【サブリースの賃貸借該当性・暴利性(7倍の賃料)を判断した裁判例(イクスピアリ事件)】

1 サブリースの賃貸借該当性・暴利性(7倍の賃料)を判断した裁判例

サブリースが賃貸借に該当するかという問題や、サブリースのふたつの賃料が7倍以上に開いていたことが暴利行為にあたるかという問題について判断した裁判例があります。
裁判所が、契約の特殊性をしっかりと検討しており、多くのサブリースの事案の問題解決や紛争予防の場面で役立ちます。本記事では、この裁判例を紹介します。

2 サブリース契約の内容の特殊性

もともとサブリース契約は、いろいろな態様のものがあり、個別性が強いです。この裁判例の事案は、テーマパークに隣接するショッピングセンターの一部であったので、レストランの内装やメニューの内容まで、賃貸人(原賃借人、転貸人)の承認が必要、というものでした。それ以外にも、雇用関係にも制限があり、さらに賃借人(転借人)は競業避止義務を課せられていました。
このような特殊性が、以下で説明する解釈の中で検討されています。

サブリース契約の内容の特殊性

あ 内装設計・工事の制限

レストランの内装設計、工事等について、すべて原告の承認を得なければならない

い メニュー内容の制限

メニューの料理や名称、価格は原告の事前の承認を必要とする

う 調査・メンテナンスのための立入

原告が調査のため本件建物内に入り、修繕、メンテナンスをすることができる

え 雇用関係の制限

従業員の雇用の承認や従業員の配転を命ずる権利に関する制約

お 競業避止義務

一定範囲内の被告の競業避止義務
※東京地判平成21年4月7日イクスピアリ事件

3 賃貸借該当性に関する判断

以前から、サブリースが賃貸借に該当するのかということについては見解が分かれていたのですが、平成15年判例が賃貸借にあたるという見解に統一しています。
詳しくはこちら|サブリースにおける賃料増減額請求の可否(賃貸借該当性)と判断の特徴
転借人は、平成15年判例を前提としても、本件の契約内容には特殊性があるのだから、賃貸借にはあたらない、匿名組合契約である、と主張しました。
これについて裁判所は、特殊性自体は認めつつ、賃貸借の要素にあてはまることを指摘し、また逆に、匿名組合とは整合しないところがあると指摘しました。最終的に賃貸借にあたるという結論になりました。

賃貸借該当性に関する判断

あ 賃貸借の要素

・・・本件契約の契約書の表題を「SUBLEASE AGREEMENT」としていること、期間を20年とし、被告が原告に対して毎月20日に翌月分の「固定賃料」として1120万円を支払うとしていること等からすると、本件契約は、被告が原告に対して本件建物を借り受け、その対価として賃料を支払う義務を負う建物賃貸借契約であると認められる。

い 特殊性の検討

ア 特殊性の整理(前提) ・・・被告は、本件契約は、賃借人の自由に任されるべき被告の営業の自由を制限する規定等、通常の建物賃貸借契約と異にする規定が盛り込まれていること等を根拠に、本件契約の法的性格を業務執行参加型・非典型的匿名組合契約であるとして、被告が支払うべきものとされる「賃料」とは、文字どおりの賃料ではなく、利益分配金の趣旨である主張する。
確かに、本件契約においては、・・・、通常の建物賃貸借契約であれば存在しない、賃借人である被告の営業態様について一定の基準が存し、また、原告の事前承認を要求する規定が存在することが認められる。
また、本件契約においては、・・・「固定賃料」のみならず、被告の総受領額に対応する「歩合賃料」の支払義務を定める規定が存在し、被告が本件レストランの運営により得た利益に応じて原告も利益を得ることが企図されていることがうかがわれる。
イ 「出資と利益分配」との整合性 しかしながら、本件契約においては、本件建物の転貸借を含むいかなる目的においても、原告と被告との間の合弁事業、組合関係、代理関係又は雇用関係を創設するものと解されてはならない旨の規定が存在する。
また、賃借権(転借権)の設定をもって出資であるとし、利益分配金について「賃料」の文言を用いたという被告の主張は、にわかに首肯し難いし、利益の有無にかかわらず一定の金銭を支払う旨の「固定賃料」の定めは、匿名組合契約の本質である不確定な利益の分配に反する内容となる。
・・・
ウ 特殊な規定の検討 なお、・・・、本件契約には、本件レストランの運営方針やその営業の形態に関し、一定の条件を課し、また、原告の事前承認を必要とする旨の規定も存在するなど、単純な建物賃貸借契約には含まれない条項が存することは認められるものの、そのことのみによって、賃料支払義務等、建物賃貸借に関わる条項の効力が否定されるものではなく、本件契約が賃貸借契約の法的性質を持つことと矛盾するものではない。
エ 結論 したがって、本件契約が賃貸借契約であることを否定することはできず、被告は、原告に対し、賃料の支払義務を負うものというべきであり、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
※東京地判平成21年4月7日イクスピアリ事件

