1 賃貸借の対象物(目的たる物)
2 民法601条の条文
3 賃貸借の対象物(目的たる物)
4 不動産の一部の賃貸借
5 有体物以外を目的とする賃貸借(準用)
6 権利を目的とした賃貸借類似の関係
7 企業・営業を目的とした賃貸借類似の関係
8 共有持分を対象とする賃貸借(概要)

1 賃貸借の対象物(目的たる物)

土地や建物を対象(目的)とする賃貸借契約はありふれています。賃貸借の対象となるものはこれらに限られません。
本記事では,賃貸借の対象となるものにはどのようなものがあるか,ということを説明します。

2 民法601条の条文

最初に,賃貸借(契約)を定める民法601条の条文を押さえておきます。条文の中で,という用語が使われていて,引渡や返還をすることが前提となっていることが分かります。

<民法601条の条文>

(賃貸借)
第六百一条 賃貸借は,当事者の一方があるの使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けたを契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる。

3 賃貸借の対象物(目的たる物)

前記のように条文上,が賃貸借の対象となっています。そこで具体的には有体物ということになります。

<賃貸借の対象物(目的たる物)>

あ 基本

民法上の賃貸借は有体物の上に成立する
※民法601条,85条
※幾代通ほか編『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p156

い 物の一部

賃貸借は物の一部についても成立する(後記※1

4 不動産の一部の賃貸借

賃貸借の対象はであり,典型例は土地,建物(不動産)です。1つの土地や建物の一部だけを賃貸借の対象とすることも可能です。
なお,建物の一部の賃貸借にあたることを前提として,当該『建物』が,借地借家法上の『建物』にあたるかどうか,という問題もあります。

<不動産の一部の賃貸借(※1)

あ 土地の一部の賃貸借(空中権・制限借地権)

土地上の空間または地下の上下の範囲を定めてこれを利用する権利を賃借権として設定することができる
賃借権ではなく区分地上権として設定することもできる
※民法269条の2
※幾代通ほか編『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p156

い 建物の一部

ア 基本 建物の一部を目的とした賃貸借もできる
イ 借地借家法の適用の有無(参考・概要) 実際には借地借家法の適用の有無として問題が具体化することが多い
※幾代通ほか編『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p157
(参考)建物の一部の賃貸借への借地借家法の適用の有無については別の記事で説明している
詳しくはこちら|借地借家法の『建物』(借家該当性)の判断基準の基本

5 有体物以外を目的とする賃貸借(準用)

前述のように,賃貸借の対象は有体物だけですが,それ以外であっても,貸し借りが行われることがあります。賃貸借にはあたりませんが,経済面では同じといえるので,一般論としては賃貸借の規定が準用される方向性といえます。むしろ賃貸借の規定を準用しても特に問題が生じないので否定する実益がない,といえるでしょう。

<有体物以外を目的とする賃貸借(準用)>

有体物以外のものについても賃貸借に類似した関係が成立する
賃貸借の規定が準用される
※幾代通ほか編『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p156

6 権利を目的とした賃貸借類似の関係

権利の貸し借りをする状況もあります。有体物ではないので賃貸借にはあたりません。ただ,経済的には賃貸借と同じ構造なので,賃貸借の規定が準用されることもあります。

<権利を目的とした賃貸借類似の関係>

あ 漁業権

漁業権について賃貸借類似の関係を認めた
※大判明治40年3月16日

い 電話加入権

電話加入権について賃貸借類似の関係を認めた
※名古屋高判昭和23年3月13日

7 企業・営業を目的とした賃貸借類似の関係

権利よりもさらに抽象的な企業や営業を貸し借りする,という取引もあります。これについても,経済面では賃貸借と同じなので,一定の範囲で賃貸借の規定が準用されることがあります。

<企業・営業を目的とした賃貸借類似の関係>

企業,営業の賃貸借についても,事柄の性質上あるいは特別の規定によって排除される場合を除いては,一般的に,賃貸借の規定を準用して処理すべきである
契約関係の個々の面について具体的に考慮すべき点が少なくない
※大判昭和11年5月12日
※最判昭和26年5月18日
※最判昭和31年5月15日
※東京地判昭和30年10月18日
※幾代通ほか編『新版注釈民法(15)債権(6)増補版』有斐閣1996年p156

8 共有持分を対象とする賃貸借(概要)

有体物の共有持分は,有体物とはいえません。共有持分権という権利にとどまります。そこで,共有持分(権)は賃貸借の対象にはなりません。前述のように賃貸借の規定の準用をするという発想もあり得ます。
この点,登記手続上は,賃借権を準用したものを登記することは形式的に認めにくいです。また不動産の共有持分の賃貸借(の準用)というものを認めると現実的な問題が出てきてしまいます。そこで,不動産登記実務としては共有持分への賃借権設定を否定しています。
詳しくはこちら|共有持分権を対象とする処分(譲渡・用益権設定・使用貸借・担保設定)

本記事では,賃貸借の対象(目的)となるものについて説明しました。
実際には,個別的事情によって法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。