1 対抗要件ある賃借権と賃貸人の地位の移転
2 賃貸人の地位の移転についての賃借人の同意
3 賃貸人の地位の移転と敷金の承継
4 賃貸中の不動産の売買における敷金の反映
5 賃借権の譲渡における敷金の承継(概要)

1 対抗要件ある賃借権と賃貸人の地位の移転

賃借権と賃貸借の対象物の所有権は対抗関係となります。
賃借権が優先という場合は,対象物が譲渡され,新たな所有者が登場しても,賃借権が存続します。
つまり新たな所有者が賃貸人ということになるのです。
いわゆるオーナーチェンジのことです。

<対抗要件ある賃借権と賃貸人の地位の移転(※1)>

あ 賃貸借の対象物の譲渡

賃貸人Aが賃貸借の対象物甲を所有していた
賃借人Cは賃借権の対抗要件を備えていた
詳しくはこちら|所有権と賃借権の対抗関係|対抗要件取得時期が早い方が優先|典型事例の整理
Aは甲をBに譲渡(売却)した

い 対抗要件による賃借権の優先扱い

賃借権の対抗要件が備わっている
→賃借権が優先される

う 賃貸人たる地位の移転

賃貸人たる地位もAからBに移転する
※最高裁昭和39年8月28日

2 賃貸人の地位の移転についての賃借人の同意

一般論として,『賃貸人』のような契約上の地位が移転することについては,契約の相手方(賃借人)の同意が必要です。
しかし,オーナーチェンジによって,新所有者が賃貸人になるということは例外です。
賃借人の同意は不要です。

<賃貸人の地位の移転についての賃借人の同意>

あ 一般論(原則)

契約の当事者の地位の移転について
(移転した地位の)契約の相手方の同意を要する
※民法116条類推

い 賃貸人たる地位の移転の例外扱い

賃貸人の地位の移転(前記※1)について
賃借人の同意は不要である
※最高裁昭和46年4月23日

3 賃貸人の地位の移転と敷金の承継

賃貸人の地位が移転することになると,賃貸借に関する債権と債務はすべて新たな賃貸人が引き継ぎます。
これは当たり前のことなのですが,敷金は,理論的には賃貸借の中身ではありません。
とはいっても,新たな賃貸人が敷金を引き継がないのは不合理です。
判例の解釈で,新たな賃貸人が敷金を承継することになっています。

<賃貸人の地位の移転と敷金の承継(※2)>

あ 敷金(前提)

主に建物の賃貸借契約において
賃貸人が敷金を預かることが多い
詳しくはこちら|敷金の基本|法的性質・担保する負担の内容・返還のタイミング・明渡との同時履行

い 一般的な理論による原則論

敷金関係(返還義務)賃貸借契約とは別個のものである
→新たな賃貸人敷金返還義務を承継しない

う 賃貸人の地位の移転と敷金の承継

賃貸人の地位が移転した場合
→新たな賃貸人が敷金返還義務を承継する
※最高裁昭和44年7月17日
※最高裁昭和39年6月19日
※大審院昭和5年7月9日;競売の場合

4 賃貸中の不動産の売買における敷金の反映

実際に賃貸中の不動産の売買はよく行われています。
オーナーチェンジという前提での売買というものです。
このケースでは,買主は将来,敷金を返還することになります。
この負担の分だけ,代金額の算定の中で控除しておくのが一般的です。

<賃貸中の不動産の売買における敷金の反映>

あ 負担の承継

将来,賃借人が退去するときに
新たな賃貸人は敷金を返還することになる(前記※2)

い 賃貸中の不動産の売買への影響

賃貸中の不動産の売買において
代金設定の際,敷金相当額を控除するのが一般的である

5 賃借権の譲渡における敷金の承継(概要)

以上の説明は賃貸人が変わったというケースでした。
一方,賃借権の譲渡では賃借人が変わります。
賃借権の譲渡では,原則として敷金関係は承継されません。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃借権の譲渡では特別の合意がないと敷金は承継されない