民泊に旅館業法の許可は要るか|「許可は不要」の確認を求めた訴えと、その却下
1 民泊に旅館業法の許可は要るか|「許可は不要」の確認を求めた訴えと、その却下
自宅の空き部屋やマンションの一室を旅行者に有料で貸す——いわゆる民泊に、旅館業法の許可は要るのか。要るとすれば簡易宿所営業に当たるのか。行政は要ると言い、事業者は要らないと考える、という場面は珍しくありません。
それなら裁判所に決めてもらえばよい、と考えるのが自然です。実際にそれを試みた人たちがいます。「許可を受ける義務がないことを確認してほしい」という訴えを、江東区と大阪市を相手に起こしました。結果は3件とも却下です。簡易宿所に当たるかどうかという中身に入る前に、訴えの入口で終わっています。
この記事では、その3件が何を理由に却下されたのかと、そこから見える争い方を整理します。旅館業の定義そのもの(「人を宿泊させる営業」の解釈)は、別の記事で説明しています。
2 3件とも却下され、許可が要るかどうかは判断されていない
これから見る3件が、それぞれ何を求め、裁判所が何を答えたかを並べます。
この表は当事務所の整理で、各行の根拠はこの記事の本文にあります。
3件とも却下され、許可が要るかどうかは判断されていない
| 訴え(裁判所・年月日) | 却下の理由 |
|---|---|
| 江東区を相手に、区長の許可を受ける義務がないことの確認(東京地裁 平成29年6月1日) | 許可を受ける義務は区に対して負うものではなく、区が処分をすることも想定されていない。区との間で確認しても法的地位の危険は除けない |
| 同(控訴審・東京高裁 平成29年11月7日) | 計画段階にとどまり実行していない。紛争はまだ裁判所の判断に適するほど成熟していない |
| 大阪市を相手に、市長の許可を受ける義務がないことの確認(大阪地裁 平成30年5月30日) | 行政上の措置を受ける具体的な蓋然性がなく、判決が出ても捜査機関の判断を拘束しない |
3 事案——「許可を受ける義務がないことの確認」を求めた公法上の当事者訴訟
旅館業法は、宿泊する場所を多数人で共用する構造・設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を簡易宿所営業と呼び、旅館業を営もうとする者に都道府県知事(保健所を置く市や特別区では市長・区長)の許可を求めています。許可を受けずに営めば罰則があります。
3件の原告は、いずれも仲介サイトを通じて自分の部屋に旅行者を泊める計画を立て、保健所に相談したところ「許可が要る」と言われました。そこで、公法上の当事者訴訟として、許可を受ける義務がないことの確認を求めました。
なお、判決が引く条番号は当時のものです。簡易宿所営業の定義は当時の2条4項で、平成30年6月15日の施行で「旅館・ホテル営業」への統合に伴い2条3項へ繰り上がりました。無許可営業の罰金も、当時の3万円以下から引き上げられています。
簡易宿所営業の定義と、許可・罰則
この法律で「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいう。
※旅館業法2条3項
旅館業を営もうとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。第四項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない。
ただし、旅館・ホテル営業又は簡易宿所営業の許可を受けた者が、当該施設において下宿営業を営もうとする場合は、この限りでない。
※旅館業法3条1項
第三条第一項の規定に違反して同項の規定による許可を受けないで旅館業を営んだ者
※旅館業法10条1号
4 原告の理屈——少数・短期の提供は旅館業に当たらない
原告が「許可は要らない」と言えたのは、民泊という行為の形を、旅館業法が想定した営業と切り離せるという読みに立っていたからです。泊まるのは、単独か友人・家族という限定的な人的関係に結ばれた少数の旅人で、期間は数日。人的関係のない多数を相手にするホテル営業・旅館営業・簡易宿所営業とは相手が違い、長期を想定する下宿営業とは期間が違う。だから旅館業のどの類型にも当たらない、という組み立てです。
東京の事件では、ここに規模の議論が重ねられました。施行令はホテル営業に客室10室以上、旅館営業に5室以上を求め、簡易宿所営業は「多数人」を要素にしています。これに満たない施設では公衆衛生の問題が生じる可能性が著しく低いのだから、旅館業法で規制する必要はない——そう読んで、同時に宿泊する人数が4人以下なら立法目的が及ばない、と主張しました。昭和23年の立法から衛生環境と衛生観念が格段に向上し、伝染病の流行も激減したという事情も、同じ方向で持ち出されています。
原告の主張——少数の旅人が数日泊まる提供は旅館業に当たらない
宿泊用に提供された個人宅の一部や空き別荘、マンションの空室等に単独又は友人若しくは家族などの限定的な人的関係に結ばれた少数の旅人が数日単位の短い期間宿泊する場所を提供する行為は、旅館業に該当しない以上、当該行為に旅館業法の規制は及ばず、当該行為について営業許可を受ける必要はない。
