【訴訟上の和解の無効を主張する手続(期日指定申立など)】

1 訴訟上の和解の無効を主張する手続(期日指定申立など)

訴訟が始まった後に、判決まで進まず、和解が成立して訴訟手続が終了することが多いです(訴訟上の和解・裁判上の和解)。裁判官が意思確認をして和解が成立し、和解調書によって強制執行ができることになります。
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
和解が成立したということは、両方の当事者が納得したはずなのですが、後から前提の事情を勘違いしていたことに気づいて、「こんなことを知っていたら和解に応じなかった」と思うケースもあります。また、当事者が完全に納得していないのに代理人弁護士が和解を成立させてしまった、というケースもあります。
このような場合、理論的には和解は無効となることがありますが、具体的にどのような手続を使ったらよいかが問題となります。本記事では、訴訟上の和解の無効を主張する手続の種類について説明します。

2 和解が無効となる理由(錯誤・詐欺・解除・代理権欠缺など)

訴訟上の和解が無効となる理由にはいろいろなものがあります。
まず、当事者に誤解(勘違い)があったというケースです。法的には錯誤による無効や取消、詐欺による取消ということになります。
次に、和解内容が履行されないので(債務不履行)解除するケース、和解内容に一定の状況で解除できる条項が入っていて、これによって解除するケースがあります。
また、代理人の代理権が欠けていた(代理権欠缺)ケースもあります。
いずれの場合でも、これらが認められれば結果的に和解が無効になります。本記事では以下、単に(和解の)「無効」といいます。
この点、解除の場合でも和解は無効になります(効力が失われる)。そこで以下の説明があてはまるように思えますが、解釈には違いがあります。解除の場合については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|訴訟上の和解の解除(債務不履行解除・解除条件)を主張する手続

3 訴訟上の和解の無効を主張する手続の種類

訴訟上の和解が無効であると主張する場合、具体的にどのような手続をすればよいのでしょうか。
基本的には、期日指定の申立をして、終了した審理を再開する、という方法になります。
これとは別に、新たな訴訟で、和解が無効であるという確認を求める方法もあります。
また、民事執行法上の請求異議の訴え(訴訟)を申し立てる方法もあります。
なお、再審事由がある場合は再審申立をすることもできます。

訴訟上の和解の無効を主張する手続の種類

あ 期日指定の申立

当事者は和解の無効を主張して期日指定の申立をし、訴訟の続行を求めることができる
裁判所は必ず口頭弁論を用いて和解の有効・無効を審理すべきである
※大決昭和6年4月22日
※大決昭和8年7月11日
※最判昭和33年6月14日

い 和解の無効確認訴訟(別訴)

別訴により和解の無効確認を求めることができる
※大判大正14年4月24日
※最判昭和38年2月21日

う 請求異議の訴え

和解調書が執行力を有する場合において、和解に私法上の無効原因があるときは、請求異議の訴えによって調書上の債権の不存在を主張することができる
※大判昭和10年9月3日
※大判昭和14年8月12日

え 再審の訴え

なんら私法上の無効原因を伴わない再審事由(民事訴訟法338条1項1号、2号)がある場合は、再審の訴えを起こすことができる
※大判昭和7年11月25日(再審申立を認める趣旨)
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1480、1481
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版』有斐閣2013年p782

4 複数の手続の関係(選択式)

前述のように、訴訟上の和解の無効を主張する手続は4つ(再審を入れないと3つ)あります。そして、どの手続を使うか、ということは、当事者が自由に選べることになっています。
なお、一般的には、執行停止の手続を使う場合には請求異議の訴えとセットにする必要があります。この点、和解無効のケースでは、(実務では)期日指定の申立でも執行停止の手続を使うことができます。執行停止を使うためだけに請求異議の訴えを選択する、という必要はありません。

複数の手続の関係(選択式)

あ 選択式

ア 実務(まとめ) 実務的には選択説でほぼ問題はない
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版』有斐閣2013年p785
イ 裁判例 当事者としては裁判上の和解の無効を主張して新たな弁論期日の指定を求め、前訴訟の追行を図ることの許されるのは勿論であるが、又他方別訴を提起して前示裁判上の和解の無効確認を求める方法も亦、許容されると解すべきである。
※名古屋高決昭和33年1月11日

い 執行停止との関係

強制執行がかけられたときの対策としても,執行停止に四〇三条を準用することが認められるならば,請求異議の訴えではなく,期日指定申立てで足りることになろう。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版』有斐閣2013年p785

5 期日指定の申立の後の審理

和解の無効を主張するために期日指定の申立をするのが通常の手法です。
実際には、「和解が無効である」と判定されるケースはレアです。しかし、だからといって、期日指定の申立に対して裁判所が期日指定の申立自体を却下する(認めない)ということはできません。つまり、裁判所は必ず手続を再開しなくてはならないのです。
再開した後の審理では、当然ですが、最初に、和解が有効か無効かを判定します。有効であれば、「和解は有効である」という宣言をする判決を言い渡して終了します。
無効と判定した場合は、次のステップとして、和解前の状態に戻ります。つまり、原告の請求について審理を進めることになります。

期日指定の申立の後の審理

あ 口頭弁論再開

和解の無効を理由として期日指定の申立てがなされたときは、裁判所は必ず期日を指定して口頭弁論を開かなければならない

い 2段階の審理

ア 有効判定 その後の審理は、再審訴訟と同様に2段階に分かれる。
まず、和解の有効・無効を審査し、その結果、和解を有効とするときは、訴訟は和解により終了した旨の終局判決をして、訴訟を打ち切るべきである。
イ 無効判定 和解を無効とするときは、引き続いて第2段階として、和解により終結した訴訟を続行し、原訴訟物につき審理・判決する
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1483
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版』有斐閣2013年p782(同内容)
※東京高判昭和61年2月26日(同内容)

