簡易宿所は建築基準法でも「旅館」か|用途・階数・使用制限命令を判断した裁判例
1 簡易宿所は建築基準法でも「旅館」か|用途・階数・使用制限命令を判断した裁判例
簡易宿所の許可は、旅館業法にもとづいて保健所が出します。建物そのものについては、この許可とは別に建築基準法がかかります。ところが建築基準法には「簡易宿所」という用途が書かれていません。宿泊施設として並んでいるのは「ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎」で、どれに当たるかによって、建物に求められる防火の水準が変わります。
この点を正面から判断した裁判例があります。川崎市の簡易宿所について、建築基準法上は「旅館」に当たるとし、3階以上の階をその用途に供する以上、耐火の基準を満たしていなければならないとしたものです。建物が建てられたのは昭和38年でしたが、古い建物だからという理由で守られることもありませんでした。
この記事では、その判断の中身を順に見ていきます。民泊に旅館業法の許可が要るかどうかは、別の記事で説明しています。
民泊に旅館業法の許可は要るか|「許可は不要」の確認を求めた訴えと、その却下
2 争われたことと、裁判所の答え
この事件で争われたことと、裁判所の答えを先にまとめます。
<争われたことと、裁判所の答え>
争われたこと裁判所の答え簡易宿所は、建築基準法別表第一(い)欄(二)項の「旅館」に当たるか当たる。宿泊の利用の態様が旅館と同一だから利用者に長期滞在者が多いことは、この判断を変えるか変えない。実情にすぎず、短期滞在が排除されているわけではない中2階へ上がる木造の小さな階段は「主要構造部」か当たる。複数の居室のある階どうしをつなぐもので「局部的な小階段」ではない仮に「下宿、共同住宅、寄宿舎」だとすると結論は変わるか変わらない。中2階・中3階を数えて5階建てであり、防火地域内にもある昭和38年に建てられた建物に、いまの27条1項が適用されるか適用される。建築当時の規定にもすでに違反していた事前の手続を経ない使用制限命令は許されるか許される。手続を経ていては時宜を失するおそれがあったその命令に期限を定める必要があるかない。法は命令の効力期間を定めていない
3 建築基準法に「簡易宿所」という用途は無い
建築基準法は、防火の見地から特別の規制をかける建物を「特殊建築物」と呼び、別表第一に並べています。宿泊施設が出てくるのは(い)欄の(二)項で、そこに挙がっているのは「ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎」です。旅館業法が定める「簡易宿所営業」という言葉は、建築基準法のどこにも出てきません。
同じ(二)項の(ろ)欄は「三階以上の階」となっています。3階以上の階をこれらの用途に供する建物が、27条1項1号の対象になるという組み立てです。
別表第一(い)欄(二)項の用途と、その対象になる階
病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの
※建築基準法別表第一(い)欄(二)項
三階以上の階
※建築基準法別表第一(ろ)欄(二)項
27条1項は、その対象になる特殊建築物について、中にいる人が地上まで避難し終えるまでの間、倒壊と延焼を防ぐ性能を求めています。この性能を満たしているかどうかは、建物のどの部分を見るかで決まります。
なお、下の引用のとおり、いまの27条1項は「特定主要構造部」という言葉を使っています。これから見る判決が引用しているのは、この言葉が入る前の「主要構造部」です。条文を引くときは、文言が変わっていることに注意が要ります。
27条1項が特殊建築物に求めること
次の各号のいずれかに該当する特殊建築物は、その特定主要構造部を当該特殊建築物に存する者の全てが当該特殊建築物から地上までの避難を終了するまでの間通常の火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために特定主要構造部に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとし、かつ、その外壁の開口部であつて建築物の他の部分から当該開口部へ延焼するおそれがあるものとして政令で定めるものに、防火戸その他の政令で定める防火設備(その構造が遮炎性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものに限る。)を設けなければならない。
※建築基準法27条1項
別表第一(ろ)欄に掲げる階を同表(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供するもの(階数が三で延べ面積が二百平方メートル未満のもの(同表(ろ)欄に掲げる階を同表(い)欄(二)項に掲げる用途で政令で定めるものに供するものにあつては、政令で定める技術的基準に従つて警報設備を設けたものに限る。)を除く。)
※建築基準法27条1項1号
4 横浜地裁——宿泊利用の態様が旅館と同一だから「旅館」に含まれる
取り上げるのは、横浜地方裁判所令和4年3月2日判決です。川崎市にある簡易宿所について、市の建築監視員が3階以上の階の使用を制限する命令を出し、建物の所有者がその取消しを、そこで簡易宿所を営む会社が国家賠償を求めた事件です。請求はいずれも棄却され、判決は確定しています。背景には、平成27年に同じ地区の簡易宿所で起きた火災があります。
