【建物の賃借人が更新したくないのに更新料支払義務を負うケース】

1 建物の賃借人が更新したくないのに更新料支払義務を負うケース
2 賃借人が更新したくないのに更新料が発生する条件
3 更新料特約の適用範囲と有効性(概要)
4 賃借人からの更新拒絶期間
5 中途解約条項による期間満了前の契約終了
6 中途解約条項と即時解約特約の関係
7 定期借家における終了通知(参考)
8 任意の交渉による譲歩

1 建物の賃借人が更新したくないのに更新料支払義務を負うケース

建物の賃貸借契約では,2年や3年の期間が定められ,更新する際には更新料が必要となるものが多いです。賃借人としては,期間満了を迎えるときに,転居(退去)するか更新するかという選択をすることになります。
ここで,退去すると決めた場合にも,そのタイミングによっては更新料の支払を避けられないということがよく起きます。本記事では,更新したくなくても更新料支払義務が生じるのはどのような状況か,ということを説明します。

2 賃借人が更新したくないのに更新料が発生する条件

この問題は少し複雑なので,最初に,理論的な結論だけをまとめておきます。ここにまとめた3つの条件にあてはまると,更新したくないのに更新料が発生するという現象が起きます。

<賃借人が更新したくないのに更新料が発生する条件>

あ 更新料特約あり

法定更新でも更新料支払義務が発生する更新料条項がある(後述)

い 更新拒絶・中途解約期間の経過

賃借人からの更新拒絶期間(法定または特約)を過ぎている
中途解約条項により期間満了前に契約が終了できる時点を過ぎている
ア 法定の更新拒絶期間 期間満了の1年前〜6か月前
イ 特約による短縮 『ア』の期間を短縮する(期間満了に近づける)特約がある場合はその期間となる(有効である)

う 即時解約特約なし

解約予告手当の負担により即時解約ができる条項がない(後述)

え まとめ

『あ〜う』のすべてにあてはまる場合,更新料発生を回避できない

3 更新料特約の適用範囲と有効性(概要)

前記の3つの条件の内容を,以下順に説明します。
最初に,更新料が発生するのは更新料を支払う条項(特約)がある場合だけです。正確にいうと,法定更新の場合も含めて更新料を支払う特約がある場合に,この問題(更新したくないのに更新料が発生する)が生じます。たとえば賃借人からの申し出がない場合に自動更新となり,更新料を支払うという趣旨の条項です。
更新料支払義務が発生する特約については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の法定更新の際の更新料支払義務(更新料条項の解釈)

4 賃借人からの更新拒絶期間

賃借人としては,十分に早めに退去(転居)を決めれば更新料が発生してしまうことを避けられます。ではこの期間制限はどのようになっているのでしょうか。
まず,法律では期間満了の6か月前までとなっています。借地借家法26条1項は当事者と記述されているので,賃貸人だけではなく賃借人にも適用されるのです。
賃借人が更新料支払義務を負うことにつながるので,賃借人を不利にする条文で,借地借家法の理念と矛盾すると思えますが,この条文は更新料とのつながりを考えて作られたものではないので,おかしくはありません。
なお,特約で,更新しない場合の通知(更新拒絶)の期間がもっと短く(期間満了に近く)定められていればその規定のとおりになります。

<賃借人からの更新拒絶期間>

あ 条文規定

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす
※借地借家法26条1項本文

い 特約による短縮

賃貸人からの更新拒絶の通知期間を短くする旨の特約は賃借人に不利なので無効で
あるが)
賃借人からの更新拒絶の通知期間を短くする旨の特約は有効である
※稲本洋之助ほか編『コンメンタール 借地借家法 第4版』日本評論社2019年p210

5 中途解約条項による期間満了前の契約終了

更新しない場合の通知についての特約(条項)とは別に,中途解約条項(後述)があって,これによる解約の効果発生日(契約終了時点)が満了前におさまっている場合も,更新にはならない結果は同じなので,更新料は発生しないことになります。たとえば,2か月後に終了する中途解約条項があるケースでは,残り3か月の時点で,中途解約をすれば,残り1か月(まだ満了になっていない)の時点で賃貸借契約は終了します。

6 中途解約条項と即時解約特約の関係

更新料を支払う特約があったとしても,即時解約特約があれば,たとえば期間満了の1日前というギリギリでも,賃借人はその時点で解約,つまり賃貸借契約を終了させられます。結果的に(法定)更新とはならないので更新料は発生しないことになります。
実際の建物賃貸借契約書では,中途解約条項が入っているのが通常ですが,それが即時解約まで認めているものと,認めていないものがあるので注意が必要です。

<中途解約条項と即時解約特約の関係>

あ 即時解約ではない中途解約条項の例

『賃借人は,2か月前に相手方に通知することによって,本賃貸借契約を中途解約することができる。』
契約終了時期=通知から2か月後の時点

い 即時解約条項の例

『賃借人は,2か月分の賃料相当額を賃貸人に支払うことによって,本賃貸借契約を即時に解約することができる。』
契約終了時点=通知の時点

う 中途解約条項の説明(参考)

中途解約条項(法的には解約権留保特約)については別の記事で説明している
詳しくはこちら|建物賃貸借の中途解約と解約予告期間(解約権留保特約)

7 定期借家における終了通知(参考)

以上のように,賃借人としては,更新料を避けるため,更新せず転居するつもりでも,気づくのが遅ければ更新料発生を避けられないことがあります。
ところで,定期借家では,賃借人が契約終了をうっかり忘れていたことを防ぐため,早めに通知(予告)する制度があります。では,更新料の発生についても早めに予告する制度があるかというと,それはありません。借地借家法は更新料発生への配慮まではされていないのです。

<定期借家における終了通知(参考)>

あ 定期借家における終了通知の制度(参考)

ア 終了通知の制度 定期借家契約では,(期間が1年以上である場合)契約終了の6か月前までに賃貸人が賃借人に契約終了の通知することが必要である
※借地借家法38条4項
イ 終了通知の趣旨 賃借人に退去が必要となることを改めて知らせる
賃借人がうっかり忘れていたということを防ぐ
詳しくはこちら|定期借家における終了通知(遅れた通知の効果・黙示の更新)

い 更新料発生の予告の制度(なし)

普通借家において更新されて更新料が発生すること(以上の説明)について,事前に通知する制度(義務)はない

8 任意の交渉による譲歩

以上の説明は理論的なもの(法律上の結論)です。実際に賃貸人と賃借人のそれぞれの都合や関係性によっては,交渉によってこれとは別の取り決めをすることもできます。
たとえば賃貸人が建物の建替えを計画していて,明渡料を払ってでも退去してもらいたいと考えているところであれば,退去するなら更新料はいらない,あるいは更新料は退去までの期間に相当する割合まで負ける(更新後の契約期間である2年のうち,退去までの1か月に相当する24分の1)ということもあり得ます。ただし,そのような事情がなくても免除や減額が当たり前だというわけではありませんので,ご注意ください。

本記事では,更新したくないのに賃借人が更新料の支払義務を負う状況について説明しました。
実際に建物の賃貸借,管理に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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