1 増改築許可の認容決定の内容
2 増改築許可の付随裁判の規定の基本部分
3 増改築許可の付随的裁判の趣旨
4 増改築許可の付随的裁判の内容の分類
5 財産上の給付の実務的傾向
6 増改築許可と借地期間の延長
7 増改築許可と地代の変更
8 再築許可との比較
9 増改築許可における具体的指示の例
10 付随的裁判と処分権主義

1 増改築許可の認容決定の内容

裁判所の増改築許可は,地主の承諾に代わるものです。
許可の対象は個別的な増改築を適法にするものです。
借地条件としての枠を変更する効果はありません。
借地条件自体を変更する手続は借地条件変更の裁判です。

<増改築許可の認容決定の内容>

個別的・具体的な増改築を適法にする権限を借地人に与える
『借地条件』を変更する効果はない
=増改築は既存の借地条件の範囲内に限られる
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p123
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p59

2 増改築許可の付随裁判の規定の基本部分

増改築許可の手続の目的は文字どおり増改築についての許可を得ることです。
この点,裁判所は,増改築の許可とともに,これに関係する事項の処分の決定をすることができます。
これを付随的裁判と呼びます。
まずは付随的裁判の規定の内容の基本部分をまとめます。

<増改築許可の付随裁判の規定の基本部分>

あ 要件=前提事情

次の両方に該当する
ア 増改築を許可(認容)する
なお借地条件変更の認容も含まれる
イ 当事者間の利益の衡平を図る必要がある

い 付随裁判

増改築の許可(本裁判)とともに
裁判所は付随的な処分(付随的裁判)をすることができる(後記※1)

う 申立の必要性

裁判所の職権で付随的裁判を行う
当事者の申立は不要である
※借地借家法17条3項

3 増改築許可の付随的裁判の趣旨

実際に増改築の許可を認める裁判では,通常,付随的裁判(付随処分)が伴います。
付随的裁判の趣旨は,許可によって借地人が利益を得るので,地主にも利益を与えるというものです。

<増改築許可の付随的裁判の趣旨>

あ 増改築許可の現実的な効果(前提)

増改築許可の認容決定がなされた場合
→『ア・イ』の効果が生じる
ア 更新請求の可能性アップ
更新拒絶の正当事由が認められにくくなる
→法定更新が認められる可能性が増大する
※借地借家法5条,6条
イ 建物買取額のアップ
建物買取請求権の行使による買取金額が上がる
※借地借家法13条

い 利害の状況

借地人に利益が生じる
一方,地主には不利益が生じる

う バランスの調整

実務では付随的裁判(後記※1)がなされるのが通例である
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p123

4 増改築許可の付随的裁判の内容の分類

付随的裁判の内容の種類は,条文に規定されています。
条文の規定に沿って整理します。

<増改築許可の付随的裁判の内容の分類(※1)>

あ 他の借地条件の変更

存続期間や地代の変更
例;存続期間の延長(後記※3)・地代の増額(後記※6)

い 財産上の給付

一時金の支払
実質的な『承諾料』である(後記※2)

う その他相当の処分

典型例は『ア・イ』のような内容である
ア 金銭支払の効力発生要件化(※4)
財産上の給付を借地条件変更・増改築の許可の効力発生要件とする
イ 増改築の内容
増改築の内容についての具体的な指示(後記※5)
※稲本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第2版』日本評論社2003年p124
※東京地裁借地非訟研究会『詳解 借地非訟手続の実務』新日本法規出版1996年p182
※水本浩ほか『基本法コンメンタール 借地借家法 第2版増補版』日本評論社2009年p59
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』p50

5 財産上の給付の実務的傾向

増改築の許可の裁判では,財産上の給付が決められています。
要するに承諾料という性質の金銭支払です。

<財産上の給付の実務的傾向(※2)>

あ 給付の有無

増改築許可の認容決定について
実務ではほぼ例外なく財産上の給付が命じられている
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p50

