【建物賃貸借の更新料特約の文言の解釈(適用される範囲・裁判例の集約)】

1 建物賃貸借の更新料特約の文言の解釈(適用される範囲・裁判例の集約)

建物賃貸借の更新料を支払う特約(更新料特約)について,以前は無効とする見解もありましたが,平成23年判例で,原則的に有効ということになっています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料特約の有効性判断基準と不払いによる解除の効力
この点,実際には,賃貸借契約書の条項(特約)の文言(言葉)をどのように読み取るか,ということが問題になるケースもよくあります。
本記事では,更新料特約の文言の解釈について,具体例を紹介しつつ説明します。

2 『更新される場合』に法定更新を含むと判断した裁判例

『更新される場合』に更新料を支払う,という条項(特約)は,法定更新と合意更新の区別がありません。そこで,両方の場合を含むといえます。
なお,この裁判例では結論として特約を無効としていますが,平成23年判例の後(現在)では有効となる可能性は十分にあります。

『更新される場合』に法定更新を含むと判断した裁判例

あ 更新料特約

『本契約が更新される場合,賃借人は更新料として新賃料の2か月分相当額を賃貸人に支払うものとする。』

い 裁判所の判断

法定更新にも適用される(ことを前提に有効性を判断している)
※東京地判平成12年9月8日

3 『更新を希望』を合意更新の意味とした裁判例

更新料特約の中に,『更新を希望するとき』という言葉がありました。この言葉から賃借人が積極的に賃貸人に働きかけるという意味が読み取れます。裁判所はこのような思考回路で,これは合意更新(だけ)を意味する(法定更新の場合は更新料の支払は不要である)と判断しました。

『更新を希望』を合意更新の意味とした裁判例

あ 更新料特約

『契約期間満了の場合,賃借人において契約更新を希望するときは,賃料の6か月分を更新料として支払う』

い 裁判所の判断

更新料特約は,文言上,明らかに合意更新の場合を想定しており,法定更新の場合を念頭に置いていない
更新料特約は,法定更新の場合には適用されない
※東京地裁平成20年12月26日

4 他の条項との比較と法の趣旨から合意更新に限定した裁判例

賃貸借契約書には,多くの条項があります。このケースでは,連帯保証人の責任を定める条項と更新料条項を比較して,その解釈をしています。
まず,連帯保証人の条項には,『合意更新・法定更新にかかわらず』という言葉が入っていました。つまり法定更新を含むという意味です。
一方,更新料特約にはこのような言葉がありませんでした。このふたつを比較すると,更新料特約の方は法定更新を含むわけではない,という意図を読み取れます。
次に,更新料特約には,『更新に必要な書類を・・・提出』という言葉がありました。更新に関する書面の調印をするのは合意更新だけです。
以上のことから,裁判所は,更新料特約が対象とするのは合意更新のみであると判断しました。
なお,これとは別に裁判所は,借地借家法の趣旨から法定更新の際に更新料を支払うことは不合理であり,特約は無効であるという判断もしています。この部分については,その後の平成23年判例で否定されたといえます。

他の条項との比較と法の趣旨から合意更新に限定した裁判例

あ 更新料特約

『賃借人は,契約を更新しようとする場合は,契約期間満了時までに新賃料の1か月分相当額の更新料を賃貸人に支払うとともに,更新に必要な書類を賃貸人に提出しなければならない。』

い 連帯保証人条項(比較のため)

『連帯保証人は,賃借人と連帯して合意更新・法定更新にかかわらず,契約が存続する限り,契約から生じる賃借人の一切の債務を負担します。』

う 裁判所の判断(条項の文言の解釈)

更新料特約(あ)は,連帯保証人条項(い)と異なり,合意更新・法定更新を問わず約定が適用されることが一義的に明らかとなるような記載がなされていない
むしろ,更新料特約(あ)の記載が,賃借人が契約を更新しようとする場合に,契約期間満了時までに更新料を賃貸人に支払うとともに,更新に必要な書類の提出を求める内容であることからすれば,更新料特約(あ)は,賃貸人と賃借人が合意により賃貸借契約を更新する場合を念頭に置いて締結されたものと解するのが自然である
更新料特約(あ)の記載から,賃貸人と賃借人が,合意更新されるか法定更新されるかにかかわらず更新の際には更新料が支払われるとの意思を有していたものとは認め難い

