【物権変動は不実だが権利の帰属は正しい登記の抹消請求(昭和43年最高裁)】

1 物権変動は不実だが権利の帰属は正しい登記の抹消請求
2 事案内容(不正な登記と実体の比較)
2 裁判所の判断の結論
3 裁判所の判断の分析・検討
4 不正な中間省略登記の抹消請求(参考)
5 権利の帰属に不一致があるケースにおける是正(参考)

1 物権変動は不実だが権利の帰属は正しい登記の抹消請求

一般的には,不正な登記は抹消することができます。
しかし,登記内容のうち,権利の帰属だけは正しい(実体と一致する)ケースにおいて,抹消請求が否定された,つまり,登記として維持する結果となった判例があります。本記事ではこの判例について説明します。

2 事案内容(不正な登記と実体の比較)

最初に,この事案の内容を整理します。
実体としては1つの物権変動があったので,本来,1件の登記があるべき状況でした。しかし,実際には2つの登記がなされていました。当然,なされた2件の登記はいずれも実体上の物権変動とは異なる内容でした。
しかし,最終的な登記上の所有者と実体上の所有者は一致していました。つまり,権利の帰属だけは登記と実体が一致していたのです。

<事案内容(不正な登記と実体の比較)>

あ 事案

ア 最初の状態 Aの所有であり,登記もそのとおりであった
イ 実体 Aが亡くなり,死因贈与によりCに移転した
ウ 不正な登記 登記甲 A→Bに移転(登記原因=相続)
登記乙 B→Cに移転(登記原因=贈与)
エ 是正の請求 XがB・Cに対して抹消登記を請求した
(Xの立場は判決文からは不明である,Aの相続人であると推察される)

い 登記と実体の比較

『あ』記載のように,物権変動としては,登記と実体は,回数も内容も異なっている
権利の帰属としては,登記と実体は完全に一致している(Cに所有権が帰属している)
※最高裁昭和43年6月6日

2 裁判所の判断の結論

裁判所は,登記の抹消請求を否定しました。結果的に,現在の登記をそのまま維持することになりました。

<裁判所の判断の結論>

Cの所有権登記は,現在における実体的権利関係に合致しているため有効である
したがってXにおいてB・C名義の(2件の)所有権取得登記の抹消を請求することはできない
※最高裁昭和43年6月6日

3 裁判所の判断の分析・検討

裁判所は,どのように考えて不正な登記を維持する結果をとったのか,判断の内容を考えてみます。
まず,登記手続としては,関係者全員が協力すれば抹消登記ができた状況でした。一方,裁判所は,(一方当事者からの請求としては)本来是正できる登記上の誤った物権変動を是正せず,維持することを選んだということになります。
このような妥協したようにみえる判断の理由は,判決文に示されているように,(権利の帰属が)実体と完全に一致していたことにあります。

<裁判所の判断の分析・検討>

あ 登記手続との関係

関係者全員(A〜C)が協力すれば(登記申請の申請人となれば),登記甲・登記乙についての抹消登記を申請できたはずである

い 利益衡量の内容

裁判所は,権利の帰属としては登記と実体が完全に一致していたことにより,次の『ア』よりも『イ』を優先させたと思われる
ア 不正登記の抹消 不正な登記を抹消する必要性(登記上に物権変動を正しく反映させる=公示する)
イ 登記の維持 登記を維持することの合理性

4 不正な中間省略登記の抹消請求(参考)

昭和43年判例の事案と同じような状況,つまり,登記上の物権変動は誤っているが権利の帰属は正しい,ということは中間省略登記として行われた結果として現れるものでもあります。
中間省略登記についての抹消請求について,結論として抹消請求を否定した判例があります(最高裁昭和35年4月21日)。ただし,この判例では中間者に抹消登記を求める正当な理由があれば抹消請求を認めるという結論(基準)となっています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|従来方式の中間省略登記の内容と違法性(裁判例の歴史)

5 権利の帰属に不一致があるケースにおける是正(参考)

以上で説明した考え方を一言でいうと,権利の帰属が実体と完全に一致している(誤っていない)登記について抹消の請求は認めないという単純なことになります。
これに関して注意が必要です。権利の帰属が完全には一致していない(一部だけ一致している,または,完全に一致していない)場合には,他の事情によって抹消を認めるかどうか,認める場合にはどの範囲で抹消を認めるか,ということが枝分かれしています。
詳しくはこちら|共有不動産の不正な登記の是正の全体像(法的問題点の整理・判例の分類方法・処分権主義)
とにかく,事情が少し違うだけで,登記の是正の内容(認めるかどうかも含めて)は違ってくるのです。

本記事では,不正な登記ではあるけれど権利の帰属は実体と完全に一致しているケースについての抹消請求について説明しました。
実際には,細かい事情によって結果が違ってくることがあります。
実際に不正な登記の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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