6 和解無効確認訴訟の審理

期日指定の申立ではなく、和解無効確認訴訟の申立をした場合には、当然ですが、裁判所は、和解が無効かどうかを判断します。
有効である、という判断であれば、棄却の判決とします。
和解が無効である、という判断である場合は、その手続(和解無効確認訴訟)から引き続いて元の訴訟(請求)の審理を進めることができる、という見解と、できない(別の訴訟を申し立てる必要がある)という見解があります。

和解無効確認訴訟の審理

和解無効確認の訴えで和解が無効だと確認された後の処理はどうなるか。
ここで,説が分かれ,
従来の訴訟(以下,旧訴と呼ぶ)が復活する,そのための手続として期日指定申立てを経るという考えと,
旧訴は復活せず,常に新訴を提起しなければならないとする考えとがある。
※高橋宏志著『重点講義民事訴訟法(上) 第2版補訂版』有斐閣2013年p783

7 和解無効主張の手続における執行停止の可否(実務)

たとえば、和解内容に、「◯◯円を支払う」という条項があった場合、受け取る側は、和解調書に基づいて財産の差押をすることができます。支払う側が、「和解は無効だ」と考えていても、そのままでは差押を止めることはできません。
差押を止めるためには、執行停止の手続をとる必要があります。ところが、条文上、再審や請求異議の訴えの場合に執行停止ができることになっていますが、期日指定の申立の場合に執行停止ができるという規定はありません。この点、実務では、和解無効の主張のための期日指定の申立和解無効確認の訴えについては、再審と似ていることから、執行停止の手続を利用できることになっています。

和解無効主張の手続における執行停止の可否(実務)

あ 期日指定申立における執行停止の可否

而して斯様な趣旨の期日指定の申立があつたときは、受訴裁判所はこれを拒否するを得ず当然期日を指定して審理を遂げ当該訴訟が和解によつて終了したか否を終局判決を以て判断すべき義務があると解すべきところ、他方右期日指定とこれに伴う審理が行われても係争の和解調書に基く強制執行が当然に停止されるいわれがないから債務者救済の観点からすれば、これが一時停止の方途を見出さなければならないのであるが民事訴訟法上準拠すべき明らかな規定がないから考えるに、もともと右期日指定の申立は、確定判決に対しその訴訟手続又は判断資料における重大な瑕疵や欠陥を主張してその判決の取消とこれによつて終了した訴訟の復活を求める再審の申立と相似たものがあることに鑑み、民事訴訟法第五百条(現在の403条)を類推適用して右執行の停止を許すことが相当であると思考される。
※仙台高決昭和31年2月23日

い 和解無効確認訴訟における執行停止の可否

ところで、当事者はこのように和解無効確認の訴を提起できるのであるが、右のような無効確認の訴が提起されても、既に当該和解調書にもとずき開始された強制執行は当然に停止せられるものではなく、執行は依然進行し、訴訟の落着を見ぬ間にその執行の終つて仕舞うこともあり得る訳である。
そこで、右の如き訴を提起した者に対し、その訴提起と同時に強制執行の停止を求める途を与えねばその救済は完全といい難く、右停止を求める根拠として、民事訴訟法第五百条(現在の403条)の類推適用が許されるものと解するを相当としよう。
※名古屋高決昭和33年1月11日

8 和解無効主張の手続における執行停止の可否(別の見解)

前述のように、実務では、期日指定の申立の場合でも、執行停止の手続を利用できます。この点、この見解に反対する学説もあります。この学説は、(期日指定の申立と合わせて)和解無効確認訴訟の申立もしないと執行停止は使えない、という見解です。

和解無効主張の手続における執行停止の可否(別の見解)

和解調書が執行力を有する場合に、債務者が和解の無効を主張して執行の排除を求めるには、前述のように請求異議の訴えによることもできるが、和解の無効を理由として期日指定の申立てをする方法によってもよい。
ただこの場合に、債務者は、訴えの変更または反訴の形式で、和解の無効確認を申し立てるべきであり、この申立てがあるときは、裁判所は和解を無効と認めれば終局判決の主文で和解の無効を宣言すべきである。
この判決の正本は、民執法39条1項2号の文書にあたる(民執40①参照)。
期日指定の申立てをし、口頭弁論が開かれただけでは、和解調書の執行力は失われないが、債務者が、前述の和解無効確認の申立てをしたときは、398条(現在の民事訴訟法403条)を類推し、同条所定の要件のもとで執行停止等の仮の処分を申し立てることができると解される。
この点で、期日指定の申立てをしただけで、仮の処分を許容している実務の扱い(仙台高決昭31・2・23高民9-2-62、名古屋高決昭33・1・11高民11-1-1)は、妥当でないと考える。
※竹下守夫・上原敏夫稿/兼子一ほか著 『条解 民事訴訟法 第2版』弘文堂2011年p1483、1484

9 訴訟上の和解を無効と判断した実例(参考)

以上のように、訴訟上の和解を無効だと主張する手続は複数ありました。ところで、実際に訴訟上の和解が無効になったとすると、「和解で解決した、紛争は終わった」と思った当事者が裏切られることになります。「和解」というものを信用できなくなります。そこで、実際に訴訟上の和解が無効であると判断されることはレアです。
この点、実際に、和解を成立させた裁判官による意思確認が不十分であったという理由で和解を無効と判断した実例もあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|訴訟上の和解が無効となった実例(裁判例)

本記事では、訴訟上の和解の無効を主張する手続について説明しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に、訴訟上の和解に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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