【新所有者が承継する期間と契約終了に関する事項(存続期間・解除関連・転貸譲渡承諾)】
1 新所有者が承継する期間と契約終了に関する事項
対抗力のある賃借権の目的物が譲渡されると、新所有者が賃貸人たる地位を承継します。いわゆるオーナーチェンジのことです。
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
この時に、基本的に従前の賃貸借契約に関する事項はほぼすべて承継されます。しかし、個々の事項によって解釈の問題があるものもあります。
本記事では、期間と契約終了に関する事項について、承継されるかどうかの問題を説明します。
2 存続期間(残存期間)の承継
賃貸借契約の存続期間は、新所有者に承継されます。
重要な事項なので、賃借権登記の登記事項の1つとなっています。
存続期間(残存期間)の承継
あ 存続期間の承継
賃貸借の存続期間(残存期間)は維持される(承継される)
※幾代通ほか篇『新版 注釈民法(15)債権(6)』有斐閣1989年p194
い 登記(公示)
存続期間は賃借権登記の相対的登記事項である
※不動産登記法81条2号
3 賃料滞納や地代滞納の状態(解除事由)の承継
前所有者の時期に発生した解除事由が新所有者に引き継がれるかどうかという問題があります。
典型的な賃料の滞納という状態は、原則として新所有者に承継されません。ただし、賃料債権を新所有者が譲り受けたという場合には、滞納の状態も引き継がれます。つまり、新所有者は賃料滞納を理由として解除することができます。
なお、賃貸借ではなく地上権が設定されているケースでは、地代滞納の状態は新所有者に承継されます。
賃料滞納や地代滞納の状態(解除事由)の承継
あ 賃料滞納の状態の承継
賃料滞納について
新所有者は、滞納分の債権を譲り受けた場合にのみ、滞納を理由に解除権を行使できる
※大判昭和10年12月21日
※大判昭和12年5月7日
※大判昭和14年8月19日
※東京高裁昭和33年11月29日
い 地代滞納の状態の承継(参考)
地上権のケースにおいて地代滞納の効果は新所有者に当然に承継される
→地上権の消滅請求(民法266、276条)ができる
地代債権の譲渡の有無に関わらない
※幾代通ほか篇『新版 注釈民法(15)債権(6)』有斐閣1989年p194、195
4 解約申入状態の承継
建物の賃貸借では、期間の定めがないということもあります。この場合に、賃貸人が解約申入(告知)をすることができるケースもあります。
前所有者が解約申入(の通知)をしてから契約終了の効果が発生するまでの間に目的物を譲渡した場合、新所有者は、解約申入をしている状態を承継しません。つまり、当初予定されていた契約終了の効果が発生する時期が到来しても契約は終了しないのです。
以上のことは、期間の定めのある借地や建物賃貸借で、前所有者が更新拒絶を通知した後、期間満了までの間に目的物を譲渡したというケースでも同じように考えられます。
解約申入状態の承継
あ 原則=承継あり
期間の定めのない建物賃貸借における解約申入状態について
→原則として承継しない
※大阪控判昭和18年10月29日
い 例外=承継なし
例外的に承継されることもある
※大阪地裁昭和33年6月13日
う 更新拒絶への適用
『あ・い』については、期間の定めのある賃貸借(借地・建物賃貸借に共通)にも適用される可能性がある
※幾代通ほか篇『新版 注釈民法(15)債権(6)』有斐閣1989年p195
5 譲渡転貸承諾特約の承継
賃貸借契約では、原則として、転貸と賃借権の譲渡は禁止されています。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡・転貸の基本(賃貸人の承諾が必要・無断譲渡・転貸に対する明渡請求)
例外的に、賃貸人が転貸や譲渡を承諾した場合にだけ可能となります。そこで実際には最初から賃貸借契約の中に、転貸や賃借権の譲渡を承諾することが特約として入れておくケースもあります。この特約は、新所有者が承継します。ただし、賃借権登記がないと承継しないという見解もあります。
譲渡転貸承諾特約の承継
あ 登記事項
賃借権の譲渡・転貸を承諾する特約について
賃借権登記の登記事項である
※不動産登記法81条3号
い 登記による対抗のケース
賃借権登記による対抗の場合
登記がなければ新所有者に対抗できない
※民法177条
※幾代通ほか篇『新版 注釈民法(15)債権(6)』有斐閣1989年p196
う 借地借家法による対抗のケース
借地借家法による対抗の場合
公示がなくても(できない)新所有者に対抗できる
※東京高裁昭和51年11月18日
他の見解もある
※幾代通ほか篇『新版 注釈民法(15)債権(6)』有斐閣1989年p197、198参照
本記事では、対抗力のある賃借権の目的物の譲渡によって新所有者が賃貸人たる地位を承継する場合に、新所有者に承継される事項のうち、期間や契約終了に関するものを説明しました。
実際には、細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に不動産の譲渡に伴う賃貸借契約に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。