【融資承諾書(地主承諾書)による賃貸借(借地権)や譲渡承諾の立証】

1 融資承諾書(地主承諾書)による賃貸借(借地権)や譲渡承諾の立証

借地上の建物(と借地権)を担保として融資を受ける際、金融機関から地主が調印した融資承諾書を要求されるのが通常です。
この融資承諾書には、土地の賃貸借の内容が記載され、場合によっては将来の借地権譲渡の承諾まで記載されることもあります。
詳しくはこちら|地主の融資承諾書の効力(金融機関への通知なしの解除の有効性・損害賠償責任)
では逆に、融資承諾書によって、賃貸借契約(借地権)があることや借地権譲渡が承諾されていることが立証できそうに思えます。しかし、これだけでは賃貸借契約が認められないということもありますので要注意です。本記事ではこのようなことを説明します。

2 融資承諾書による土地賃貸借の認定→否定(昭和53年最判)

融資承諾書があるから土地の賃貸借契約があると判断した高裁判決を、最高裁が否定した実例があります。この事案では、実際の地代支払いがなかったという特徴があります。この問題(矛盾)を、高裁判決は賃料を毎月免除していたという判断で乗り切ったのですが、最高裁はこのような判断も否定しています。
この点をさらに突っ込むと、土地所有者と借りている者(建物所有者)は雇用主と従業員の関係にあったので、労務提供があるのでこれが賃料の代わりであるという考えも理論的にはありえます。
詳しくはこちら|借主の金銭負担の程度により土地の使用貸借と借地(賃貸借)を判別する
しかし、最高裁はそのような考えも採用せず、結論として、賃貸借は認定できないと判断しました。要するに、融資承諾書は、金融機関に提出して融資を実現するためだけに作った、ダミーのものである、という判断です。
書証の内容どおりに認定しなかったことを最高裁が否定した判例は多いですが、その逆の判断は珍しいです。

融資承諾書による土地賃貸借の認定→否定(昭和53年最判)

あ 原審判断(最高裁が否定)

原判決は、被上告人の本件土地についての使用関係が使用貸借であるか賃貸借であるかを判断するに当り、
(一)被上告人が上告人の亡父訴外Kから本件土地を借り受けて同土地上に本件建物を建築する際住宅金融公庫(以下「公庫」という。)から融資を受けた借用金について、Kが連帯保証人となり、かつ、本件建物につき公庫が抵当権を取得することを承諾して貸地期間二〇年の記載がある乙第一号証(「地主承諾書」と題する書面)を作成した点と、
(二)右書面に賃料一か月三〇〇円の記載がある点から、
(一)の点について、Kは、公庫に対してのみならず被上告人に対しても、抵当権が消滅するまで本件土地上に本件建物が存続すること、したがつて、そのために本件土地に対する借地権が存続することを承認する趣旨であつたとし、
さらに(二)の点について、Kは、被上告人がKの遠い親族であつて、Kが社長をしている株式会社H組(のちにその商号はH運輸株式会社と変更された。)に長年勤務する子飼いの従業員であることから、被上告人が忠実に勤務する限り現実に賃料を徴収する意図はなく、したがつて、将来賃料支払期が到来するときは、その都度支払義務を免除する旨の黙示の意思表示をするつもりであつたのであり、右乙第一号証中の賃料額の記載は、これを公庫に差入れるに際し、その額を適当に記入することを被上告人にまかせたものと推測されるとしたうえ、本件土地使用関係をもつて、期間二〇年、賃料月額三〇〇円の賃貸借契約であると認定している。

い 融資承諾書の内容を否定する特殊事情

しかしながら、原審が確定した事実関係によれば、右乙第一号証は、被上告人が公庫から建築資金の貸付を受けるにつき、公庫に提出すべき必要書類として作成された書面であつて、右の存続期間及び賃料額の記載も、当事者間に話合いがなされないまま、被上告人がKの意を受けて適当に記載したにすぎないというのであり、しかも、被上告人は本件土地を本件建物の敷地として継続して使用しているにもかかわらず、Kに対して土地使用の対価としての賃料を全く支払つていなかつたとの事情が窺われるのであるから、

