【控訴に伴う原審判決の仮執行宣言の執行停止の申立】
1 控訴に伴う原審判決の仮執行宣言の執行停止の申立
訴訟の判決の中で、仮執行宣言がつけられることがよくあります。被告としては、判決に不服があるのであれば控訴すれば判決は確定しません。しかし、仮執行宣言があると、判決が確定しなくても強制執行はできて(されて)しまいます。
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
そこで被告としては、控訴するとともに、仮執行宣言の執行停止の申立をするという対抗策があります。
本記事では、控訴とともに行う執行停止の申立について説明します。
2 仮執行宣言の執行停止の裁判の審理方法
被告が控訴した場合に、原審判決の中の仮執行宣言の執行停止を申し立てることができます。そうすると、裁判所は執行を停止するかどうかを判断することになります。一種の裁判です。審理の方法(形式)としては、決定となっており、そうすると口頭弁論を開くかどうかは裁判所が決めるというルールが適用されます。実際にはほぼすべてのケースで口頭弁論は開かれません。
仮執行宣言の執行停止の裁判の審理方法
あ 任意的口頭弁論
(仮執行宣言の)執行停止の裁判は決定によりされる
そこで、口頭弁論をすべきか否かは裁判所が定める
※民事訴訟法87条1項ただし書
い 実務の実情
実務では、口頭弁論が開かれることはほとんどない
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p440
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p334
う 合憲性(参考)
執行停止の裁判を決定手続によって審理判断することは、終局的に当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判ではないので、憲法82条に反しない
※最高裁昭和59年2月10日
※最高裁昭和60年12月20日
3 控訴に伴う執行停止を命じる要件
控訴とともに執行停止の申立があった場合に裁判所が執行の停止を命じる要件は、2種類あり、そのどちらか一方に該当すれば裁判所は執行停止を命じます。大雑把に言うと、原審がくつがえる、著しい損害が生じるおそれがある、の2種類です。両方とも比較的認められやすいものです。、
控訴に伴う執行停止を命じる要件
あ 基本
控訴提起があり、『い』または『う』の疎明があった場合、裁判所は執行停止の停止を命じる
※民事訴訟法403条1項3号
い 原判決取消・変更の可能性
ア 規定の内容
原判決取消または変更の原因となるべき事情がないとはいえない(ことについての疎明)
イ 解釈
変更とは、原判決の一部取消の場合をいうものと解される
事情がないとはいえないことが疎明されれば足りる(疎明の程度は低い)
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p345
う 著しい損害発生のおそれ
ア 規定の内容
執行により著しい損害を生ずるおそれがある(ことについての疎明)
イ 解釈
『著しい損害』であり、『償うことができない損害』までは要しない(緩やかである)
金銭で回復できるような損害であっても、その損害の程度が著しいものであれば、なお執行停止が可能とされる
ウ 具体例
執行によって被告の経済生活の基盤が脅かされる場合
原告の資力からみて執行により回収された金銭の返還を求めることが著しく困難である場合
※滝井繁男『控訴または督促異議の申立てに伴う執行停止の要件及び手続』/『新民事訴訟法大系(4)』p275
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p346
4 裁判所の判断(執行停止の許否)の傾向
前記のように、控訴に伴う執行停止は、要件が認められやすいものです。そこで実際の申立では、執行停止を認める傾向が強いです。
裁判所の判断(執行停止の許否)の傾向
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p441
5 執行停止の裁判(結論)の分類
裁判所が執行停止を認めるとした場合、その内容は4種類に分類できます。被告(申立人)が担保を立てる必要の有無や、逆に原告(相手方)が担保を立てれば執行を停止しない(停止した執行を再開する)、などを裁判所が決めることができるのです。
執行停止の裁判(結論)の分類
あ 強制執行停止−担保なし
被告による担保の提供を要件としない強制執行の停止
い 強制執行停止−担保あり
被告による担保の提供を要件とする強制執行の停止
う 強制執行停止−開始・続行あり
執行停止とともにする原告による担保の提供を要件とする強制執行の開始または続行
え 強制執行停止−取消つき
執行停止とともにする原告による担保の提供を要件とする執行処分の取消し
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p440、441
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p334
6 担保に関する判断基準と運用傾向
実際には、執行停止が認められるとして、被告(申立人)が担保としてどのくらいの金額が要求されるのか、ということが大きな問題となります。
以前、仮執行宣言がついた請求額の80%というような相場がありましたが、現在では個別的な事情によって率を変えるという傾向があります。たとえば50〜60%程度の率を用いるというケースもあります。
担保に関する判断基準と運用傾向
あ 枠組み
(強制執行停止について)
担保(保証金)の要否、額をいくらにするかは、裁判所の裁量による
い 主な判断要素
本案訴訟における申立人の勝訴(不服申立の認容)の可能性
疎明の程度
本案判決がされるまでの期間(の予想)
う 実務の運用傾向
ア 過去
かつては、実務上、判決の認容額の一定割合を基準にやや形式的に担保の額が決定する傾向があった
イ 現在
現在は、判決裁判所が自ら、または執行停止の裁判を集中的に扱う部署がこれを行うことになった
※民事訴訟法404条
→事件記録を実際に点検した上で、事案に応じた実質的な担保の額が判断される傾向に変わった
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p441
※滝井繁男『控訴または督促異議の申立てに伴う執行停止の要件及び手続』/『新民事訴訟法大系(4)』p275
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p334、335
7 決定による執行停止の効力
裁判所が執行停止を認める決定をした場合に、自動的に強制執行が停止されるというわけではありません。被告(申立人)が決定書をもらい、それを執行裁判所に提出する必要があります。
決定による執行停止の効力
あ 決定自体の効力
執行停止の決定により、当然に強制執行が停止されるわけではない
※大阪高裁昭和60年2月18日
い 決定書提出
執行停止の裁判を受けた当事者が、執行裁判所に執行停止の裁判の裁判書(決定書)を提出する
→強制執行は停止さえる
※民事執行法39条1項7号
※加藤新太郎ほか編『新基本法コンメンタール 民事訴訟法2』日本評論社2017年p441
※秋山幹男ほか著『コンメンタール民事訴訟法Ⅶ』日本評論社2016年p335
8 関連テーマ
(1)仮執行宣言の失効と原状回復(民事訴訟法260条)
たとえば、控訴審判決で仮執行宣言がなくなった(失効した)場合には、それ以前になされた、仮執行宣言による強制執行については原状回復義務が生じます。これに関する理論は別の記事に整理してあります。
詳しくはこちら|仮執行宣言の失効と原状回復(民事訴訟法260条)(解釈整理ノート)
本記事では、仮執行宣言がついた判決の言渡の後、控訴するとともに申し立てる執行停止について説明しました。
実際には、個別的な事情によって法的扱いや最適な対応が違ってきます。
実際に仮執行宣言がついた判決に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。