い 給付を命じる裁判の性質

財産上の給付を命じる付随処分について
→確定すれば形成力を持つ
=財産上の給付請求権が生じる
執行力を有している
※借地借家法58条
『給付を命じる』方式以外もある(う)

う 実務的な傾向

ア 金額
財産上の給付(承諾料)の金額について
→原則的に更地価格の3%相当である
詳しくはこちら|借地上の建物の増改築許可の承諾料の相場(財産上の給付の金額)
イ 条件方式
認容決定の効力発生を財産上の給付にかからせる方法もある(前記※4)
=給付をしない限り,許可の効力が生じない
実務ではこの方式がとられることがほとんどである
ウ 支払期限
財産上の給付に期限を設定することが多い
期限は『3か月』が圧倒的に多い
※東京地裁の運用
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p50,51,53
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p229

6 増改築許可と借地期間の延長

増改築の許可に伴って借地期間が自動的に延長されることにはなりません。
裁判所の判断(付随的裁判)によって延長することが法律上は可能です。
しかし付随的裁判で期間が延長されることは通常ありません。

<増改築許可と借地期間の延長(※3)>

あ 増改築許可と異議権喪失の関係

増改築許可の裁判について
増改築制限特約の効力を外すだけである
異議権は喪失しない
=(再築の)期間延長が適用されるわけではない
※東京高裁昭和50年5月29日;旧借地法について
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p53

い 付随処分としての期間延長

付随処分のうち『他の借地条件の変更』として
形式的には借地期間を延長するとも含まれる
しかし,実務では期間延長はなされていない
※東京地裁の運用
※東京地裁借地非訟研究会『詳解 借地非訟手続の実務』新日本法規出版1996年p228
※市川太志『借地非訟事件の処理について』/『判例タイムズ967号』1998年p52
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p229

7 増改築許可と地代の変更

増改築の許可に伴って地代を増額することはあまりありません。

<増改築許可と地代の変更(※6)>

増改築許可の認容決定について
→実務では地代の額を変更することは少ない
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p229

8 再築許可との比較

借地非訟手続には,増改築許可とは別に再築許可の手続があります。
増改築許可と再築許可はとても似ているように感じます。
しかし,許可(認容決定)の効果のうち期間延長については違いがあります。
間違えやすいところですのでまとめておきます。

<再築許可との比較>

あ 再築許可と期間延長(参考)

再築許可は再築による解約(法律上の規定)の排除が趣旨である
※借地借家法8条2項
再築許可(認容決定)によって
期間延長(法律上の規定)も原則として適用される
※借地借家法7条2項
詳しくはこちら|借地上の建物の再築許可の裁判の効果(解約回避・期間延長)

い 増改築許可と期間延長

増改築許可は増改築禁止特約の排除が趣旨である
増改築許可(認容決定)によって
地主の異議権(法律上の規定)は喪失しない
=期間延長が適用されるわけではない
付随的裁判としても実務では期間の延長をしていない(前記※3)

9 増改築許可における具体的指示の例

個別的な事情によっては,増改築の施工内容について制限(指示)がなされることがあります。
これは一般的なものではありません。
特殊事情がある場合には,地主側が適切な資料提出や主張をすることで,許可に制限が付けられることがあるのです。

<増改築許可における具体的指示の例(※5)>

増改築許可の裁判に付随して
増改築部分の軒先が私道にかからないように命じた
※東京地裁昭和47年10月27日

10 付随的裁判と処分権主義

借地非訟の手続は全体的に訴訟とは違うルールが適用されます。
文字どおり非訟というネーミングの由来です。
通常とは異なるルールの1つに処分権主義が適用されないというものがあります。
当事者の主張に関係なく裁判所は判断できるのです。

<付随的裁判と処分権主義>

あ 処分権主義の非適用

付随的裁判について
→処分権主義は適用されない

い 当事者の意見の扱い

裁判所は当事者の意見に拘束されない
例;財産上の給付の金額を希望額より下げることも可能である
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p220,221