の実務

不動産に関する権利の設定とは、不動産を目的とする所有権又は所有権以外の権利の上に別の権利を創設することをいいます。
※小池信行ほか監『Q&A権利に関する登記の実務Ⅰ 第1編 総論(上)』日本加除出版2006年p160

3 「設定」の典型例→物権の設定(民法176条)

「◯◯権設定」の言葉を使う典型は、物権を設定する局面です。民法176条の条文には、物権の設定というワードが登場しています。注釈民法の説明の中でも、「設定」とは「発生(させる)」ことであるという趣旨の記述があります。

「設定」の典型例→物権の設定(民法176条)

あ 民法176条の条文

(物権の設定及び移転)
第百七十六条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
※民法176条

い 注釈民法

ア 「変動」→総称(参考) 物権の設定(発生)・移転・変更・消滅を総称して物権の変動という。
※山本進一稿/舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)補訂版』有斐閣2009年p224
イ 発生+消滅→「得喪」(参考) 本条には「物権の設定及び移転」とのみ述べているが、これはこれのみに限定する意味をもつものではない。
物権の消滅および変更(たとえば、地上権の存続期間(268)や永小作権の処分制限(272)の変更など)もまた本条の適用を受ける。
すなわち、本条は物権の得喪変更一般について述べているものと解すべきである。
※山本進一稿/舟橋諄一ほか編『新版注釈民法(6)補訂版』有斐閣2009年p235

4 主な物権リスト

(1)物権リスト(民法と主な特別法)

前述のように、物権については「設定」という言葉を使います。物権は法律で定められたものに限定されています(物権法定主義・民法175条)。民法や他の法律で物権であると定められているものを紹介しておきます。用益物権と担保物権の2種類に分けられます。

物権リスト(民法と主な特別法)

あ 用益物権

権利の種類 条文 地上権 民法265条 永小作権 民法270条 地役権 民法280条 採石権 採石法4条

い 担保物権

権利の種類 条文 留置権 民法295条 先取特権 民法303条 質権 民法342条 抵当権 民法369条 根抵当権 民法398条の2

(2)採石法4条の条文

前記のリスト中の採石権は、採石法で、物権とすると定められています。この定めにより初めて物権として認められるのです。

採石法4条の条文

(内容及び性質)
第四条 採石権者は、設定行為をもつて定めるところに従い、他人の土地において岩石及び砂利(砂及び玉石を含む。以下同じ。)を採取する権利を有する。
2 採石権は、その内容が地上権又は永小作権による土地の利用を妨げないものに限り、これらの権利の目的となつている土地にも、設定することができる。但し、地上権者又は永小作権者の承諾を得なければならない。
3 採石権は、物権とし、地上権に関する規定(民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百六十九条の二(地下又は空間を目的とする地上権)の規定を除く。)を準用する。
※採石法4条

ちなみに、ここに挙げたもの以外にも物権はありますが、マイナーなものの説明は省略します。
詳しくはこちら|温泉利用の権利(物権としての温泉権の性質・全体)

5 「設定」登記ができる権利(用益物権+債権)

ところで、不動産登記法では、「設定」登記ができる権利が定められています。「設定」登記ができる権利のうち用益カテゴリのものを整理します。
前記の物権リストのうち、用益物権は(当然ですが)すべて設定登記可能です。
それ以外に、賃借権と配偶者居住権についても設定登記ができることになっています。

「設定」登記ができる権利(用益物権+債権)

第三款 用益権に関する登記
第七十八条(地上権の登記の登記事項)
第七十九条(永小作権の登記の登記事項)
第八十条(地役権の登記の登記事項等)
第八十一条(賃借権の登記等の登記事項)
第八十一条の二(配偶者居住権の登記の登記事項)
第八十二条(採石権の登記の登記事項)
※不動産登記法(のタイトル部分)

6 賃借権・配偶者居住権の登記→例外的な債権の登記

(1)民法177条・本来登記できる権利→「物権」のみ

ところで、登記できる権利については、民法に明確なルールがあり、物権だけとなっています(正確には物権自体を登記するのではなく物権の変動を登記する仕組みです)。
では、賃借権と配偶者居住権を登記できるということは、これらは物権なのでしょうか。

民法177条・本来登記できる権利→「物権」のみ

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
※民法177条

(2)賃借権の性質と登記→債権・例外的な登記

賃借権は登記できますが、物権リスト(前記)に入っていないので債権です。つまり、債権なのに例外的に登記が認められているという状態なのです。

賃借権の性質と登記→債権・例外的な登記

あ 賃借権登記の条文

(不動産賃貸借の対抗力)
第六百五条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
※民法605条

い 賃借権の性質→債権

賃借権は、賃貸借契約における賃借人の地位(用益できる権能)を意味する
賃貸借契約を定める民法601条以下は、民法上「物権」の「第二編 物権」のセクションではなく、「第三編 債権」のセクションに含まれている
物権ではない(いろいろな局面で物権と同じ扱いがなされることはある)

(3)配偶者居住権の性質と登記→債権・例外的な登記

配偶者居住権も同じように、債権であるけれど、例外的に登記が許されている、という状態です。

配偶者居住権の性質と登記→債権・例外的な登記

あ 配偶者居住権登記の条文

(配偶者居住権の登記等)
第千三十一条 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。
※民法1031条

い 配偶者居住権の性質→債権(賃借権類似)

配偶者居住権の法的性質については、賃借権類似の法定の債権と位置づけられている。
ただし、賃借権とは異なり、対抗要件を登記のみとし(改正民法1031条2項、605条)、建物の占有は対抗要件とされていない。
※藤原勇喜著『民法債権法・相続法改正と不動産登記』テイハン2019年p88

7 「賃借権設定」(債権設定)という用語の特殊性(便宜的な用法)

