1 明渡料なしでの借地の明渡における課税
2 個人である借地人(借主)への課税関係
3 法人である借地人(借主)への課税関係
4 個人である地主(貸主)への課税関係
5 法人である地主(貸主)への課税関係
6 例外的に利益なしとして扱うケース

1 明渡料なしでの借地の明渡における課税

ごく一般論としては,借地の明渡の際には明渡料(立退料)などの金銭が支払われることが多いです。
しかし,さまざまな事情から,明渡料の支払いがないというケースも実際にあります。
本記事では,このようなケースでの課税関係について説明します。
大雑把にいうと,借地権相当の価値が無償で移転したという考え方です。
民法上の貸す・借りる・返すという考え方とは異なりますので,間違えやすいところです。
課税上の扱いは,地主と借地人のそれぞれが個人・法人のいずれかによって違います。
当事者の立場を分類して説明します。

2 個人である借地人(借主)への課税関係

借地人が個人である場合に,無償で土地を返還した借地人への課税についてまとめます。

<個人である借地人(借主)への課税関係>

あ 地主(借主)が個人であるケース

借地人への課税はない

い 地主(借主)が法人であるケース

ア 原則
借地人には原則として所得税が課税される
借地権相当の価値で譲渡があったという前提で算定する
イ 例外
一定の事情がある場合は所得税が課税されない(後記※1)

3 法人である借地人(借主)への課税関係

借地人が法人である場合に,無償で土地を返還した借地人への課税についてまとめます。

<法人である借地人(借主)への課税関係>

あ 原則

借地人には,借地権の認定課税が適用される
=寄付金認定
借地権相当の価値を貸主に贈与したという前提で算定する

い 例外

一定の事情がある場合は所得税が課税されない(後記※1)
※法人税基本通達13−1−14

4 個人である地主(貸主)への課税関係

地主が個人である場合に,無償で土地の返還を受けた地主への課税についてまとめます。

<個人である地主(貸主)への課税関係>

あ 原則

地主には,原則として『ア・イ』のいずれかが課税される
借地権相当の価値を無償で取得した前提で算定する
ア 借地人が個人のケース
贈与税
イ 借地人が法人のケース
一時所得or給与所得

い 例外

一定の事情がある場合は所得税が課税されない(後記※1)
※法人税基本通達13−1−14

5 法人である地主(貸主)への課税関係

地主が法人である場合に,無償で土地の返還を受けた地主への課税についてまとめます。

<法人である地主(貸主)への課税関係>

あ 課税関係

地主には,認定課税は適用されない

い 帳簿価額への反映(参考)

土地の帳簿価額への反映が必要となることもある

6 例外的に利益なしとして扱うケース

課税上は,借地の無償返還は原則的に借地権に相当する価値が移転したと考えます(前記)。
しかし,例外的に,課税上借地権に相当する価値がないとして扱うケースもあります。
通達で示されている例外を紹介します。

<例外的に利益なしとして扱うケース(※1)>

あ 無償返還届出済

借地権設定時に無償返還届出書が税務署に提出されている
詳しくはこちら|認定課税|相当の地代・無償返還の届出書|権利金の授受なしの借地→贈与税

い 相当の地代の適用あり

相当の地代の支払が行われていた
借地権設定時に相当の地代の届出書が税務署に提出されている
詳しくはこちら|認定課税|相当の地代・無償返還の届出書|権利金の授受なしの借地→贈与税

う 借地借家法の適用なし

土地の使用目的が『ア・イ』のいずれかに該当する
ア 更地のままの使用
土地を更地のまま使用していた
例=物品置場,駐車場などの使用目的
詳しくはこちら|建物所有目的の土地賃貸借は『借地』として借地借家法が適用される
イ 一時使用目的
仮営業所,仮店舗などの簡易建物の敷地として使用していた
詳しくはこちら|土地賃貸借は一時使用目的であれば通常の借地としては扱われない

え 借地権の価値なし(※2)

『ア・イ』のいずれかに該当する
ア 借地権消滅
借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により借地権が消滅した
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
イ 正当事由の充足
借地契約を存続させることが困難であると認められる事情が生じた
詳しくはこちら|借地の更新拒絶・終了における『正当事由』・4つの判断要素の整理
※法人税基本通達13−1−14(1)〜(3)

税務上の借地権の価値の考え方は,私法(民法)を元に考えます。
詳しくはこちら|私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)
そのため,前記の例外は,基本的に民法・借地借家法の適用・解釈と合致しています。
しかし実際の認定はある程度ラフであることもあります。つまり,厳密な民事的な認定(裁判所の判断)とはずれることもあり得ると思います。
具体例は別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|借地の無償返還で課税上『借地権の価値なし』と認める具体例