1 共有物分割訴訟における共有関係維持に関する当事者の処分権(拘束性)
2 原告が「原告グループの共有維持」を希望→採用判決
3 原告が「被告グループの共有維持」を希望→採用判決
4 特定の共有者間の共有関係解消に処分権を認める見解
5 脱退(離脱)・除名(排除)の処分権(主張の拘束性)
6 「離脱」に処分権(拘束性)を認める見解
7 原告が換価分割希望→被告グループ共有維持判決
8 原告・被告(の一部)の共有維持判決
9 共有者として残る者の特定と当事者の処分権

1 共有物分割訴訟における共有関係維持に関する当事者の処分権(拘束性)

共有物分割訴訟は、通常の訴訟とは違う非常に特殊な扱いがあります。具体的には、形式的形成訴訟の性質があり、当事者の処分権(拘束性)があるのは分割請求にとどまり、分割方法についての希望には処分権(拘束性)はないというものです(近年は反対説もあります)。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における当事者の希望の位置づけ(希望なしの分割方法の選択の可否)
ところで、共有物分割訴訟の分割方法は多様化が進んでおり、一部の共有関係を維持(形成)する判決も可能となっています。
詳しくはこちら|共有物分割における一部分割(脱退・除名方式)(分割方法の多様化)
形式的形成訴訟であるという伝統的な見解を前提としても、一部の共有関係を維持することについては当事者に処分権(請求権)がある、つまり裁判所を拘束する、という解釈が妥当であると思われます。本記事では、このような議論を説明します。

2 原告が「原告グループの共有維持」を希望→採用判決

過去の裁判例には、原告グループの共有関係を維持したものがあります。そのようなケースでは、原告が、原告グループの共有関係の維持を許容(希望)していたのです。原告の希望を裁判所が採用した、という構造になっています。裁判所は、原告が共有解消を求めた範囲内で、共有関係を解消した、といえます。

原告が「原告グループの共有維持」を希望→採用判決

原告らが、原告らの共有関係の存続を前提とする現物分割の申立をした
裁判所が原告らの希望どおりの分割方法を決定した
※最判平成4年1月24日
※札幌地判昭和62年5月11日
※神戸地判昭和62年9月25日
※東京地判平成4年2月28日(次の原審)
※東京高判平成4年12月10日

3 原告が「被告グループの共有維持」を希望→採用判決

過去の裁判例には、被告グループの共有関係を維持したものもあります。そのようなケースでは、原告が、被告グループの共有関係の維持を許容していました。
これも、裁判所は、原告が共有解消を求めた範囲内で共有関係を解消した、といえます。

原告が「被告グループの共有維持」を希望→採用判決

原告らが、被告らの共有関係の存続を前提とする現物分割の申立をした
裁判所が原告らの希望どおりの分割方法を決定した
※最大判昭和62年4月22日
※神戸地判昭和62年9月25日
※東京高判昭和48年9月7日
※千葉地判平成元年6月2日

4 特定の共有者間の共有関係解消に処分権を認める見解

共有の基本理念として、共有関係を解消することは強く保障されています。その理念を具体化したのが分割請求権です。
詳しくはこちら|共有の本質論(トラブル発生傾向・暫定性・分割請求権の保障)
分割請求の結果として、一部の共有関係を維持すること自体を許容するとしても、誰と誰の共有関係(が存続することを)許容するかについては、共有者の希望に拘束力をもたせるべきではないか、という指摘があります。つまり、共有残存(存続)方式は分割請求権の一部が実現されていない状態なので、当事者(原告)が行使しないと決定しない限り許されないという考えです。
この考えを押し進めると、各共有者が具体的な分割方法を希望を持っていることが想定されるので、原告対被告、という2者対立構造ではなく、3者以上が対立する構造(多面的当事者訴訟)であるということになります。

特定の共有者間の共有関係解消に処分権を認める見解

あ 特定の共有関係解消の請求

共有物分割訴訟を形式的形成訴訟と解する判例・通説に従えば、当事者を表示して申立てた具体的分割内容自体は拘束性はなく提案に過ぎないとしても、その具体的分割内容は同時に結果的には誰と誰との間の共有関係の解消、消滅を求めているかを明確に表示しているから、この関係では必ずしも提案とはいえない余地がある
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p51、52