え 裁判所の判断(借地借家法の趣旨)

法定更新の制度は,賃借人が期間満了後に土地又は建物の使用を継続している場合に,賃貸人に更新拒絶の正当事由が備わらない限り賃借人による使用継続という事実状態を保護して賃貸借契約を存続させようとするものである
賃借人に何らの金銭的負担なしに更新の効果を享受させようとするのが法の趣旨である

お 裁判所の判断(結論)

更新料特約は,合意更新を前提として規定されたものであり,法定更新の場合には適用されない
※東京地判平成21年12月16日

5 『合意更新する場合』から合意更新に限定した裁判例

平成23年判例(最高裁判例)は7月に言渡でしたが,その直前である平成23年4月の東京地裁の裁判例です。
更新料特約が『協議によって更新した場合』を前提としていると読み取れるものでした。そこで,当然ですが,更新料の支払義務が生じるのは合意更新のみであると判断されました。単純な言葉の解釈として分かりやすいものです。

『合意更新する場合』から合意更新に限定した裁判例

あ 更新料特約

『賃貸借期間満了の場合は,賃貸人・賃借人協議の上この契約を更新することができる。
前項によりこの契約を更新する場合には,賃借人は賃貸人に対し更新後の賃料の1ヶ月分の更新料を支払うものとする。』

い 裁判所の判断

契約書の文言に照らせば,更新料特約は,協議の上で本件契約を更新する場合,すなわち,契約を合意更新する場合に,賃借人に更新後の賃料の1か月分に相当する金額の更新料の支払義務を課したものである
※東京地判平成23年4月27日

6 『合意があれば更新できる』から合意更新に限定した裁判例

更新料特約の最初に『互いの合意があれば』という言葉があったケースです。裁判所はこの言葉が重視し,更新料特約が適用されるのは合意更新のみと判断しました。
平成23年判例が,更新料特約が有効となるためには更新料特約の文言(言葉)が明確であることが必要であるという基準を示したことが影響したともいえます。

『合意があれば更新できる』から合意更新に限定した裁判例

あ 更新料特約

互いの合意があれば,契約を更新出来るものとし,更新料として賃借人は新賃料の1ヵ月分を更新時に賃貸人へ支払い,再契約を締結するものとする。』

い 裁判所の判断(記載の一義的・具体性)

更新料特約(あ)の文言の趣旨は,直接的には,賃借人の更新料支払義務が合意による更新の際に生じることを示すにとどまっている
法定更新の場合にも賃借人に更新料の支払義務が発生することが一義的かつ具体的に記載されているとは言い難い
また,同じく賃貸借契約にかかる重要事項説明書上,更新料に関しては,『更新料』との欄に『新家賃の1ヶ月分相当額』との記載があるのみであって,合意更新と法定更新のいずれの場合にも更新料支払義務が発生するのか否かについて特に明示がされているとはいえない
その他に賃貸人・賃借人間において,賃借人が賃貸人に対し法定更新に際しても更新料支払義務を負うことが明確に合意されたことを示す客観的証拠はない

う 裁判所の判断(結論)

賃貸借契約上,法定更新の場合に賃借人が賃貸人に対し更新料支払義務を負うことが合意されていると認めることはできない
※東京地裁平成25年10月21日

7 『協議の上更新』を合意更新の意味とした裁判例

更新料特約に『賃貸人・賃借人協議の上,契約を更新』という言葉があったケースです。
この言葉から,裁判所は,更新料特約が適用されるのは合意更新のみと判断しました。

『協議の上更新』を合意更新の意味とした裁判例

あ 更新料特約

『契約の賃貸借期間は,平成18年1月16日から平成21年1月15日までの満3年間とする。但し,期間満了に際し,必要があれば賃貸人・賃借人協議の上,契約を更新することができる。尚,更新料は新賃料の1.5ヶ月とする。』

い 裁判所の判断

更新料特約(あ)は,更新契約が締結された場合に更新料が発生することを前提として,これを新賃料の1.5か月分とするものである
契約書中には,更新料特約(あ)以外に更新料に関する定めはなく,更新料に限らず法定更新の場合を想定した定めは存在しない
→法定更新された場合に更新料を支払う合意はない
※東京地裁平成27年1月26日

本記事では,建物賃貸借の更新料特約の文言を解釈した多くの裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は大きく変わってきます。
実際に更新料の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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