1 賃貸人たる地位の承継と所有権移転登記の関係
2 賃貸人たる地位についての対抗要件(必要)
3 判例(対抗要件とする見解)以外の見解
4 賃借人からの承認(欠缺を主張する権利の放棄)

1 賃貸人たる地位の承継と所有権移転登記の関係

対抗力のある賃借権の目的物が譲渡されると,新所有者賃貸人たる地位を承継します。いわゆるオーナーチェンジのことです。
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)
そうすると,新所有者は,賃料請求などの賃貸人としての権利行使ができることになります。
しかしそのためには,対抗要件として所有権移転の登記が必要です。
本記事では,このように所有権移転登記が必要となる理論について説明します。

2 賃貸人たる地位についての対抗要件(必要)

前記のように新所有者承継した賃貸人たる地位を賃借人に主張するには所有権移転登記が必要です。この登記の法的性質は対抗要件とされています。

<賃貸人たる地位についての対抗要件(必要)>

あ 賃貸人たる地位の承継(前提)

対抗要件を備えた賃借権の目的物が譲渡された場合
→原則として新所有者は賃貸人たる地位を承継する
詳しくはこちら|対抗力のある賃借権の目的物の所有権移転と賃貸人たる地位の承継(基本)

い 対抗関係

所有権移転登記は,賃貸人の地位承継の対抗要件である(に過ぎない)
→新所有者が賃借人に対して賃貸借契約上の権利を主張する場合には,所有権登記がなければ賃借人に対抗することができない
※大判昭和8年5月9日(借地について)
※最高裁昭和25年11月30日(借地について)
※最高裁昭和39年8月28日(前提部分)
※最高裁昭和49年3月19日(借地について)

3 判例(対抗要件とする見解)以外の見解

前記のように,所有権移転登記が賃貸人たる地位の承継の対抗要件になるというのは確立した判例の理論です。
一方,かつては登記は効力発生要件であるという判例もありました。
また,理論的に対抗要件が前提とする相争う関係(両方が成立することはない関係)ではないという批判(反対説)もあります。
ただし,現在の実務での理論は,前記の判例の理論で統一されています。

<判例(対抗要件とする見解)以外の見解>

あ 対抗要件説を否定する見解

賃貸借契約上の権利を行使し,その義務を履行する関係は,すべて新所有権が賃借権の存在を認めた上で,行うものである
不動産上の物権的支配を相争うという関係は存在しない
→賃借人は登記の欠缺を主張しうる第三者に当たらない(対抗関係ではない)
※『最高裁判例解説民事篇 昭和39年度』法曹会1965年p306〜310
※幾代通ほか篇『新版 注釈民法(15)債権(6)』有斐閣1989年p190参照

い 効力要件とする見解

所有権移転登記は賃貸人の地位承継の効力発生要件である
※大判昭和16年8月10日

4 賃借人からの承認(欠缺を主張する権利の放棄)

判例では,所有権移転登記賃貸人たる地位の対抗要件とされています(前記)。
理論的には,賃借人は登記の欠缺を主張できる第三者であるということになります。ということは,賃借人は登記の欠缺を主張しないこともできることを意味します。
そこで実際に,新所有者が登記を得る前であっても,賃借人の方から積極的に新所有者を賃貸人として認めることは認められています。

<賃借人からの承認(欠缺を主張する権利の放棄)>

あ 対抗要件の基本的機能

賃借人は,所有権移転の登記がない場合,登記の欠缺を主張することができる

い 権利の放棄(自主的承認)

賃借人は,登記の欠缺を主張する権利を放棄することができる
=自ら新所有者を賃貸人と認めることができる
※最高裁昭和46年12月3日

う 効力要件説からの結論(参考)

仮に所有権移転登記が賃貸人の地位承継の効力発生要件であるとすると
登記の欠缺を主張する権利の放棄(賃借人が自ら新所有者を賃貸人と認めること)はできない

本記事では,対抗力のある賃借権の目的物の譲渡によって新所有者が賃貸人たる
地位を承継することを前提として,そのためには所有権移転登記が対抗要件として必要とされる理論について説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に不動産の譲渡に伴う賃貸借契約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。