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
原告の主張——規模が小さければ公衆衛生の立法目的が及ばない
旅館業法の立法目的は、公衆衛生の確保にあり、ホテル営業は、客室の数が10室以上、旅館営業は、客室の数が5室以上とされ(旅館業法施行令1条1項1号、2項1号)、簡易宿所は、多数人とされている(旅館業法2条4項)ところ、これらに満たない施設については、公衆衛生の問題が生じる可能性が著しく低く、旅館業法で規制すべき必要はないとの立法趣旨が存在する。したがって、同時に宿泊する人数が4人以下のものについては旅館業法の立法目的が及ばない。
※東京地方裁判所 2017-06-01 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号100頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
5 区・市の理屈——不特定多数人を募る簡易宿所営業への該当
区の側の読みは、行為の外形を旅館業法2条4項の文言に当てるものです。仲介サイトを通じて公に宿泊希望者を募るのだから相手は不特定多数人であり、多数人で共用する構造・設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業に当たる。大阪市も同じく、原告が挙げた行為はそのまま簡易宿所営業に該当すると述べました。
争われていた実体はこの一点です——同じ行為を「少数・限定的な人的関係・短期間」と見るか、「不特定多数人・多数人で共用する施設」と見るか。どちらの読みが正しいのかは、3件とも訴えが却下されたため、判断されていません。
この「不特定多数を相手にしているか」という問いは、旅館業法の「営業」の解釈そのものです。「営業」は社会性をもって継続反復されているものと説明され、社会性とは社会通念上、個人生活上の行為として行われる範囲を超えることを指します。知人・友人を宿泊させる場合は、ここに当たりません。原告が「限定的な人的関係に結ばれた少数の旅人」と述べたのは、この線の内側だという主張でした。旅館業法の「営業」の解釈は、別の記事で説明しています。
区の主張——仲介サイトで公に募る行為は簡易宿所営業に当たる
本件民泊提供行為は、民泊仲介サイトを通じて公に宿泊希望者を募って宿泊させる行為を繰り返すものであって、不特定多数人を募るものであり、多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業であって、旅館業法2条4項の簡易宿所営業に当たる。
※東京地方裁判所 2017-06-01 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号100頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
6 東京地裁——区長に対して負う義務ではなく、区が処分をすることも想定されていない
東京地裁は、まず許可制の仕組みを分解します。許可を受けなければならないのは旅館業法3条1項がそう定めているからであって、区が事業者に義務を課しているわけではない。無許可営業を処罰するのは国であり、当時の旅館業法には、無許可の者に対して区長が処分をすることを定めた規定がない——と指摘しました。
そのうえで、区との間でこの義務の有無を確認しても、原告の法的地位に生じている危険を除くのに有効適切とはいえない、と結論づけます。判決が出ても当事者の間で効力を持つだけで、捜査機関が逮捕・起訴することは妨げられない、とも述べています。
許可を受ける義務は区長に対して負うものではない
旅館業を経営しようとする者が営業許可を受けなければならないとされるのは、旅館業法3条1項の定めによるものであり、都道府県ないし都道府県知事(本件においては特別区ないし区長)が、旅館業を経営しようとする者に対して、営業許可を受けるべき義務を課しているわけではない。また、旅館業法10条1号は、同法3条1項の規定に違反して営業許可を受けないで旅館業を経営した者を6月以下の懲役又は3万円以下の罰金に処する旨規定するところ、このような無許可営業者を処罰するのは国であり、旅館業法その他の関係法令においても、無許可営業者に対して、都道府県知事(本件においては区長)が処分その他公権力の行使に当たる行為を行うことを定めた規定は見当たらない。
※東京地方裁判所 2017-06-01 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号100頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
区との間で確認しても、法的地位の危険は除けない
