1 登記申請には登記原因と原因日付が必要である
2 登記を命じる判決主文に不備が生じるケースがある
3 判決の更正で修正した上で登記申請をする方法
4 時効取得の原因日付に不備のある申請の扱い
5 判決主文の不備を法務局で救済したいろいろなケース
6 裁判上の和解の不備を法務局で救済するケース

1 登記申請には登記原因と原因日付が必要である

所有権移転などの権利の登記には登記原因原因日付が必要です。
どのような契約によって,いつ権利の移転(変動)が生じたかを登記上の記録として残すという趣旨です。

<登記原因と原因日付の必要性>

あ 登記申請の形式的な却下事由

権利に関する登記申請において
『い・う』の両方が特定されている必要がある
特定されていない場合
→登記申請は却下される
※不動産登記法25条4号

い 登記原因

登記の対象となる権利変動の原因
例=売買・贈与・相続など

う 原因日付

登記の対象となる権利変動の日付
例=所有権移転の年月日

2 登記を命じる判決主文に不備が生じるケースがある

ところで,登記申請の当事者が対立していると,協力してくれないことがよくあります。
その場合は,登記を命じる判決を獲得すれば当事者の一方のみで単独申請をすることができます。
詳しくはこちら|登記は共同申請が原則だが判決や相続では単独申請ができる
同様に裁判上の和解が成立した時に作られる和解調書によって単独申請をすることもできます。
ここで,判決主文や和解調書に不備があるケースも実際に生じています。
このような欠落は,弁護士や裁判官が登記手続の細かい部分を熟知していない場合に生じます。
判決に形式的な不備があると,法務局で受け付けられないという困った事態になります。

3 判決の更正で修正した上で登記申請をする方法

判決に不備がある場合,裁判所が更正決定をすれば表記などの形式面は修正できます。
しかし,実際には裁判所は更正決定をしてくれないこともあります。
要するに,判決内容は間違いないのだから,形式面は登記所(法務局)で対応すべきだ,という考え方です。

4 時効取得の原因日付に不備のある申請の扱い

具体例として,取得時効によって所有権を得たケースについて説明します。
民法の理論として,占有を開始した時点にさかのぼって,所有権を取得したことになります。
そこで,登記申請書には占有開始日原因日付として記載しておく必要があります。
原因日付がないと登記申請は却下されます。
この点,判決による登記で,判決主文に原因日付が書いていない場合は,一般的に,救済的に受理して登記を行うことになります。

<時効取得の原因日付に不備のある申請の扱い>

あ 原因日付

所有権移転の生じた日付について
→時効の起算点(占有開始日)である
※民法144条

い 原因日付を欠く申請の扱い

原因日付が特定できていない登記申請について
→原則的に認められない
※『登記研究434号』テイハンp146
※『登記研究451号』テイハン1985年p124,125
※『登記研究503号』テイハンp196

う 不備のある判決の救済(※1)

判決による単独申請において
判決主文に原因日付(時効の起算点)が記載されていない場合
→救済的に登記申請が認められる
『年月日不詳時効取得』として登記する
※『登記研究244号』テイハンp68

5 判決主文の不備を法務局で救済したいろいろなケース

実際に,判決主文に不備があっても,登記申請を受け付けた法務局で救済的に受理して登記を遂行したケースは,前記のもの以外にもいろいろあります。
法務局が救済した事例を紹介します。

<判決主文の不備を法務局で救済した例>

不備内容 根拠 救済方法
登記原因・原因日付が書いてない 昭和29年5月8日民事甲第938号民事局長回答 『平成◯年◯月◯日判決』として受理する
登記原因が売買だが,原因日付が不明 昭和34年12月18日民事甲第2842号民事局長回答 『年月日不詳売買』として受理する
登記原因が時効取得だが,原因日付が不明 登記研究244号p68 『年月日不詳時効取得』として受理する(前記※1)
登記原因・日付不明 『年月日不詳判決』として受理された例もある

6 裁判上の和解の不備を法務局で救済するケース

裁判上の和解の調書で単独申請を行うケースもあります(前記)。
和解調書は裁判所が作るものですが,やはり登記原因や原因日付を欠くという不備が生じることもあります。
これについても,法務局で救済的に受け付ける傾向があります。

<裁判上の和解の不備を法務局で救済するケース>

あ 前提事情(不備の状況)

裁判所が作成した和解調書について
登記原因と原因日付が記載されていない

い 法務局の扱い

救済的に登記申請を認める
登記原因は『和解』とする
原因日付は和解成立の日とする
※『登記研究451号』テイハン1985年p125
※昭和34年12月18日民甲2842民事局長回答参照