4 暴利行為についての主張と判断

賃借人は、本件サブリース契約が賃貸借にあたることを前提として、この契約は暴利行為であるから無効である、という主張もしました。
というのは、賃貸人(原賃借人)が支払う賃料と受領する賃料は7倍以上まで開いていたのです。利ざやが、原賃料の6倍(転貸料の7分の6)であったのです。
一般的に法外な利益を生じる契約は、その相手方を犠牲にしているので無効となります。
詳しくはこちら|売買の代金額や違約金が不当だと無効となる(暴利行為の判断基準)
しかし本件では、(米国の)弁護士を通した交渉を経て契約締結に至っており、その交渉の中で賃貸人(原賃貸人)が譲歩した経緯もありました。このように賃借人(転借人)も十分に検討した上で契約を締結するという判断をしたのです。
裁判所は、暴利行為(により無効となる)とは認めませんでした。

暴利行為についての主張と判断

あ 転借人の主張

転借人である被告の負担すべき賃料は月額1066万6667円であるのに対し、転貸人である原告がイクスピアリに支払うべき賃料がわずか月額150万円にすぎないのであり、かように異常に高額な転貸賃料の合意が形成されたこと等について、合理的で了解可能な説明もないのであるから、転貸借料の支払合意は、暴利行為というべきであって、公序良俗に違反し、あるいは借地借家法30条の趣旨に違反し、無効というべきである。

い 裁判所の判断

ア 弁護士を通した契約締結交渉 ・・・本件契約における1か月1120万円の転貸賃料が不当に高額であると認めるに足りないことは・・・のとおりである上に、本件契約は、原告側及び被告側が、それぞれが選任した弁護士を通じて多数回にわたる交渉を経て締結されたものであり、その交渉過程では原告側の譲歩もあったことは前記認定のとおりであり・・・、これらの点にかんがみれば、本件契約に定めた賃料支払合意が暴利行為とは認められない
イ 転借人の権限の制限 また、本件契約には、本件レストランの営業に関する被告の権限を制限しあるいは原告の権限を一定程度認める規定が存在するものの・・・、ディズニーリゾートの一角にあるイクスピアリ内の店舗において、賃借人側にこのような制限が課されることが不合理であるとはいえないし、そもそも、上記の規定の存在が、本件建物の使用の対価としての賃料支払についての合意の効力に影響を及ぼすものではないことは明らかである。
ウ 結論 以上によれば、本件契約が公序良俗違反等により無効であるとはいえない
※東京地判平成21年4月7日イクスピアリ事件

5 一般的なサブリースの賃料設定の相場との比較

前述のように、本件では、原賃借人(転貸人)の得る利益(利ざや)がとても大きく設定されていました。この点、一般的な相場としては、利ざやは転貸料の10%程度です。
詳しくはこちら|サブリースの基本(仕組み・法的性格・対抗要件・利ざや相場)
本件の利ざやは転貸料の約7分の6(86%)であったので、この数値(倍率)だけみると、たしかに異様に高いといえます。しかし、本件の転貸人は、ショッピングセンター全体の雰囲気づくりを行っており、専門性は高く、提供する価値もとても大きいといえます。
一般的なサブリースで転貸人(サブリース事業者)が行う業務は、主に入居者募集などの管理業務が中心です。そのような標準的なサブリースと本件は大きな違いがあります。利ざやの倍率だけで比べても意味がないといえるでしょう。

本記事では、サブリースの賃貸借該当性、暴利性を判断した裁判例を紹介しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際にサブリースに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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