う 結論→賃貸借の認定を否定

このような諸事情を考慮するときは、乙第一号証が公庫に差入れられたことにより、直ちにKと被上告人間に右書面に記載された期間を二〇年とし、賃料を一か月につき三〇〇円とする土地賃貸借契約が成立したものとした原審の認定はにわかに首肯し難いのみならず、本件記録を精査するも、本件土地の賃料について、Kが被上告人に対して支払期ごとに支払義務免除の黙示の意思表示をするつもりであつたとの原審認定の事実関係を肯認するに足りるような資料は、これを見出し難い
※最判昭和53年7月17日

3 融資承諾書の信用性の傾向→仮装も十分ありうる

一般論として、融資を受けるために作成する書面には仮装が十分にある、というコメントもあります。ポイントは、金融機関に提出するために作成する、つまり、土地を貸す者と借りる者の間で、トラブル防止のため(権利の明確化のため)に作成したわけではない、というところにあります。

融資承諾書の信用性の傾向→仮装も十分ありうる

(注・昭和53年最判へのコメントとして)
本件は違い親族関係にある子飼いの従業員に土地を利用させたという関係であり、使用貸借である余地も十分にあり、しかも、融資を受けるため第三者に差し入れる証書に便宜上仮装の内容が記載されることもまた十分ありうることである。
※(匿名コメント)/『金融法務事情874号』1978年7月p25

4 建物譲受人から金融機関への融資承諾書の開示請求

前述のように、融資承諾書の信用性(証拠価値)は高くないこともありますが、有用であることもあります。状況によっては、融資承諾書を欲しい(みてみたい)ということもあります。具体例は、建物の譲受人(や競売による買受人)が、「地主が譲渡を承諾していた」ことを立証したいというケースです。
地主が融資承諾書の控えをもっていて、任意に開示してくれればよいですが、通常は地主が借地契約の解除を主張しているなど、対立する関係にあるはずです。そこで、建物の譲受人は金融機関に対して、(地主から取得して保管してある)融資承諾書の開示を求めることになります。金融機関が任意の開示には応じない場合でも、弁護士会照会、あるいは裁判所の手続(文書送付嘱託や調査嘱託)よって開示される、ということもあります。弁護士会照会を用いる場合の記載内容や回答された報告を紹介しておきます。

建物譲受人から金融機関への融資承諾書の開示請求

あ 弁護士会照会の内容

ア 照会先 ○○銀行保証株式会社
イ 照会理由(必要性) 依頼者は、貴社申立てによる競売で落札し、建物所有権を取得しましたが、その敷地の賃貸人である相手方が前借地人の地代不払等を理由とする解除を主張しています。
そこで、依頼者は、貴社が抵当権を設定するに際して相手方が借地権の譲渡を承諾していて、「借地権譲渡承諾を伴う借地権」を譲り受けた事実を立証したいと考えています。
前借地人及び相手方のいずれに対しても上記事実を確認できないので、貴社に確認する必要があります。
ウ 照会事項 依頼者は別紙物件目録(略)記載の建物の所有者であり、同建物の敷地所有者である相手方の借地人です。
依頼者は、平成○年○月〇日、前借地人が所有していた別紙建物を、その抵当権者であった貴社の申立てによる競売で落札し、取得しました。
貴社は、別紙建物の敷地の借地権について、相手方より借地権の譲渡を承諾する文書を取得していましたか。
回答に代えて上記文書の写しをご送付頂いても結構です。

い 金融機関の対応の例

上記照会に対しては、照会先から、相手方の「賃借人が将来建物について抵当権を設定することに異議がないこと、賃借人が将来建物を処分し又は抵当権の実行等によって第三者が所有者となった場合にも、その取得者に土地を賃貸すること、地代の滞納等土地賃貸借契約の解除事由が発生した場合には、あらかじめ照会先に通知し無断で契約解除をしないこと、照会先が滞納地代を立替払いしても異議なく、この場合相手方から契約を解除しないこと」の承諾書が送付されました。
※第一東京弁護士会業務改革委員会第8部会編『弁護士法第23条の2 照会の手引 6訂版』第一東京弁護士会2016年p147

本記事では、地主の融資承諾書による賃貸借や譲渡承諾の立証について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に土地の賃貸借(借地権)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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