【婚約を破棄しても慰謝料が発生しない正当な理由の具体例や判断基準】

代表弁護士三平聡史1 婚約破棄の正当の理由
2 婚約破棄(解消)の正当な理由による責任の判断
3 婚約破棄の正当な理由の典型的な判断要素
4 婚約破棄の正当な理由の具体例
5 婚約破棄の正当な理由の考え方の傾向
6 婚約破棄の正当な理由の判断の目安
7 婚約破棄の正当の理由と婚約のタイミングの関係
8 婚約を解消せざるをえなくした責任(破棄誘致責任)
9 婚約破棄の正当な理由と賠償責任の範囲の関係
10 慰謝料なしで財産的負担の分担を認めた裁判例

1 婚約破棄の正当の理由

婚約を破棄されても,必ず慰謝料請求が認められるとは限りません。
婚約破棄に正当な理由がない場合に慰謝料の賠償責任が生じるのです。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
実際のケースでは,当然,婚約を破棄したい理由があったはずです。
これが正当な理由といえるかどうかで意見が対立するトラブルが多いです。
本記事では,婚約破棄の正当な理由の内容や判断基準について説明します。

2 婚約破棄(解消)の正当な理由による責任の判断

婚約は法的に保護されますので,正当な理由がなく破棄すると,慰謝料などの賠償責任が生じます。
正当な理由があれば,文字どおり婚約破棄(解消)による責任は生じません。

<婚約破棄(解消)の正当な理由による責任の判断>

あ 婚約破棄の責任の発生

婚約の解消(破棄)に正当な理由がない場合
→慰謝料や財産的損害の賠償責任が生じる

い 法的構成

債務不履行責任or不法行為責任である

う 財産的支出の分担

婚約破棄の正当な理由があるケースでも
支出した費用の分担(折半)が認められやすい(後記※1
※東京地裁平成5年3月31日

3 婚約破棄の正当な理由の典型的な判断要素

婚約破棄の正当な理由は,文字どおり正当化できるかどうかで判断します。
婚約の成立までの過程や,その後,破棄に至るまでの多くの事情を元にして判断します。

<婚約破棄の正当な理由の典型的な判断要素>

婚約によって当事者に形成された関係
解消に至った双方の行為態様
婚約の合意成立の事情
性的関係・同棲の有無
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p22,23

4 婚約破棄の正当な理由の具体例

以上の説明は,抽象的ですから,これだけでは正当の理由をはっきり判断できません。
そこで,典型的な正当な理由として認められる事情を整理します。

<婚約破棄の正当な理由の具体例>

あ 異性関係

婚約を破棄された者に,婚約者以外の性的関係(男女交際)があった

い 重要な事情についてのウソ

婚約を破棄された者が,重要な事情についてウソを言っていた
例=実際とはかけ離れた収入額を言った,職業を偽っていたなど

う 性的不能

子孫を残すこと(出産)は夫婦の重要なイベントとして考えられている
→婚約を破棄された者が性的不能を隠していたことは正当な理由となる

え 回復不能な病気

婚約を破棄された者が回復不能な病気にかかった

お 経済状態の極度の悪化

婚約を破棄された者の経済状態が日常生活に支障が出る程度に悪化した

か 家族との協調関係が持てない

婚約を破棄された者の家族との協調関係が持てないと思える事情があった
→最近の裁判例では正当な理由を認める傾向がある(後記※2

き 暴力・モラハラ

暴力やモラル・ハラスメント(言葉の暴力など)
→共同生活ができなくなる強度の事情である

時代の流れとして,最近では正当な理由を認める傾向,つまり婚約解消を許容する傾向があります。

5 婚約破棄の正当な理由の考え方の傾向

実際には,婚約破棄の事情が不当とも正当ともいえるような状況が多いです。
正当な理由は考え方(評価)で決まるので,判断のぶれが大きいのです。
細かい事情の主張・立証は当然として,法的な考え方の主張も結果に大きく影響します。
考え方自体に,大きく2つの方向性があるのです。

<婚約破棄の正当な理由の考え方の傾向>

あ 判断基準のあいまいさ

婚約破棄の正当な理由の判断の幅(ぶれ)は比較的大きい
『い・う』の2つの方向性(見解)がある

い 正当理由を否定する方向の考え方

婚約の成立を認めた場合
→保護すべき状態である
→正当な理由は否定する方向性とする

う 正当理由を肯定する方向の考え方

社会的・経済的に男女の地位がある程度対等になってきた
→婚約を保護すべき必要性が小さくなっている
→拘束力を弱める=正当理由を広く認める方向性とする
近年はこの傾向が続いている
※東京地裁平成5年3月31日;趣旨
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p21,22