しかし、上記(1)のとおり、本件訴えにおいて原告がその有無の確認を求める営業許可を受ける義務は、被告ないし江東区長に対して負う義務ではないし、また、被告が原告に対して処分その他公権力の行使に当たる行為を行うことも想定されない以上は、被告との間で同義務の有無を確認することが、原告の法的地位に係る危険を除去するために有効適切な争訟方法であるということはできない。
※東京地方裁判所 2017-06-01 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号100頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
本件請求が認容されたとしても、それは訴訟の当事者の間でのみ効力を生じるにすぎないから、捜査機関が本件民泊提供行為を行った原告を逮捕・勾留・起訴することが妨げられるものではない。
※東京地方裁判所 2017-06-01 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号100頁<参考収録・原審>/ウエストロー・ジャパン
7 東京高裁——計画段階にとどまり、紛争が成熟していない
控訴審の東京高裁は、結論は同じですが、別の角度から説明します。確認の訴えが適法になるのは、確認の対象が適切で、かつ即時確定の利益があるときだ、という一般論を置きます。
そのうえで、原告がまだ民泊を始めていないことを重く見ました。計画段階にとどまるのであれば、確認の対象が現在の法律関係といえるかも疑わしく、区の担当者が「許可を受けるように」と意見を述べただけでは、権利や法律上の地位に現に危険・不安があるともいえない。紛争が裁判所の判断に適するほど成熟していない、という判断です。
確認の訴えが適法になる条件
したがって、本件訴えは、確認の対象が適格なものであり、即時確定の利益が存在する場合に限り適法となる。具体的には、確認の対象は原則として現在の権利又は法律関係の存在又は不存在でなければならないし、即時確定の利益については、控訴人の権利又はその法律上の地位に現に危険・不安が存在してそれを解消するために、求められている権利又は法律関係について裁判所が既判力をもって確認することが紛争の解決にとって必要かつ適切であることが求められる。
※東京高等裁判所 2017-11-07 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号96頁/ウエストロー・ジャパン
計画段階にとどまる紛争は、まだ成熟していない
しかしながら、控訴人の本件民泊提供行為は、控訴人の代理人弁護士が被控訴人の担当部署に対して行った相談の際の被控訴人の担当者の発言が影響しているとしても、まだ計画段階にとどまっており、これを実行に移してはいない。そのため、まず、本件訴えの確認の対象が現在のものといえるか疑問があり、むしろ、本件民泊提供行為を将来実行する際の権利又は法律関係の確認を裁判所に求めているともいうべきである。また、被控訴人の担当者は控訴人に対して、仮に本件民泊提供行為を行うのなら営業許可を受けるように意見を表明したにすぎず、それ以上の具体的な行政指導等をしたものではないから、控訴人の権利又はその法律上の地位に現に危険・不安が存在しているということもできない。したがって、控訴人と被控訴人との間においては、本件をめぐる紛争がまだ裁判所の判断に適する程成熟したものになっているとはいえず、控訴人が求める権利又は法律関係について裁判所が既判力をもって確認することが現段階において必要かつ適切であるということはできない。
※東京高等裁判所 2017-11-07 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号96頁/ウエストロー・ジャパン
8 実際に始めていた事案とは違う——混合診療・医薬品ネット販売の判決との対比
原告は、規制の適否を訴訟で争えた先例——保険診療と自由診療の併用をめぐる最高裁判決と、医薬品のインターネット販売をめぐる最高裁判決——を挙げていました。高裁はこれを退けます。
どちらも、実際に行われていた診療や販売という事実関係を前提に判断したものであって、本件とは事案が違う、というのがその理由です。裏を返せば、始めてしまえば争える余地があるということでもあります。
混合診療・医薬品ネット販売の判決とは事案が違う
さらに、控訴人は、最高裁判所の判例(平成23年10月25日第三小法廷判決・民集65巻7号2923頁、平成25年1月11日第二小法廷判決・民集67巻1号1頁)を根拠として、本件においても確認の利益が認められるべきであると主張するが、上記各判例は、混合診療が従前から実際に行われてきたこと、あるいは、医薬品販売業者がインターネットを通じた郵便等によって医薬品を実際に販売していたこと等の事実関係を踏まえて判断したものであり、本件とは事案を異にするものである。
※東京高等裁判所 2017-11-07 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号96頁/ウエストロー・ジャパン
9 高裁が示した代わりの手段——事前確認と、自己の判断で行動すること