裁判所はまず、この建物が27条1項1号の特殊建築物に当たるかを検討しました。別表第一(い)欄(二)項の用途は、就寝に使う建物について避難の安全を確保する見地から制限を課しているものであり、簡易宿所は宿泊の利用の仕方が旅館と変わらない、というのがその理由です。
就寝用途の建築物として、避難の安全を確保する見地から制限されている
本件建物の中2階部分,3階部分及び中3階部分は,前提事実(2)カのとおり,旅館業法に規定する簡易宿所の用途に供されている。法別表第一(い)欄(二)項に掲げる用途は,就寝用途に供する建築物であるため,建築物災害に遭遇した際の安全避難を確保する見地から制限を課している用途の建築物であるところ,簡易宿所は,宿泊利用の態様としては,旅館と同一であるから,建築基準法上の「旅館」に含まれるものと解される(昭和39年住指発第168号(甲9の5)参照)。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
3階以上を「旅館」の用途に供する特殊建築物に当たる
以上によれば,本件建物は,3階以上の階を「旅館」の用途に供するものであって,法27条1項1号の特殊建築物に該当するというべきである。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
5 長期滞在が多いという実情は、用途の判断を変えない
所有者の側は、この簡易宿所の利用者は長期滞在者が多く、建物の構造に慣れているからホテルや旅館の利用者より避難しやすい、したがって「下宿、共同住宅、寄宿舎」に当たる、と主張しました。川崎市の簡易宿所には、実際に長期の宿泊者が多いという事情があります。
裁判所はこれを採りませんでした。用途の判断は、その用途の性質上どのような利用が予定されているかで決まるのであって、現に誰がどう使っているかで決まるのではない、という組み立てです。
長期滞在が多いのは実情にすぎず、短期滞在が排除されているわけではない
しかし,仮に本件簡易宿所の利用者には長期滞在者が多いという実情があるとしても,あくまでも結果としてそのような実情にあるというにすぎず,簡易宿所という用途の性質上,短期滞在がそもそも排除されているというものではないから,これを「下宿,共同住宅,寄宿舎」の用途のように,その性質上,当初から特定の利用者による長期滞在のみが予定されているものと同等と評価するのは相当でない。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
6 違反の実体は、中2階へ上がる小さな階段だった
用途が決まっても、それだけで違反になるわけではありません。27条1項が求めているのは、建物の一定の部分が耐火の基準を満たしていることです。この事件で問題になったのは、2階と中2階、3階と中3階をつなぐ木造の階段でした。段数は7、8段、高さは2メートルに足りません。
建築基準法2条5号は、階段を主要構造部に含めたうえで「局部的な小階段」を除いています。所有者の側は、この階段は焼け落ちても建物の倒壊や延焼を引き起こすようなものではないから主要構造部に当たらない、と主張しました。
主要構造部とは何か——「局部的な小階段」は除かれている
壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くものとする。
※建築基準法2条5号
複数の居室をつなぐ階段は「局部的な小階段」ではない
前提事実(2)エのとおり,本件建物の2階部分,中2階部分,3階部分及び中3階部分には,それぞれ,一定の広さを有し,他の居室や廊下部分等と扉や壁で仕切られた複数の居室がある。そして,本件階段は,これら複数の居室を有する2階部分と中2階部分,並びに3階部分と中3階部分とをそれぞれつなぐものであるから,これが「局部的な小階段」に該当するとはいえない。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
27条1項は性能を定める規定であって、主要構造部を定義する規定ではない
しかし,同項は,特殊建築物の主要構造部に求める性能や構造を定める規定であって,当該性能や構造から主要構造部に該当するものとしないものとを定義する規定ではない。原告X1の上記主張は採用の限りでない。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
7 仮に「下宿・共同住宅・寄宿舎」だとしても、結論は変わらない
裁判所は、念のためとして、この建物を「旅館」ではなく「下宿、共同住宅、寄宿舎」と解した場合も検討しています。その場合には、国土交通大臣の告示が定める例外に当たり、耐火構造までは求められない余地があるからです。所有者の側は、避難のしやすさから見てこの建物は3階建てだと評価すべきだ、と主張していました。
ここで効いたのが階数の数え方でした。建築基準法施行令2条1項8号は、建物の部分によって階数が違うときは最大のものによる、としています。中2階と中3階は宿泊室として使われ、2階または3階から階段で上がり、共用廊下を通って各室に至る造りでした。
階数の数え方
昇降機塔、装飾塔、物見塔その他これらに類する建築物の屋上部分又は地階の倉庫、機械室その他これらに類する建築物の部分で、水平投影面積の合計がそれぞれ当該建築物の建築面積の八分の一以下のものは、当該建築物の階数に算入しない。また、建築物の一部が吹抜きとなつている場合、建築物の敷地が斜面又は段地である場合その他建築物の部分によつて階数を異にする場合においては、これらの階数のうち最大なものによる。
※建築基準法施行令2条1項8号