6 婚約破棄の正当な理由の判断の目安

正当な理由があるかないかの判断が難しい場合は,単純化して非常識か信義に反する(裏切るような態度)かと考えます。
正当かどうかの原点といえる判断基準(目安)です。

<婚約破棄の正当な理由の判断の目安>

あ 正当理由を認める典型的状況

婚約を破棄した者の相手方が相当非常識な行動をとっている
→婚約破棄には正当な理由がある

い 正当理由を認めない典型的状況

婚約を破棄した者の挙げた破棄の理由に合理性がない
それ以外の事情から,破棄した者の行動が信義に反するといえる
婚約破棄の動機や方法が著しい不法性を持つ
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p23

7 婚約破棄の正当の理由と婚約のタイミングの関係

婚約破棄の正当の理由を婚約のプロセス全体から考えてみます。
男女の出会いがあり,その後交際に進みます。
交際を通して,お互いの性格や生き方を理解します。
このような理解を前提として,将来夫婦としてやっていけそうだと思ったから婚約するのです。
ですから,婚約前に分かっていたことを理由に婚約を破棄するのは正当化できません。
逆に,スピード婚約では,婚約後に判明することが多く,正当の理由が認められやすいです。

<婚約破棄の正当の理由と婚約のタイミングの関係>

あ 婚約前に判明した事実

婚約をする前の段階で分かっていたこと
→正当な理由にはならない

い スピード婚約の特徴

出会いから婚約までが短い(スピード婚約)であった場合
→婚約後に,結婚を前提に交際する
=お互いに素直に自分の考えや気持ちを伝える
ここで初めて分かるor(不安には思っていたが)よく分かることも多い
→婚約の解消を認めるべきである
=正当理由が広く認められる傾向がある
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p23

8 婚約を解消せざるをえなくした責任(破棄誘致責任)

以上の正当の理由は,婚約を破棄(解消)したことが正当か(不当か)という意味でした。
実際にはこの関係が逆転して,婚約を破棄された側の正当性(不当性)が問題となるケースもあります。
要するに,関係を悪化させて相手が婚約を破棄せざるをえない状態にしたことの責任です。
分かりにくいので,裁判例となった具体的事例を用いて説明します。

<婚約を解消せざるをえなくした責任(破棄誘致責任)>

あ 破棄誘致の状態

男性Aの責任で
女性Bが婚約を解消せざるをえなかった
女性Bから婚約を解消した
(男女逆もありえる)

い 破棄誘致責任

BはAに対して損害賠償請求ができる
※最高裁昭和27年10月21日
※東京高裁昭和48年4月26日;同趣旨
詳しくはこちら|婚約破棄の正当な理由がある(慰謝料なし)と判断した多くの裁判例

う 形式面の排除

形式的にどちらが婚約解消の申出をしたのかは重要なことではない
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p22

9 婚約破棄の正当な理由と賠償責任の範囲の関係

婚約破棄に正当な理由があれば,一切責任が生じない,というわけではありません。
正当な理由がなくても,通常,婚約者2人の共同の出費(財産的損害)を分担(折半など)する義務があります。

<婚約破棄の正当な理由と賠償責任の範囲の関係(※1)

正当な理由の程度 精神的損害(慰謝料) 財産的損害(分担)
あり(強い) 支払わない 支払わない
中間的 支払わない 一部を支払う
なし(弱い) 支払う 大部分を支払う

分担する財産的損害の内容については,別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|婚約を破棄した者は出費や退職による収入減少の賠償をする(財産的損害)

10 慰謝料なしで財産的負担の分担を認めた裁判例

前記のように,婚約破棄に正当の理由があれば,慰謝料は発生しません。しかし,財産的な負担(出費)の分担義務はありえます。
具体的な事例についての裁判所の判断を紹介します。

<慰謝料なしで財産的負担の分担を認めた裁判例(※2)

あ 婚約と婚姻の準備

男性Aと女性Bが婚約した
結婚式の打ち合わせの際にAの両親の言動に異常性があった
Aの家に独特の家風があり行儀作法が細かかった
Aが母親の言いなりになっていた

い 婚約破棄

BがAとの結婚生活に入ることに自信を失った
Bの両親も結婚に反対した
Bから婚約を破棄した(解消を申し出た)

う 正当な理由の判断

婚約破棄には正当な理由がある(違法性はない)
→慰謝料の責任は生じない
一方,財産的支出の分担は認めた
※東京地裁平成5年3月31日
詳しくはこちら|婚約相手の家族への不信と親の反対による婚約破棄→慰謝料なし

本記事では,婚約破棄の正当の理由の具体例や判断基準について説明しました。
実際には,細かい多くの事情の主張や立証に加え,学説(見解)の主張も含めて,やり方次第で結果に大きな違いがでやすいところです。
婚約破棄の正当の理由(正当性や不当性)についての問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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