【使用収益をするのに足りる期間(相当期間)経過後の使用貸借の解除】

1 使用収益をするのに足りる期間(相当期間)経過後の使用貸借の解除
2 相当期間経過による使用貸借解除の条文(改正前後)
3 相当期間の経過による使用貸借の解除の要点
4 相当期間の判断の枠組み
5 使用収益の終了(民法597条2項)との関係
6 不動産の使用貸借における相当期間の判断の実例(概要)

1 使用収益をするのに足りる期間(相当期間)経過後の使用貸借の解除

使用貸借契約が終了する事情の1つとして,使用・収益をするのに足りる期間(相当期間)が経過した後に解除(解約申入)をする,というものがあります。
詳しくはこちら|一般的な使用貸借契約の終了事由(期限・目的・使用収益終了・相当期間・解約申入)
実際には,相当期間が経過したといえるかどうかを明確に判断できず,意見の対立に至ることがよくあります。

2 相当期間経過による使用貸借解除の条文(改正前後)

最初に,相当期間が経過した後に貸主が使用貸借契約を解除することを定める条文を押さえておきます。平成29年改正によって解除という用語が登場していますが,実質的な内容は改正前と変わりません。

<相当期間経過による使用貸借解除の条文(改正前後)>

あ 改正前民法597条2項

当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,返還をしなければならない。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。
※民法597条2項(改正前)

い 改正後民法598条1項の条文

貸主は,前条第2項に規定する場合において,同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,契約の解除をすることができる。
※民法598条1項

3 相当期間の経過による使用貸借の解除の要点

相当期間が経過した後に使用貸借を解除する要件は,前記の条文のとおりです。
期間が定められていないことと,使用収益(そのもの)が終了していない,ということが前提となっています。

<相当期間の経過による使用貸借の解除の要点>

使用貸借の期間を定めなかった場合,使用収益が終了する前でも使用収益に足りる期間(相当期間)が経過すれば,貸主は使用貸借を解除できる
※民法598条1項(改正前民法597条2項ただし書に対応する)

4 相当期間の判断の枠組み

前述のように,相当期間が経過したといえるかどうかの判定は簡単ではありません。多くの事情が判断材料となり,個別的事案によって大きく年数は違ってきます。

<相当期間の判断の枠組み>

あ 判断要素

使用収益に足りる期間の判断については,貸借当時の事情,目的物の種類・性質,借主の使用期間,貸主が返還を必要とする事情,当事者の関係等,諸般の事情を考慮して決することが要求される
※遠藤浩編『基本法コンメンタール債権各論Ⅰ 第4版』日本評論社2005年p141

い 判断の伸縮性

使用収益に足りる期間は,双方の具体的事情を参酌して,伸縮性をもって判断すべきである
※大阪地判昭和26年3月24日

5 使用収益の終了(民法597条2項)との関係

ところで,使用貸借契約が終了する事情として,相当期間経過後の解除とは別に,使用・収益を終えたというものがあります。相当期間(=使用・収益をするのに足りる期間)とどのように違うのか,という問題があります。
この2つの関係について,同一の判断(基準)であるという見解と,別の判断(基準)であるという見解があります。

<使用収益の終了(民法597条2項)との関係>

あ 民法597条2項の条文(前提)

当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において,使用及び収益の目的を定めたときは,使用貸借は,借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
※民法597条2項(改正前民法597条2項本文に対応する)

い 同一の判断基準とする見解

契約目的に照らして使用収益が終了した(民法597条2項)と解するか,使用収益するに足る相当期間が経過した(民法598条1項)と解するかはあいまいであり,使用収益の終了と相当期間の経過の関係は同一の判断基準として機能する
※近江幸治『民法講義Ⅴ契約法 第3版』成文堂p180

う 別の判断基準とする見解

民法597条2項は,『相当期間』貸した場合の規定である
民法598条1項は,契約締結後の事情により『相当期間』よりも早く使用貸借を終了させるべきと考えられる場合の規定である
『使用及び収益をするのに足りる期間』は,契約締結後に生じた事情を考慮しての『相当期間』であり,民法597条2項の『相当期間』とは区別される
※幾代通ほか『新版注釈民法(5)』有斐閣p118

6 不動産の使用貸借における相当期間の判断の実例(概要)

以上のように,相当期間が経過したかどうかは,はっきりと判断できないことが多いです。これについては,実例における判断(裁判例)が大変参考になります。

(1)土地の使用貸借における相当期間の判断

特に実務で問題になりやすいのは,建物所有目的の土地の使用貸借です。建物の寿命は数十年単位と長いので,相当期間も長くなりがちです。
10年前後で相当期間が経過したと判断された実例も多くあります。一方,個別的な事情が影響して,30年以上経過していても,相当期間は経過していないと判断されたケースもあります。別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|建物所有目的の土地の使用貸借における相当期間を判断した裁判例

(2)建物の使用貸借における相当期間の判断

建物の使用貸借における相当期間は,土地の使用貸借よりも短くなるはずです。
しかし実際には個別的な事情の影響を大きく受けます。単純に目安としての年数を出せるというものではありません。別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の使用貸借における相当期間を判断した裁判例

本記事では,使用・収益をするのに足りる期間(相当期間)の経過後の使用貸借の解除について説明しました。
実際には,個別的な事情によって法的判断や最適な対応は違ってきます。
実際に使用貸借(不動産の貸し借りなど)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【業務起因性が認められる精神障害の種類(ICD-10の分類)】
【対抗関係の論理的説明の種類(不完全物権変動説など)】

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