【共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定・求償権との相殺】

1 共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定
2 持分買取権の条文における償金の規定
3 実務において償金の金額を定める手続
4 求償権と償金の相殺
5 償金支払と持分移転の同時履行(概要)

1 共有持分買取権の『相当の償金』の金額の算定

共有物に関する費用を負担しない共有者の共有持分を他の共有者が強制的に買い取る制度(共有持分買取権)があり,これについてのいろいろな解釈があります。
詳しくはこちら|共有持分買取権に関する解釈の基本(主体・起算点・償金提供・部分的行使・効果)
共有持分買取権の解釈の中に,『償金』の金額(買い取る金額)をどのように算定するか,というものがあります。
本記事では,共有持分買取権の『償金』の金額の算定について説明します。

2 持分買取権の条文における償金の規定

共有持分買取権は,『相当の償金』によって強制的に買い取る(持分を取得する)という制度です。『相当の償金』とは,取得する共有持分の評価額であることは分かります。
ただ,条文の規定には,償金の金額の計算方法については記載されていません。あとは解釈によるということになります。

<持分買取権の条文における償金の規定>

あ 条文規定

(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は,その持分に応じ,管理の費用を支払い,その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは,他の共有者は,相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
※民法253条

い 償金の金額

条文では『相当の償金』と規定されている
※民法253条2項
これ以外に金額の算定方法などの規定はない
→償金の金額は,適正な評価額ということになる

3 実務において償金の金額を定める手続

実際に償金の金額を決めるプロセスとしては,まずは協議(交渉)によって当事者(持分を取得する者と失う者)が合意すれば(当然ですが)金額が定まります。
合意に至らない場合には,不動産鑑定士の(私的)鑑定を用います。それでも合意に至らない場合には,訴訟の中で,裁判所による鑑定が行われ,最終的に判決として金額が定まることになります。なお,訴訟の中で和解が成立することもありますし,また,訴訟の前に民事調停を申し立てるという方法もあります。

<実務において償金の金額を定める手続>

あ 協議

買取金額の金額について当事者で協議する
→合意に達しない=対立している場合
→公平・中立な評価方法を活用する

い 鑑定評価

不動産鑑定士に『鑑定評価』を依頼する
→鑑定結果を元に当事者で協議する

う 訴訟

ア 非訟手続→なし 金額だけを裁判所が算定する手続はない
イ 一般的訴訟 持分移転登記手続請求訴訟を提起する
(持分移転の履行を求める訴訟)
→審理の中で裁判所が『相当の償金』の金額を判断することになる

4 求償権と償金の相殺

以上で説明したのは,償金の金額そのもの,つまり,取得する共有持分の評価額の算定についてでした。
ところで通常,持分買取権を行使する共有者は,立て替えた費用の求償権を持っていることが多いです。この場合は,支払う償金から求償権の金額を相殺する(控除する)ことができます。

<求償権と償金の控除・相殺>

あ 新注釈民法

ア 見解 民法253条2項の権利を行使するためには,「相当の償金」すなわち,取得しようとする持分の価格から求償できる金額を差し引いた額の償金を支払う必要がある。
※小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』有斐閣2020年p578
イ 補足説明 求償金額を控除したものを「相当の償金」と位置づけているように読める

い 判例民法

ア 見解 代金債権(償金)に対して求償権により相殺をして差額を支払うことになる
※能見善久ほか編『論点体系 判例民法2 物権 第3版』第一法規2019年p366
イ 補足説明 持分取得の意思表示の前には代金債権は発生していない
償金の提供なく持分取得の意思表示をしただけで持分買取権の効果として代金債権が生じたということを前提としていると思われる

5 償金支払と持分移転の同時履行(概要)

以上のような方法で定まった償金(の金額)を支払うことと,共有持分移転の履行(不動産における移転登記)は同時履行の関係に立ちます。
詳しくはこちら|共有持分買取権に関する解釈の基本(主体・起算点・償金提供・部分的行使・効果)

本記事では,共有持分買取権の『償金』の金額の算定について説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的な扱いや最適な解決方法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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