中2階は3階、中3階は5階——階数が最大の部分による
前提事実(2)エのとおり,本件建物において,中2階部分及び中3階部分は,宿泊室として利用され,2階部分又は3階部分から階段を介して中2階部分又は中3階部分に上がり,共用廊下を経て各宿泊室に至る利用形態となっていることから,中2階部分は3階に,中3階部分は5階に当たるというべきである。そして,吹抜きとなっている部分はあるものの,階数が最大の部分は5であることから,本件建物は5階建てである。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
5階建てで防火地域内だから、どちらの用途と解しても結論は同じ
そうすると,本件建物は5階建てであって,さらに,防火地域内に所在するものであるから,告示255号第一第1項2号の適用対象となる建築物に該当しない(別紙4の②に非該当)。
したがって,本件建物を「旅館」の用途に供されるものと解するか,「下宿,共同住宅,又は寄宿舎」の用途に供されるものと解するかは,結局のところ,前記カの結論を左右しない。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
8 建てた当時のままでも、既存不適格で守られないことがある
ここまでの話には前提があります。この建物が建てられたのは昭和38年で、適用された27条1項は平成27年6月1日に施行されたものです。ふつうは、法令が変わっても、変わる前から建っていた建物にその規定は及びません。建築基準法3条2項が定める、いわゆる既存不適格です。
ところが3条3項1号は、改正前の規定にすでに違反していた建物を、この保護から外しています。この建物には検査済証が交付されておらず、建築当時の27条1項もすでに特殊建築物を耐火建築物とすることを求めていて、木造の階段はそのときから耐火構造ではありませんでした。
既存不適格と、その例外
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築、修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。
※建築基準法3条2項
この法律又はこれに基づく命令若しくは条例を改正する法令による改正(この法律に基づく命令又は条例を廃止すると同時に新たにこれに相当する命令又は条例を制定することを含む。)後のこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用の際当該規定に相当する従前の規定に違反している建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分
※建築基準法3条3項1号
建築当時の規定にも違反していたから、既存不適格の保護は及ばない
上記のとおり,本件建物が建築された当時の建築基準法27条1項において,既に,特殊建築物は耐火建築物としなければならない旨が規定されていたところ,後記のとおり,本件建物の主要構造部に該当する本件階段は,本件処分時に至るまで木造であって,耐火構造とはなっていなかったのであるから,本件建物には,法3条2項は適用されず(同条3項1号),平成27年6月1日に施行された法27条1項が適用される。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
9 違反していれば、事前の手続なしに使用制限命令が出る
違反が認められたとき、特定行政庁は是正のために必要な措置を命じることができます。使用禁止や使用制限もその一つです。この命令には、あらかじめ通知をして意見の聴取を行うという手続が置かれています。もっとも9条7項は、緊急の必要がある場合には、その手続によらずに仮に使用禁止または使用制限を命じることができるとしています。この事件の命令は、この7項にもとづくものでした。
裁判所は、7項の「緊急の必要がある場合」を、2項から6項までの手続を経ていては時宜を失するおそれのある場合だと解しました。そのうえで、この建物が簡易宿所として現に多数の宿泊者に利用されていたこと、違反の内容が避難経路になる階段の耐火性能であったことを挙げ、火災が起きれば甚大な被害が生じるおそれがあったとしています。
是正の命令と、緊急の場合の仮の命令
特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。
※建築基準法9条1項
特定行政庁は、緊急の必要がある場合においては、前五項の規定にかかわらず、これらに定める手続によらないで、仮に、使用禁止又は使用制限の命令をすることができる。
※建築基準法9条7項
「緊急の必要がある場合」とは、手続を経ていては時宜を失するおそれのある場合
法9条7項の命令は,命ずることのできる措置が同条1項で命ずることのできる措置の一部(使用禁止又は使用制限)に限られる一方で,同条1項の命令を発する場合に履践しなければならない事前の手続を経ずに発することができるものとされていることに照らせば,同条7項にいう「緊急の必要がある場合」とは,同条2項ないし6項に定める手続を経ていては時宜を失するおそれのある場合をいうものと解される。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
多数の宿泊者が現に利用しており、甚大な被害が生じるおそれがあった