い 多面的当事者訴訟の性質

・・・このような考え方は,共有物分割訴訟は多面的当事者訴訟と解しようとする見解
(兼子一·条解民事訴訟(初版合本·一九五五年)一八五頁,同·新修民事訴訟法体系(増訂版・一九七七年)四一一頁,上田徹一郎・民事訴訟法(一九八八年)四九〇頁[『ただし,現行法では,すでに継続する二面訴訟に参加する形での三面訴訟が認められているのみで,訴訟継続の当初からの三面訴訟は認められていない」「そこで,多面紛争でも当初から原告が全員に訴えを提起する場合は数人を被告とする共同訴訟となる。なお,三名以上の者の共有物分割の訴え(民二五六条)…のように,共同訴訟でも実質的には多面訴訟である場合もある])
に近いともいえそうである
(奈良・前掲判タ八一五号一九~二二頁参照)
が,要は具体的分割内容から当事者が真に求める分割は何かによって決まる訴訟形態であるというべきであろう。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p52

5 脱退(離脱)・除名(排除)の処分権(主張の拘束性)

一部の共有関係を維持することについて、より詳しく分析してみます。共有を維持する判決は、脱退タイプと除名(排除)タイプの2つに分類できます。
自身の脱退を請求する共有者について、裁判所は脱退させる必要があります(拘束性あり)。
一方、たとえば、共有者Aが共有者Bの除名(排除)を請求しても、Bが共有者として残ることを請求していれば、裁判所は、Bの除名をしなくてもよい、というような分析です。
ひとことでまとめると、「共有者として残ることを許容した者だけを共有者として残すことができる」ということになります。
逆にいえば「共有から脱退を希望する共有者は必ず脱退させないといけない」ということになります。

脱退(離脱)・除名(排除)の処分権(主張の拘束性)

あ 「脱退」「除名」の方式(前提)

・・・共有関係からの「脱退」ともいうべき分割
(最大判昭和62年は「共有者が多数である場合、その中のただ1人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許される」という)
および、他の共有者の「除名」ともいうべき分割
(最判平4・1・24家月44巻7号51頁は「分割請求をする原告が多数である場合においては、被告の持分の限度で現物を分割し、その余は原告らの共有として残す方法によることが許される」という)
である
(新田敏「共有物の裁判上の分割の機能と効果」法研70巻12号(1997)34-35頁が「離脱請求としての分割請求」と「排除請求としての分割請求」を対置する)。

い 脱退・除名の「請求権」

(i)共有関係の全面解消、(ii)「脱退」、(iii)「除名」については、裁判所が、(i)(ii)(iii)の選択につき当事者の主張を無視して裁判をすることは想像しにくい(加藤新太郎(判批)NBL512号[1993]59頁参照)。
その理論的な説明としては、実体法上、共有者は、(i)全部分割請求権だけでなく、少くとも以下の限度では、共有からの(ii)「脱退」請求権/(iii)「除名」請求権を有すると解すべきではなかろうか。

う 複数の脱退の請求の処理

甲を共有するABCDのうちAからの「脱退」請求のみがされた場合、裁判所は当然には全部分割を命じるべきではなかろう(BCDは共有にとどまる。「脱退」請求がされた場合には、予備的に全部分割請求がされているか否か等、原告の請求内容を丁寧に理解することが必要になる)。
Aからの「脱退」請求とDからの「脱退」請求がされた場合は、AもDも「脱退」し、BCが共有関係にとどまることもあろうか。

え 複数の除名の請求の処理

他方で、「除名」請求は様相を異にする。
AのDに対する「除名」請求とDのAに対する「除名」請求は一般に両立せず、一方の「除名」請求のみが認められるか、両方の「除名」請求がともに退けられることになろうか。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p597、598

6 「離脱」に処分権(拘束性)を認める見解

前述の整理の中の「離脱(除名)」部分について指摘する別の見解も紹介します。平成8年判例の判例解説でも、離脱だけは拘束性を認める、という見解が示されています。

「離脱」に処分権(拘束性)を認める見解

第三に,共有物分割請求権が保障されている以上,その行使が権利の濫用に当たるのでない限り,共有物分割訴訟を提起して共有関係の解消を請求した者を共有関係から離脱させる必要がある。
※河邉義典稿/法曹会編『最高裁判所判例解説 民事篇 平成8年度(下)』法曹会1999年p890

7 原告が換価分割希望→被告グループ共有維持判決

一部の共有関係を維持した判決の中で、少し特殊なものがありますので紹介します。
被告が、被告グループの共有の維持を希望したので、裁判所がこれを採用しました。一方、原告は換価分割を希望していました。つまり、一部の共有関係の存続を許容していなかったのです。原告の請求と判決が整合しないという点で、新たな判断である、と指摘されています。
ただし、前述の見解(新注釈民法の除名・脱退の整理)によれば、共有者として残る者(=被告)自身が共有者として残ることを許容しているので、裁判所はこのような決定をすることができる、といえます。