(1)所有権と制限物権の包含関係→あり(前提)

前述のように、「設定」の意味は、権利主体Aが保有する権利甲のうち一部である権利乙(権利乙は権利甲の内容よりも制限されている)を発生させる(相手方であるBに帰属させる)というものです。権利甲と権利乙は包含関係にあることが前提となります。
地上権や担保権などの制限物権についていえば、所有者が保有する所有権の一部を内容とする権利(物権)を設定行為の相手方に帰属させる、という構造になります。地上権も担保権も所有権の一部です。所有権に包含される関係にあります。

(2)所有権と賃借権(債権)の包含関係→なし

では、賃借権(のような債権)の設定について考えてみましょう。
ここで、所有権は物権、つまり物を直接に支配する権利であり、賃借権人(賃貸人)に対して行為を要求する権利です。そこで包含関係にありません。賃借権は、所有者が保有する所有権の一部を内容とする権利とはいえないのです。
仮に、「所有権は所有者(自分)に対して使用・収益・処分を要求できる権利」だとしたら、「所有者に対して使用・収益を要求できる権利(賃借権)」は包含されることになります。しかし、所有権の内容はそのようなもの(人を介した間接的な目的物の支配)ではないのです。
結局「賃借権設定」という用語は、登記手続として認めた以上、使わざるを得なくなった、本来は言葉として成り立っていないけれど便宜的に使っている用語、という位置づけであると感じます。

(3)地上権を目的とする賃借権設定→登記上の便宜的用法

ところで、登記手続として地上権を目的とする賃借権設定というものが認められています。要するに地上権者が第三者に対して賃借権を設定する、というものです。前述のように、物権である地上権と債権である賃借権は包含関係にありません。
また、賃貸借の対象(目的)は「物」ですので、地上権を対象とした賃貸借契約という言葉は成り立っていません。
詳しくはこちら|賃貸借の対象物(目的たる物)
実体上は地上権者が、自身が持っている「不動産の使用収益権」の範囲内で「不動産」を対象とした賃貸借契約を締結した、という状態です。登記としては、地上権の登記に紐づける、つまり地上権登記の付記登記とするために、便宜的に地上権を目的とする権利設定形式をとっている、といえます。便宜的な使い方をしている構造がよく分かります。

地上権を目的とする賃借権設定→登記上の便宜的用法

地上権(又は永小作権)を目的とする賃借権の設定
・・・
登記の目的 何番地上権の賃借権設定
・・・
(注)地上権(又は永小作権)を目的とする賃借権設定の登記は、付記登記による。
※法務省民事局長平成28年6月8日『法務省民二第386号』通達p108

(4)物権と債権の区別(参考)

前述の検討の背景には、物権債権の根本的な違いがあります。

物権と債権の区別(参考)

(注・見解の1つとして)
物権は、物を直接に支配しうる権利、ないしは、物について直接に利益を享受しうる権利であるとし、これに対して、債権は、直接には人の行為を要求しうる権利だとする。
※舟橋諄一・徳本鎭稿/舟橋諄一ほか編『新版注釈民法(6)補訂版』有斐閣2009年p5

8 賃借権の性質(債権)と処分該当性(否定)の関係

一般的に、物権設定行為は処分行為にあたります。
詳しくはこちら|「処分(行為)」の意味や具体例(事実的処分・法的処分)
この点、「賃借権設定」というと、物権設定のような印象をかもしだすので、処分行為かな、と思ってしまいますが、前述のように「設定」の用語の使い方がまぎらわしいだけで、債権を発生させる(債権契約)にとどまるので、処分行為(そのもの)にはあたりません。
実際に、処分権限を有しない者(管理権限しか有しない者)が賃借権設定をすることは(原則として)可能です。ただし、期間などが一定の範囲を超えると、例外的に処分行為と同じ扱いとなります。登記手続としても、処分権限を有しない者と賃借人の共同申請で登記することが認められています(法務省民事局長平成28年6月8日『法務省民二第386号』通達p106)。
詳しくはこちら|処分権限のない者による短期賃貸借(長期賃貸借との判別・民法602条)

9 「◯◯権設定」を使う場面と「処分行為」該当性のまとめ

最後に、以上の検討から判明する結論をまとめます。
まず、「◯◯権設定」という用語が登場するのは原則として、物権だけであり、その(物権)設定行為は処分行為にあたります。
これに対して、賃借権と配偶者居住権については例外的に物権でない(債権である)のに「設定」を使います。
なお、物権設定は処分行為ですので、処分権限がある者しかできないのが当然の原則ですが、令和3年の民法改正でこれの例外として、過半数持分をもつ共有者(管理権限しかもたない)が一定範囲内であれば行うことができることになりました。

「◯◯権設定」を使う場面と「処分行為」該当性のまとめ

あ 基本法則

「◯◯権設定」を言うのは物権だけである
「◯◯権設定」(物権設定)は処分行為である

い 例外

ア 格上げ方向 不動産の賃借権・配偶者居住権債権であるけれど、「設定」という用語を使う
(賃借権設定は処分行為(そのもの)ではない)
イ 格下げ方向 用益物権(地上権・地役権など)の設定(物権設定)は処分行為であるけれど、過半数持分を有する共有者(共有物の処分権限はない)が一定の範囲内であれば行うことができる
(令和3年改正の民法252条4項で、この例外扱いが創設された)
詳しくはこちら|共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)

本記事では、「◯◯権設定」の意味、使う場面と「処分行為」との関係について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際にプリミティブな用語の意味までさかのぼるような高度な解釈に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【「処分(行為)」の意味や具体例(事実的処分・法的処分)】
【共有不動産への用益物権設定の変更・管理分類(賃貸借以外・改正民法252条4項)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00