そして,本件建物が簡易宿所の用途に供されており,現に多数の宿泊者により利用されていたこと,本件建物に認められた建築基準法令の違反の内容は主要構造部である本件階段が耐火構造となっていないというものであり,本件階段が非常時に宿泊者の避難経路としての役割を果たすものであることに照らすと,本件建物で火災が発生した場合には,多数の死傷者が出るなど甚大な被害が生じるおそれがあったものと認められるから,かような公益上の理由に鑑みれば,本件建物の3階以上の階の使用を制限するにつき,法9条2項ないし6項に定める手続を経ていては時宜を失するおそれがあったということができる。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
10 その命令に期限は要らない——取り消されるまで続く
9条7項の命令は「仮に」するものとされています。所有者の側は、事前の手続を省いて出される暫定の措置なのだから期限を定めなければならない、と主張しました。この建物では、平成27年に出された命令が訴訟の時点まで続いていました。
裁判所はこれも採りませんでした。法は効力期間を定めておらず、期限を定めよとも書いていないこと、命令から一定の期間が過ぎても違反の状態が解消するわけではないこと、9条9項が意見の聴取の結果にもとづいて1項の命令を「することができる」と書いていて「しなければならない」とはしていないことを挙げ、7項の命令の効力がそのまま続くことを法は予定している、としています。
事前の手続を省くことについては、事後に速やかな意見の聴取の機会が保障されていることが理由に挙げられています。
事後の意見の聴取と、その結果の扱い
前項の命令を受けた者は、その命令を受けた日から三日以内に、特定行政庁に対して公開による意見の聴取を行うことを請求することができる。この場合においては、第四項から第六項までの規定を準用する。ただし、意見の聴取は、その請求があつた日から五日以内に行わなければならない。
※建築基準法9条8項
特定行政庁は、前項の意見の聴取の結果に基づいて、第七項の規定によつて仮にした命令が不当でないと認めた場合においては、第一項の命令をすることができる。意見の聴取の結果、第七項の規定によつて仮にした命令が不当であると認めた場合においては、直ちに、その命令を取り消さなければならない。
※建築基準法9条9項
法は9条7項の命令の効力期間を定めていない
しかし,法は,同法9条7項の命令の効力期間を定めておらず,命令を発するに当たり期限を定めなければならないとも規定していない。このことは,同項が対象とするのは,「建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地」であって(同条1項),使用禁止又は使用制限を命じて一定期間が経過しただけでは,建築物等の違反状態に影響を及ぼすもの(違反状態が解消されたり,軽減されたりするようなもの)ではないことに照らすと,不合理とはいえない。さらに,上記のように,同条7項の命令が発せられて一定期間が経過しただけでは,建築物等の違反状態が解消されたり,軽減されたりするものではないにもかかわらず,同条9項が,意見の聴取の結果に基づいて,7項の命令が不当でないと認めた場合においては,1項の命令をすることができ,意見聴取の結果,7項の命令が不当であると認めた場合においては,直ちに,その命令を取り消さなければならない旨規定している(すなわち,不当でないと認めた場合に「1項の命令をしなければならない」とは規定していない。)ことからすると,法9条は,7項の命令が不当でない場合において,特定行政庁がその裁量において1項の命令をするという措置を取らず,その場合に7項の命令の効力がそのまま継続することを予定しているものと考えられる。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
事後に意見聴取の機会があるから、期間を限定しなければならないとはいえない
確かに,法9条7項の命令は,公益上緊急の必要があるために,事前手続を省略して発令することが認められたものであるが,事後に速やかな意見聴取の機会が保障されていること(同条8項)に照らすと,事前手続を省略して発せられるがゆえに,命令の効力期間を限定しなければならないとはいい難い。
※横浜地方裁判所 2022-03-02 判例地方自治 506号101頁
Westlaw Japan
11 おわりに
旅館業法の許可と、建築基準法が建物に求めるものは別です。この判決は、簡易宿所が建築基準法では「旅館」として扱われること、3階以上の階をその用途に供するなら耐火の基準がかかること、そして古い建物でも既存不適格として守られるとは限らないことを示しています。違反があれば、事前の手続を経ないまま使用制限命令が出され、期限の定めもないまま続くことになります。
ただし、これは地方裁判所の判断が1件あるという段階です。上級審の判断があるわけではなく、事情が違えば同じ結論になるとは限りません。
旅館業法の側で、自治体の条例が国の基準に上乗せをしてよいかが争われた裁判例は、別の記事で説明しています。
旅館業法に条例で上乗せできるか|有効性を判断した裁判例の到達点
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。実際に問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
本記事の引用は、書籍・判例などの原文から範囲を選んで載せたものです。改行の位置は読みやすさのために当方で整えており、原文の改行と同じとは限りません。また、記号や外字の扱いにより、文字の一部が原文と異なって表示されることがあります。