では、行政と解釈が食い違ったまま動けないときはどうするのか。高裁はこの点にも触れています。罰則しか手段のない規制は旅館業法に限らないとしたうえで、法令適用事前確認手続(ノーアクションレター)を使ったり専門家の意見を聴いたりして、最後は自分の判断で行動するものだ、と述べました。
あわせて、行政の回答と違う判断で事業を始めた場合に、区がそれを法律上規制することはできない、とも指摘しています。事前の相談は情報収集であって、拘束力のある判断ではない、という位置づけです。
ノーアクションレターの内容と、グレーゾーン解消制度との違いは、別の記事で説明しています。
ノーアクションレター制度とグレーゾーン解消制度の違い(比較)
事前確認の手続を使い、最後は自己の判断で行動する
しかしながら、立法目的を達成するための規制手段が刑罰や過料などの罰則しかない規制は、何も旅館業法に限ったものではなく、行政庁との間に規制法の解釈について争いがある場合には、法令適用事前確認手続(いわゆるノーアクションレターの制度)を用いたり、適宜専門家の意見を徴したりするなどした上で、これらを勘案して最終的には自己の判断で規制が及ぶか否かに疑義のある事項についても行動すべきものである。
※東京高等裁判所 2017-11-07 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号96頁/ウエストロー・ジャパン
被控訴人の回答結果が自己の見解と異なるものであっても、種々の事項を総合的に考慮した控訴人が自己の見解が正しいとの考えの下に本件民泊提供行為を実施した場合に、被控訴人がこれを法律上規制することはできない。
※東京高等裁判所 2017-11-07 裁判所ウェブサイト/判タ 1461号96頁/ウエストロー・ジャパン
10 大阪地裁——措置を受ける具体的な蓋然性がなく、判決は捜査機関を拘束しない
大阪地裁は、同じ問題をもう少し細かく分解しています。まず、確認の利益は、判決で法律関係を確定することが紛争の解決と地位の不安・危険の除去に必要かつ適切な場合に認められる、という最高裁の枠組みを確認します。
そのうえで、無許可営業者に対して都道府県知事が行政処分をする定めが当時はなく、原告が市長から処分を受ける可能性はない、と述べます。指導や勧告といった行政上の措置を受ける可能性はあるものの、現に受けているわけではなく、受ける具体的な蓋然性も認められない、というのが認定です。原告は自分の判断で民泊を始めることもできる、とも指摘されています。
原告は、判決が出れば保健所から警察への情報提供がなくなり、取締りの危険も消える、とも主張しました。裁判所はこれも退けます。捜査や逮捕状の請求、起訴の判断はそれぞれ独立に行われるもので、判決がこれらを拘束する法令上の根拠はない、というのが理由です。
確認の利益が認められるのはどういうときか
本件訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして提起されたものであるから、本件訴えが適法であるといえるためには確認の利益が存在することが必要であるところ、確認の訴えにおける確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関して現に存する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
無許可営業者に行政処分をする定めがなく、措置を受ける蓋然性もない
しかしながら、旅館業法上、営業許可を受けないで旅館業を経営した者に対しては刑罰を科す旨が規定されているものの(10条1号)、当該者に対して都道府県知事が何らかの行政処分をする旨の規定は見当たらない(旅館業法は、都道府県知事の報告徴収権限及び立入検査権限〔7条1項〕、措置命令権限〔7条の2〕並びに営業の停止命令権限〔8条〕を規定するものの、これらは、営業許可を受けて旅館業を営む者〔営業者〕に対する都道府県知事の権限を定めたものであって、都道府県知事に対して営業許可を受けないで旅館業を営む者に対する何らかの権限を付与したものではない。)から、原告が営業許可を受けないで本件民泊提供行為を行ったとしても、原告が大阪市長から旅館業法に基づき何らかの行政処分を受ける可能性があるということはできない。
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
さらに、前記のとおりの見解の相違があるとしても、原告としては、被告の見解を含む諸般の事情や状況を考慮の上、自らの判断で営業許可を受けないで本件民泊提供行為を行うことは可能なのであって、現時点において、本件民泊提供行為について営業許可を受けることを要するか否かが被告との間で判決をもって確定されないことによって、原告について、本件民泊提供行為等に関して事後的な損害の回復が著しく困難になる状況が存すると認めることはできず、他に原告の何らかの法律上の地位に現実の不安又は危険が存することをうかがわせるような事情も見当たらないというべきである
