【訴訟上の和解の解除(債務不履行解除・解除条件)を主張する手続】

1 訴訟上の和解の解除(債務不履行解除・解除条件)を主張する手続

訴訟上の和解が成立すれば、訴訟は終了し、紛争が解決したことになります。その後、和解内容が履行されない場合、強制執行(差押など)もできます。
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
この点、和解内容が履行されない場合、訴訟上の和解を解除するという方法もあります。本記事では、訴訟上の和解の解除を主張する場合の手続について説明します。
なお実際には、不履行に対しては、強制執行をすることがほとんどで、解除する方法をとることはあまりありません。

2 訴訟上の和解の解除の可否

訴訟上の和解が成立した後にその内容が履行されない場合、債務不履行として解除することができます。
また、もともと和解内容に解除条件がついていて、その解除条件が成就した場合は解除することができます。解除条件の具体例は、「◯月◯日までに(一定の金銭を)支払わない場合、原告は和解を解除できる」という条項のことです。

訴訟上の和解の解除の可否

訴訟上の和解も私法上の解除原因があれば解除できる
また和解が解除条件付きであれば、その条件成就により遡って効力を失う。
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1484

3 訴訟上の和解の無効を主張する手続(参考)

一般的に、訴訟上の和解が無効となる(効力を失う)場合に、これを主張する手続については複数の種類があり、また、見解が分かれています。
詳しくはこちら|訴訟上の和解の無効を主張する手続(期日指定申立など)
訴訟上の和解の解除も、和解の効力を失うという意味では同じです。そこで一般的な和解無効の主張の手続があてはまるように思えますが、解釈には違いがあります。
以下、解除の場合についての解釈を説明します。

4 期日指定申立の方法(従来の判例)

訴訟上の和解が解除によって効力を失った場合、訴訟終了という効果も失われる、つまり訴訟手続が復活するという考え方があります。この考え方を前提とすると、期日指定の申立をして、以前の訴訟手続を再開する、ということになります。
以前は判例がこの見解を採用していましたが、その後判例は変更されました(後述)。
ただし、現在でも、この見解をとる学説があります。

期日指定申立の方法(従来の判例)

あ 従来の判例

訴訟上の和解の内容たる私法上の契約がその契約上の債務の不履行を理由に解除されるに至つた場合には、その和解による訴訟終了の効果も遡及的に消滅するに至る
※大判昭和昭和8年2月18日
※京都地判昭和31年10月19日

い 学説

和解が解除により効力を失い、旧訴訟物につきあらためて訴訟をする際、原訴訟の訴訟状態、訴訟資料を維持・利用すべきことは、無効・取消しの場合と同じであり、また債務不履行にあたるか否か、留保された解除権の要件が充たされたか否かは、和解が成立した裁判所に判断させるのが相当であるから、期日指定の申立てによるのを原則とすべきである。
解除条件についても、同様である。
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1484

5 別訴提起の方法(判例)

別訴を提起して、その中で訴訟上の和解の解除を主張する、という方法があります。以前の訴訟手続を復活させない、という方法です。昭和43年の判例がこの見解を採用しました。
この見解(判例の解釈)を支持する学説も多いです。

別訴提起の方法(判例)

あ 昭和43年最判

ア 訴訟復活→否定 訴訟が訴訟上の和解によつて終了した場合においては、その後その和解の内容たる私法上の契約が債務不履行のため解除されるに至つたとしても、そのことによつては、単にその契約に基づく私法上の権利関係が消滅するのみであつて、和解によつて一旦終了した訴訟が復活するものではないと解するのが相当である。
イ 別訴提起→可能 従つて右と異なる見解に立つて、本件の訴提起が二重起訴に該当するとの所論は採用し得ない
※最判昭和43年2月15日

い 学説

この判例の立場を支持し、期日指定の申立てによることを認めない学説が多い
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1484

6 2分類説・自由選択説

以上のように、期日指定の申立(以前の訴訟手続の復活)という方法と、別訴提起という方法があり、現在の判例は別訴提起の見解を採用している、という状況です。
学説には、さらに別の見解もあります。
和解の内容を2種類に分類して、その分類によって、手続を決める、という見解や、2つの手続のどちらも選べる、という見解です。

2分類説・自由選択説

あ 2分類説

訴訟上の和解を内容的に通常型更改型とに区別し、前者の場合には期日指定の申立てにより、後者の場合には別訴によるべしとする論者もある。

い 自由選択説

別訴期日指定の申立ても、どちらも当事者の選択に従い許されるとする見解もある。
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1484

7 まとめ

訴訟上の和解を解除する、という場合に用いる手続については、以上のようにいろいろな見解があります。ただ、現在生きている判例は別訴提起だけを認めているので、実務ではこの方法を使うことになります。
実際のケースではむしろ、和解を解除する、という方法がよいのか、それとも強制執行を行ったほうがよいのか、という判断の方が重要です。

本記事では、訴訟上の和解の解除を主張する手続について説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に訴訟上の和解が成立した後の履行に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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