原告が換価分割希望→被告グループ共有維持判決

あ 要点

原告の希望=換価分割(「共有維持」の希望なし)
被告の希望=被告グループの共有維持(の現物分割)
判決=被告の希望を採用した
※東京地判平成5年6月30日

い 本判決の特殊性の指摘

本件では、原告らの申立てが代価分割であって各人個別金銭支払いの申立てであり、したがって形式的には各自分割を求めていると解すべきもので、本件判決の分割内容には必ずしもそぐわない申立てであったのに
(これは原告らの申立てからは被告らの共有関係の存続を内容とするものではなかったという意味である。・・・)
かかわらず、実体的判断に即して、被告らの共有関係の存続を容認した最初の事例ともいえることで、従来と異なる、新たな判断がされたものと解することができる。

う 別パターンの判決の不存在

(もちろん、原告ら各人の分割内容を求める申立てがされているにもかかわらず、これに反して敢えて、原告らの共有関係の存続を容認した裁判例はまだ公表されたことはないようである)。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p50

8 原告・被告(の一部)の共有維持判決

以上で紹介したケースとは異なり、原告(の一部)と被告(の一部)の共有関係を維持した判決もあります。常識的に、敵対当事者同士の共有関係を維持(形成)することは妥当ではありません。ただしこのケースは、遺産共有と物権共有が混在していたという特殊性がありました。このような場合は、次に遺産分割をすることが前提となっています。共有物分割は前処理プロセスであり、共有状態が残っても、次の最終プロセスである遺産分割で共有を解消することが想定されているのです。
この点、特殊性があったとしても原告と被告の共有関係を存続させるべきではない、という見解もあります。

原告・被告(の一部)の共有維持判決

あ 原告・被告の共有維持判決

遺産共有と物権共有が混在する共有物の共有物分割請求訴訟において
裁判所は、原告らの具体的処分内容の申立に反して共有関係の存続を認める方法を選択した
後の遺産分割手続の対象となる共有部分を残すという特殊事情があった
※東京高判平成6年11月30日

い 批判

通常の目的物件の共有物分割内容のみとしたならば、共存することが予定されていない共同原告・共同被告間での共有関係の存続が命じられるということになり、問題として大きく、むしろ、反対に解するのが相当ではないだろうか。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟をめぐる若干の問題点』/『判例タイムズ879号』1995年8月p49、50

9 共有者として残る者の特定と当事者の処分権

以上の説明は、現物分割の中で、一部の共有者の共有関係を維持(存続)するというものでした。この点、平成8年判例が全面的価格賠償を認めましたが、その判例も、共有を存続させることを認めています。
共有を存続させる(形成する)全面的価格賠償の判決では、誰と誰の共有を存続させるかを裁判所が決定することになります。ここで存続させる共有者(が誰か)については、当事者の希望に反することは妥当ではないという指摘があります。簡単にいえば「ABCを共有者とするには、ABC全員がこれ(ABCが共有者となること)を許容していなくてはならない」という見解です(このように読み取れます)。
このこと自体は、全面的価格賠償に限らず、現物分割を含めて共有関係を存続させる判決については共通していえると思います。

共有者として残る者の特定と当事者の処分権

大変無様であるが、平成八年一〇月三一日の一連の最高裁判決文のなかで、注意を惹くもう一つの論点として、
「当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。」
と述べるが、この部分のうち、
「共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法」
という文言については、若干の留保が必要のように考える。
すなわち、「共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし」との文言中に、分割請求の相手方となっている「共有者」も、当然に一括して含まれ得る可能性もあり得る(例えば、A・B・C・D・E・Fの六名の共有に係る物件についての分割請求の申立が、A・B両名からC・D・E・F四名に対する分割請求の形式でなされている場合に、このような明示の申立の趣旨の記載に反して、A・B・C三名の共有関係にしての全面的価格賠償方式にするというようなことは、明らかに申立の趣旨の記載と反する方式の形の共有関係を形成することになるが、このようなことは、単に妥当でないのみならず、私見によれば、処分権主義の適用される場合であって、これに反する違法なものというべく、そのような形での分割方式も許されないというべきである。
最高裁判例は、このようなことについては何も触れていないが、そのようなことを肯定する趣旨ではないと考えたい。
これらの諸形式の組合せの当否については、まだ検討すべきものがあるようにも思われるが、暫定的ではあるが、本質非訟事件であっても、誰と誰との間における分割請求の申立記載には、十分に注意を払う必要があろうか。
少なくとも、最高裁判例は今指摘した問題点については、解決していないと解したい。
今後の検討課題としてまだ残されているというべきであろう。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p14

本記事では、共有物分割訴訟で共有関係を維持する方式における当事者の処分権の扱いについて説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。