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
判決は捜査機関の判断を拘束しない
そして、捜査や逮捕状・勾留状の請求は、捜査機関において、公訴提起は、検察官において、それぞれ独自の判断で行うものであり、また、逮捕状・勾留状の発付は、当該逮捕状・勾留状の請求に対する判断を担当する裁判官において、独立の権限をもって行うものであって、仮に、本件民泊提供行為について営業許可を受けることを要しないことが被告との間で判決をもって確定したとしても、当該判決が、捜査や逮捕状・勾留状の請求を行うか否かに関する捜査機関の判断、公訴提起を行うか否かに関する検察官の判断及び逮捕状・勾留状の発付の適否に関する裁判官の判断を拘束するものと解すべき根拠となる法令上の規定は存しない。
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
そうすると、当該判決がされることによって、原告が、営業許可を受けないで本件民泊提供行為を行っても、警察の取締りを受けたり、逮捕・勾留・公訴提起されたりする可能性はなくなるということはできない。
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
11 平成29年改正(平成30年施行)=無許可営業への立入検査・停止命令の新設
3件に共通していたのは、無許可営業者に対して行政が処分をする仕組みがない、という前提でした。ここはその後に変わっています。
平成29年の改正(平成30年6月15日施行)で、無許可で旅館業を営む者に対する報告徴収・立入検査の権限と、営業の停止その他の措置を命じる権限が新設されました。大阪地裁の判決も、この改正に触れたうえで、それでも現時点での結論は変わらないとしています。
処分ができるということは、処分を受けた側が取消訴訟で争えるということでもあります。許可が要るかどうかを裁判所に判断してもらう土俵は、確認訴訟の外側にできました。もっとも、その土俵に乗るには、まず処分を受ける必要があります。
無許可営業者に対する権限
都道府県知事は、旅館業が営まれている施設において次条第三項の規定による命令をすべきか否かを調査する必要があると認めるときは、当該旅館業を営む者(営業者を除く。)その他の関係者から必要な報告を求め、又は当該職員に、旅館業の施設に立ち入り、その構造設備若しくはこれに関する書類を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
※旅館業法7条2項
都道府県知事は、この法律の規定に違反して旅館業が営まれている場合であつて、当該旅館業が営まれることによる公衆衛生上の重大な危害の発生若しくは拡大又は著しく善良の風俗を害する行為の助長若しくは誘発を防止するため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、当該旅館業を営む者(営業者を除く。)に対し、当該旅館業の停止その他公衆衛生上又は善良の風俗の保持上必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
※旅館業法7条の2第3項
平成29年改正で、無許可営業者への権限が新設された
なお、平成29年法律第84号による改正後の旅館業法〔平成30年6月15日施行〕においては、保健所を設置する市たる被告の長たる大阪市長に対して、一定の要件の下で、営業許可を受けないで旅館業を営む者に対する報告徴収権限及び立入検査権限〔同法7条2項〕並びに措置命令権限〔7条の2第3項〕が新たに付与されている
※大阪地方裁判所 2018-05-30 裁判所ウェブサイト
12 簡易宿所に当たるかを正面から判断した裁判例は見当たらない
以上のとおり、3件はいずれも訴えの入口で終わっており、民泊が簡易宿所営業に当たるかどうかを正面から判断したものではありません。今回の調査の範囲では、この点を判断した裁判例は見当たりませんでした。
手がかりになるのは、いまのところ行政解釈です。旅館業の定義と、無許可営業がどのように調査・検挙されるのかは、別の記事で説明しています。
旅館業法|無許可営業×調査・検挙ハードル|判断が不明確となる具体例
13 おわりに
民泊に許可が要るかどうかは、始める前に裁判所へ聞いても答えが返ってきません。事前に採れるのは、行政への相談、法令適用事前確認手続、専門家の意見であって、いずれも拘束力のある判断ではありません。
平成30年の改正で処分の仕組みができたことにより、処分を受けてから争うという道筋はできました。ただしそれは、一度は違反を指摘される立場に身を置くことを意味します。
条例で法律より厳しい基準が置かれている場合に、その条例が有効かどうかは、別の記事で説明しています。
旅館業法に条例で上乗せできるか|有効性を判断した裁判例の到達点
本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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